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近しい血脈を引き継ぐ者同士の結婚は、時としてその重なる遺伝子の特徴を強化するとされている。実は人間から精霊候補となった娘の子孫だという精霊神ティエールと、現在の精霊候補イザベルは同じ祖を持つ同族だった。しかも、遺伝が非常に近しい双子の姉妹から別れた運命的な遺伝の継承者同士である。
「いずれ、二人の子孫は精霊ではなく人間に戻る。そのような答えが、導き出されるということでしょうか?」
人間の血を引く精霊と人間から精霊となった娘の婚姻、さらにルーツまで同じとなれば、継承される遺伝子は人間の要素の方が強くなるのも当然。
ロマリオが導き出した推測は大方当たっていたようで、上官はうんうんと頷いて少し考えてから話の続きを始めた。
「まぁ……そういうことになるな。だが、精霊界に伝わる伝説の救世主が、やがて人間界に降りて人間として暮らすという人物像でもあるし。一概に、二人の縁戚婚を阻むわけにもいかぬのだよ。可能性として……ストップがかかることもあり得ると、教えておきたかったのだ」
「ティエール様とイザベルさんの間に生まれる子どもが、救世主的なポジションになるかも知れない。けれど、それは精霊界から神が地上へと流れ出てしまうことも意味する。二人の婚姻をどう捉えるか……その答えが複雑であることは、確かですね」
まさか、救世主伝説の話まで発展するとは思わなかったロマリオからすると、精霊界の秘密に触れてしまった気分だ。何故なら、救世主という存在は、地上が本当の意味で危機に瀕しない限り登場しない存在だからである。つまり、これから近い将来……救世主が必要となるような社会情勢に、地上が陥る可能性を示していた。
悪魔達が群れをなして蔓延る冥府といつしか戦が始まる予感は、大怪我をしたロマリオ自身薄々、勘づいてはいた。特に昨日は地上の王太子が地獄へ行くのを拒み、一時期は騒然となったくらいだ。あまり良い状態ではないのは、他の精霊達も気付き出した頃合いだろう。
「ふむ。実はな、地上での様子も変化が激しく、悪魔崇拝教がみるみる力を増しておるのだ。本来ならば、我々精霊族が地上の人間を助けていくところだが、上層部の考えはそうではないらしい」
精霊界と地上は時間の流れが多少異なり、地上の方が時の流れが速く進んでいく。社会情勢の悪化が速く感じてしまうのは、時間軸の差があるせいでもあった。それを考慮した上で、丁度良いタイミングで助け舟を出し、地上の人間が滅ばないように調整するのが精霊の役割のはずだ。
「えっ……どういうことですか? そんなに地上が危険な状態ならば、手助けするのがこれまでの常識では」
「この数年に渡って、地上では精霊信仰よりも悪魔崇拝教を選ぶ者が増えている。信仰を裏切っている地上の民を上層部の数名の意見では切り捨てる時期だと」
(切り捨てる時期……そんな風に人間達を見限る精霊が、上層部にも現れ始めたのか)
早朝は気分良く始まったはずなのに、本格的に仕事をする前に随分と重い気持ちになってしまいそうな情報である。どう切り返していいのか、ロマリオが紡ぐ言葉に迷っていると、小屋のドアをノックする音が響いてきた。
コンコンコン!
「すみません! ロマリオお兄ちゃん、きてますか? 怪我から回復したばかりと聞いているので、サポートに来たんですが……」
「おぉ……ロマリオなら、ちょうど休憩中だぞ。遠慮せずに入りたまえ」
ドア越しに聞こえてきたのは、鈴を転がしたような可愛らしい少女の声。その声の主は、ロマリオのはとこである年下の少女ミンファだった。




