083 畿内平定
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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083 畿内平定
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大永七年八月一三日。(一五二三年)
官軍(太政府軍)が卑賊軍(一向宗・三好連合軍)を蹴散らしたと聞いた和泉や摂津の国人たちがこぞって降伏してきた。調略に応じていたら問題なかったが、今頃やってきてもアウトだ。
紀伊で反抗していた国人も平定が終わった。玉砕した国人もいたが、元々数は多くなかった。
「所領は全て召し上げ、扶持米によって召し抱える。嫌なら帰って戦支度をするがいい。一族郎党皆殺しにしてくれる」
河内、紀伊、丹波、摂津、和泉、若狭で降伏した者たちへの沙汰は、同じだ。
太政府に逆らった者が、所領安堵などという夢物語を見るなどあり得ないだろう。戦後に降伏した者は所領召し上げ、戦前に降伏したら所領の半分を召し上げたうえで移封だ。慈悲の心で殺さずにおいてやるんだ。好きなように選択しろ。
降伏した国人は、全員大阪御坊の一向宗攻めに出した。最前線で必死に戦い、太政府への忠誠を見せろ。それで所領の召し上げ率を減らしてやる。
若狭武田の当主武田元光が縄をうたれ、庭に座っている。
首が太いな。肩の筋肉も盛り上がっている。なかなか鍛えているようだ。だが判断を誤った。こいつのせいで若狭の国人の多くは領地を失った。人の上に立つ者としては三流、四流だ。
「足利に殉ずるならそれで構わん。首を刎ねてやるが、どうする?」
降伏した者を殺しはしないが、武田元光は降伏したわけではなく最後まで抵抗して捕縛されたのだ。
「殺せ」
短く答えた武田元光は、覚悟を決めているようだ。それでお前の罪が消えると思うなよ。まったく馬鹿野郎が。
「いい覚悟だ。卑賊武田元光を死罪とする」
「お待ちください!」
待ったをかけたのは、安芸武田の光和だ。
「元光殿は同じ武田の者。どうか死罪だけは!」
「本人が殺せと言っているのだ。殺してやるのが情けというものだろう」
「そこをなにとぞ」
この二人も俺も同じ先祖を持つ武田だが、庇うほどの仲ではないと思うのは俺だけか? 史実では光和が死んだ跡目を若狭武田から出しているが、この世界では俺が支援していたからそこまで関係は深くない。
光和は熱血漢で情が深いと、これまでのことでなんとなく分かっていたが、ここまでとは思わなかった。まったく、面倒な種を残してくれる。
「光和の褒美と引き換えに元光の死罪は赦そう」
丹波、摂津と従軍して獅子奮迅の働きで武功を立てた。それに対する褒美を元光の命と引き換えだ。どうする?
「それで構いません。元光殿の命をお助けください」
考えることなく、即決したよ。人が好過ぎるな。一武将ならそれでいいが、家臣を率いる者としては、甘すぎる。史実で安芸武田が滅んだのも必然か。
「いいだろう、元光は光和に預ける。どう扱おうが光和の勝手だ」
「ありがとうございます!」
だがこういう奴は嫌いじゃない。光和が早死にしないように、導いてやりたくなる。
大永七年八月一四日。(一五二三年)
「どの面を下げてやってきたんだ、お前たち?」
「「「ははぁぁぁっ。面目次第もございません」」」
面目次第がないなら、その顔を見せるな。
「どうかお赦しくださいませー」
堺の商人たちが雁首を揃えて赦しを請いにやって来ている。
「警告しておいたんだがな」
「それゆえにこうして頭を下げに―――」
パチンッと扇子をたたむ。俺の怒りが伝播したように、その音は室内に響き渡った。
頭を下げれば赦してもらえると思っているのか? いいだろう、赦してやろうじゃないか。お前たちが武士ならその首を晒しているところだぞ。
「お前たちを赦してやろう」
「「「ありがとう存じます」」」
「五〇万貫を矢銭として持ってこい」
「「「なっ!?」」」
「堺は今後武田の直轄地とする。堺の会合衆は毎年一〇万貫を上納せよ」
「「「それはっ!?」」」
真っ青になったか。
「嫌なら堺を更地にするだけだ」
