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こっそりと新たな精霊候補イザベルの挙動を興味本位で見張っていたのは、ピンク髪の小妖精のリリアだ。紫色の蝶の羽とピンク色の髪は小妖精族の中でも美しいと評判で、本人も自分の可愛いらしさに自信たっぷり。そして自慢の可愛いさを武器に、ちょっぴりお茶目な悪戯をしても許されてしまうのが、小妖精の長所であり欠点でもあった。
何をやっても怒られるはずはないという妙な自信に満ちたリリアは、もしかすると自分が担当するかも知れない精霊候補のイザベルの様子をこっそり調べに行った。
(あれがイザベルちゃんかぁ……いかにも清純そうで、可愛い。ふうん精霊神様ってああいうタイプが好みだったのね)
精霊神様のお家のリビングにいつの間にか忍び込み、こそこそって覗き見する姿は人間だったら、とっくに捕まっているレベルだ。けれど、蝶々や小鳥のような存在の妖精を不法侵入扱い出来ず、むしろ幸せを運んできたと喜ぶものも多いとか。特に精霊界の住民のほとんどが、小妖精に対して寛大なのだ。
小妖精リリアに見られているとは気づかないイザベルが、ふと思い出したように妖精についてティエールに質問している。
「ねぇ小妖精って、悪戯好きって言っていたけど。本当に……平気?」
「あはは! サイズが小さいだけで人間と変わらない感じだから、そこまで心配しなくても平気だよ。まぁ案外、もう好奇心旺盛な小妖精が、花瓶の後ろからこっそりとイザベルを見つめているかも知れないけど……ね」
ただし、意外と厳しいところがある精霊神ティエールには、小妖精の可愛いさ攻撃はイマイチ効かず。むしろ、婚約者イザベルとの甘いひとときを邪魔されたくないようで、やんわりと撤退を促す台詞を花瓶越しに伝えられる。
「はうぅ! 精霊神様ったら、あんな風にイザベルちゃんの前で私が調査していることをバラさなくても。退却、退却ぅ」
渋々、ティエールとイザベルの家から退却してきたリリアは、拠点であるツリーハウスでようやく羽を休めた。今日はお月様もよく見えていて、夜のお散歩にはぴったりのムードだったのだ。あくまでも散歩のついでに立ち寄っただけで、二人のリラックスタイムを見てみようなんて気持ちで出掛けたわけではない。多分……。
「お帰りなさい、リリア。あれっどうしたの、随分とお疲れ見たいね。さては、精霊神様に覗き見していたことがバレたのね」
「ち、違うもん。覗きもじゃないもん。たまたまお散歩してたら、精霊神様のお家の前についちゃっただけだし。それに見つめていたのだって、ちゃ〜んとした調査の一環だもの。あの地域のロッジには時折遊びに行っても良いって、きちんと契約を結んでいるんだよ」
共同でツリーハウスに暮らす他の小妖精に囲まれつつ、言い訳を並べていくリリア。だが他の小妖精もリリアの好奇心を責めることは出来ない、むしろ新たな精霊候補について興味が抑えられない様子。
「ねぇねぇ、リリア! イザベルってどんな感じの女の子だった?」
「教えてよ、顔立ちは? 可愛い系、美人系? 性格は優しそう……それともツンデレ?」
「あぁもうっ質問は一つずつ、ゆっくりとっ!」
結局、小妖精達は新たな住民であるイザベルに興味津々。彼女達のお喋りは夜遅くまで続き、寝坊したリリアは大慌てで『お目付役の儀式』に参加するのであった。




