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王太子との婚約破棄後に断罪される私を連れ出してくれたのは精霊様でした  作者: 星井ゆの花(星里有乃)
精霊候補編1

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 リビングに設置された時計に目をやると、いつのまにか夜の12時を過ぎていた。特にティエールがお風呂から上がってからは、子供時代の懐かしい思い出話に花を咲かせてしまい、あっという間に時間が経ってしまったらしい。


「まぁ、もうこんな時間? そろそろ寝ないと……ええと、寝室は」


 そこでイザベルはふと気がつく、このロッジはまだ持ち主のティエールでさえ越してきたばかりで、部屋数の割に寝室が一つしかないのだ。だが長老様から厳重に注意されているように『ティエールとイザベルが夫婦の契りを結んで良いのは、精霊候補となってから七日目の夜』である。


『どんなに好き同士であってもこれだけは守って下さいね』


 長老様はからかうわけでもなく、本当に真剣な面持ちで二人に注意をしていた。いや……警告と捉えても良いだろう。おそらく人間から精霊に変化する中途半端な時期に、精霊神であるティエールと契りを結ぶことは何かのタブーに触れることなのだ。


「寝室はしばらくの間、イザベルが一人で使っていいよ。僕はこのリビングのソファで眠るから、気にしないで。ほら、実はこのソファ……倒すとベッドに早変わりするんだ」

「えっ……けど、ティエールだってそんな簡易なベッドで眠って、疲れてしまわない?」

「男はこういうちょっとワイルドな環境で、生活するのを嬉しく思うんだよ。キャンプに来たみたいで、楽しめるから」


 先ほどまで座って、寛いでいたナチュラルカラーのソファをガタンと変形させて、背もたれを倒す。確かにしっかりとしたソファは、ベッド状態になってもそれなりには寝心地が良さそうだ。しかし、一週間もの間ずっと簡易なベッドで眠るのは、彼の身体に響いてしまうのではないかとイザベルは心配になった。


 するとイザベルが戸惑っているのを慰めるためなのか、それとも自分も男であることをアピールするためなのか。ティエールはグイッとイザベルの肩を抱いて、優しく頬にキスを落とした。


「ティ、ティエール?」


 七日目の夜までは契りを交わしてはいけないという決まりから、てっきりイザベルはティエールが一切自分に触れてこないと思い込んでいた。実際のところは、契るのが先延ばしなだけで頬のキスは禁止されていない。

 顔を真っ赤にしてうろたえるイザベルにティエールは悪戯な表情で「イザベルもしてくれないの……おやすみなさいのキス」とおねだり。


「えっおやすみなさいのキス? そういえば、そういう習慣がある国もいくつかあるわよね」

「うん。それに愛情表現は、契りを結ぶことだけじゃないよ。共に語らったり手を繋いだり、料理を作ってあげたり、おやすみなさいのキスだったり」

「ティエール……そうよね。幼馴染みとはいえ、大人になってからのお互いのこと、まだよく分からないのに。長老様が止めなくても、契りを結ぶのは少し早いわよね」


 きちんと好き同士であることを確認しあってから契った方が、きっとずっと心の結びつきが強いはず。イザベルは決まりごとがなかったとしても、本当の意味で自分を大事にしてくれるティエールに感動した。


「キミと結ばれるまでは、まだコミュニケーションが足りないと思うんだ。だから……まずはおやすみなさいのキス」

「ええ……おやすみなさい、ティエール。良い夢を」

「キミもね、イザベル」


 子供のようにねだられて、ティエールの白く美しい頬に清らかな口付けを落とすイザベル。


 ――きっと今日は良い夢を見ることが出来る……哀しみを乗り越えて、希望を掴むために。


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* 2022年03月05日、長編版完結しました。ここまでお読み下さった皆様、ありがとうございました! 小説家になろう 勝手にランキング  i850177
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