選択肢を与えてやるんだ、ありがたく思え。俺は鬼じゃないから、殺しはしないでやる。
「せ、せめて毎年の上納額を減らしてはいただけないでしょうか」
「五〇万貫は受け入れるのだな」
嫌々だが受け入れる。堺を更地にされるよりはマシなんだろう。しかしよくも五〇万貫なんて持っているな。石高として二〇〇万石の領地から得られる米の金額だぞ。
それだけの蓄えがこいつらにはあるということだ。多分今回のことでおけらになるだろうが、命があればまた稼げれると思っているのだろう。
「いいだろう。毎年の上納額は半額にしてやろう。言っておくが、これ以上お前たちに譲歩するつもりはない。そもそもお前たちを皆殺しにして、その財産を没収し、他の地から商人を堺に入れれば俺は困らんのだからな」
苦虫を嚙み潰したどころの顔ではないな。
俺は堺の商人とほとんど取引がない。唯一武田の傍流である下条春兼が堺で商人をしているが、この中にはいない。下条春兼は俺の命令を受け、三好への援助はしてないからだ。
「言っておくが、悪銭を混ぜるなよ。もし悪銭が混ざっていたら、この話はなしだ」
その顔は悪銭ばかりを出そうと思っていたな。甘いぞ、そんなことをしたらお前たちの首を堺港に晒して私財を全て没収してやる。
渋々了承した堺の商人たち。三好などに与するからこういう目にあうのだ。少し脅しすぎたかと思うが、これくらい問題ないだろう。殺されなかっただけでも儲けものと思え。
大永七年八月二五日。(一五二三年)
堺の商人たちが五〇万貫を納付した。
大坂御坊も落ちて、本当に更地になった。
一向宗は朝廷に助けを求めたが、朝廷はそれを相手にしなかった。そもそも朝廷の機関として太政府があるのだ。その太政府の命令を無視したということは、朝廷に弓を引く行為なのだ。助けてもらえると思うほうがおかしいだろ。
ただし本願寺実如は逃亡した。西国の大内を頼ったようだ。大内としては、来る武田との決戦に一向宗を総動員できるから悪くないだろう。
大内は滅ぼすことが決定しているから、一向宗とともに屠ってやろう。
それから細川高国は一色から山名に宿主を変えた。
一色よりは頼りになると思っているのだろうが、俺からしたら一色も山名も等しくカスだ。
「漸く畿内の制圧を完了いたしました。これよりしばらくは京の都の復興を最優先に行います」
「相国殿。無事に帰還されたこと、まずはお慶びいたす。畿内の統一もめでたいことだ」
関白二条尹房様の祝辞に、皆さまも頷く。
「まだ西国がございます。京の都の復興に目途がつきましたら、西国征伐を行います」
皆様が頷く。
「内裏の修繕のほうは予定通り皆様のほうでよろしくお願いいたします」
俺が手を打って合図をする。
襖が開きそこに山積みになった銭箱を見た五摂家の方々の口がポカーンと開いた。
「まずは一万貫ございます。内裏の修繕に使っていただければと思います。不足でしたら遠慮なく某か治部卿にお申しつけください」
堺の商人が矢銭五〇万貫を上納してこなくても、一〇万や二〇万貫くらいはすぐに用意できる。蔵に銭が唸っているのだから、好きなだけ使ってほしい。少しくらいならポケットに入れても構わないし、そういう公家は出て来るだろう。だが、そんなことに目くじらを立てるつもりはない。銭は使ってなんぼだ。使わない銭は悪銭以下の価値でしかないのだから。
大永七年九月一〇日。(一五二三年)
摂津と和泉に金丸虎義の第七軍団を入れる。丹波・若狭・丹後の一部には諏訪頼満の第六軍団を入れる。河内と紀伊には弟信貞の第一軍団を入れた。
まずは治安の回復、反乱分子の摘発だ。
若狭、丹波、摂津、和泉、河内、紀伊の検地も行う。これは普請方の長野憲業が主導して行う。利根川東遷事業で忙しいが、そっちは部下の三枝守綱などにやってもらう。
東北や関東の国人を、畿内へ移封すると喜んだ。京の都から遠く離れた東国の国人たちは、京の都に憧れのような気持ちを持っている場合が多い。全てではないが、そういった国人には主に摂津と和泉への移封を申しつけた。
さて、軍を出した佐竹、六角、北畠の処遇だ。
佐竹には飛び地になるが、紀伊の伊都郡を領地として与えた。分家を入れて管理させればいいだろう。弟をここに入れれば、お家騒動も起きないだろう。
六角家は現在近江の南部に三五万石ほどを領有している。飛び地を与えても良いが、この際だから移封しようと思う。さらに六角家と六宿老を切り離そうと思う。
六宿老は後藤、進藤、平井、蒲生、目賀田、三雲だ。この六宿老を独立させて、それぞれに領地を与えよう。合計で四五万石くらいになれば、文句はないだろう。
「六角家は陸前に移封する。陸前の黒川郡、加美郡、遠田郡、志田郡、牡鹿郡、栗原郡を与える。都合三〇万石だ」
六角定頼の目が見開かれる。驚愕と屈辱といった感情が渦巻いた目だ。
「お、お待ちください!」
慌てた進藤長久が思わず声を出す。六角定頼が「控えろ」と抑えた。
進藤は慌てて声を出したが、他の六宿老も承服できないと言った表情だ。陸前では京の都から遠いし、三〇万石では減封もいいところだから褒美じゃなくて罰だと思ったのだろう。
「家臣の無礼は、この定頼がお詫び申しあげます。どうかお許しください」
「進藤が慌てるのも無理はないが、話は最後まで聞け。いいな」
「申し訳ございませぬ!」
進藤が平伏して謝罪するが、俺は気にしてないと話を進める。
「今言ったように弾正少弼殿には、陸前に三〇万石を与える」
定頼が「ありがとう存じます」と頭を下げる。
「加えて後藤、進藤、平井、蒲生、目賀田、三雲に、それぞれ所領を与える」
「「「「「「っ!?」」」」」」
「六角を主家と仰ぐのは自由、その上でそのほうら六名には所領を与える」
驚いているな。悪戯が成功したようで、ちょっと楽しい。ここは勢いで言い渡してしまえ。などとは思わず、じっくり考えさせてから口を開こう。
六宿老たちには俺が気にしているという心証を与え、六角には最盛期の領地には及ばないが、しっかりと報いているんだと思わせる必要がある。
「後藤には陸前に三万石」
「ははぁ、ありがたき幸せにございまする」
「進藤には越後に三万石」
「お礼申しあげまする」
「目賀田には信濃に二万五〇〇〇石」
「相国様にお礼申しあげまする」
「平井には遠江に二万五〇〇〇石」
「謹んでお受けいたしまする」
「蒲生には紀伊に二万五〇〇〇石」
「身に余る光栄。感謝いたします」
「三雲には磐城に二万五〇〇〇石だ」
「お礼申し上げまする」
六宿老の後藤、進藤、平井、蒲生、目賀田、三雲に領地を与え、六角を立てつつ結束を緩める。いずれは六角家から完全に独立した家になるだろう。
それに六角を近江から離しても、この六家が残っていては意味がない。
「六角とそなたら六名の所領を合わせれば、四六万石にはなるだろう。加えて六角家の陸前は開発すれば倍近い石高にすることも夢ではない。以前の隆盛を再び取り戻すことも可能だ。皆の奮闘に期待する」
「「「「「「「ははぁっ」」」」」」」
開墾するかどうかは、六角次第。
しかも開墾して石高を増やしても、世の中は銭の時代になる。石高はないよりもあったほうがいいが、それだけでは貧しい国でしかない。
産業を興して領内に銭を行き渡らせることができるかどうかが、今後の肝になるのだ。六角がそれをしたら厄介な家になると思うが、産業振興は生半可なことではない。さて、どうなるか。
次は北畠だが、北畠はあまり活躍していない。
相手が一向宗ということもあってか、積極的に戦わなかったと聞いている。参陣してお茶を濁した感じだ。だから加増はなしにしようと思ったが、俺も天下に号令する武田の太政大臣様だ。一万石を加増してやることにした。飛び地だ。
「北畠少納言殿には磐城に一万石を加増する」
「は、はっ。ありがたき幸せにございます」
伊勢と磐城ではかなり離れている。直轄統治よりは分家を立てて統治させるほうがいいだろう。北畠具国がどのように判断するか、見守るとしよう。
あとは弟信貞に北近江の浅井郡八万石を与えよう。これで高島と合わせて一六万石の大名だ。
近江は武田一門か譜代家臣に与える。京の都に何かあったら、すぐに駆けつけてもらう。その時の旗頭は弟信貞だ。
「お前は京の都を睨みつつ、近江の旗頭となるのだ。良いな」
「はい!」
満面の笑みの返事だ。本当に分かっているんだろうな。まあいい。そこら辺は近江衆となった家臣たちに教育させよう。
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