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081 畿内平定

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 081 畿内平定

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 大永七年六月三日。(一五二三年)


 京の治安を乱す盗賊(離農農夫や浪人など)を徹底的に取り締まった。京の都だけではなく、山城全域の取り締まりだ。山狩りも厭わず徹底的にやる。


 京の都の再建も始まっている。せっかくだから二条城でも作ろうかと思ったが、足利を思い出して胸糞悪いから京の都に城は築かないことに決めた。どの道、山城の周囲は全部武田で固めるのだ。京の都に城など不要だ。


 そんな俺は九条様の屋敷に足を運んだ。俺が初めて京の都に来た時はかなり痛んでいた屋敷だが、今は見違えるように綺麗になっている。何度か戦禍にまみれた京の都だが、改築された九条屋敷は焼かれなかったようだ。


「内裏を建て替えてくれるのか」


 関白二条尹房様が前のめりになる。


「今の内裏は多くが古く塀などが崩れるなど傷んでおり、とても帝のお住まいになる場所ではないと心得ます。某では宮中の仕来りは分かりませんので、五摂家の方々にお骨折りいただければと」


 他の五摂家の皆様も九条様屋敷に集まっていただいた。今日は一条房通様もおいでだ。


「よく言ってくれた、相国殿!」


 近衛稙家様の目に涙が浮かぶ。他の方々も同じだ。


「資金は気にされず、帝が住まうに相応しい内裏にしてください」

「なんと礼を言ったらよいのだ。感謝するぞ、相国殿」


 九条尚経様が俺の手を取って何度も頷く。関東に都を移す遷都なんてしないからな。

 家臣の中には遷都したらどうかと言う者もいるが、関東平野は米どころにする予定だからしない。他の場所も同じだ。畿内を平定して武田と家臣たちで固めれば、京の都周辺は安定する。それで十分だ。遷都など面倒だし、内裏を建て替えるどころの話ではないからな。


「一つお願いがございます」


 皆様の表情が一瞬で固まる。内裏の再建と引き換えに、どんな無理難題を言われるのかと警戒したのだろう。俺はそこまで悪人ではないつもりだ。そういうの傷つくよ。


「亡き我が父信縄に、三位の位を賜りたく。伏してお願い申し上げまする」


 俺は深々と頭を下げた。

 幼い時に鬼籍に入った父へのたむけだ。生きている時には何もしてやれなかったから、これくらいはしても罰は当たらないだろう。


「さすがは相国殿だ。お上に奏上し三位が贈られるようにしよう」


 鷹司忠冬様が請け合ってくれた。


「ありがとう存じまする」


 四摂家の方々はさっそく内裏へ向かった。残ったのは一条房家様と一条房通様。


「相国殿の末の妹をもらい受けるのだ、お礼申し上げるがよい」

「相国殿。義兄弟としてよろしくお頼み申す」

「我が妹は行儀作法も知らぬ田舎者ゆえ、房通様にはご迷惑をおかけいたすと存じますが、何卒よろしくお願い申し上げます」


 話して分かったが、一条房通様は気さくな方だ。土佐で養育されていたためか、公家にしては体も大きい。きっと美味い魚を食べていたのだろう。





 大永七年六月五日。(一五二三年)


 武田屋敷で仕事をしていて、休憩するために庭に出た時のことだった。

 視界の端に見慣れぬ者がいた。まだ一五にもなってなさそうな少年だ。その少年は俺の顔を見るなり慌てて地面に平伏した。

 俺の小姓ではない。近習でもない。誰だ?


「そのほう、何者だ?」


 脇差に手をかける。俺の命を狙う奴は多い。ここが武田屋敷でも油断することは命取りになりかねない。


「は、はい。私は西岡久秀と申します」

「西岡……久秀? 聞かん名だな? 誰の家臣だ?」

「西村正利様にございます」

「正利のか……」


 後の斎藤道三の西村正利だが、今は不穏な動きは見せてない。俺を殺そうというのであれば、このような子供を使うと思えない。


「久秀と言ったな」

「はい」

「こっちにきて肩を揉んでくれ」

「えっ!?」

「肩は揉めないのか?」

「い、いえ、私などが相国様のお体に触るなど……」

「そんなもの気にするな。さあ、揉んでくれ」


 俺は縁側に座って肩を指差した。


「そ、それでは……失礼いたします」


 ふむ、いい感じじゃないか。


「なかなか揉み慣れているな」

「おっと……父の肩をいつも揉んでいましたので」


 おっとうと言おうとしたのか。出身は武士ではないのか。


「久秀は何歳になるんだ?」

「今年で一五歳になります」


 もう少し下かと思ったが、いい年齢だ。しかも肩揉み上手だ。


「父は何をしているんだ?」

「の、農夫です」

「そうか、農夫か。父は大事にしろよ」

「はい!」


 孝行したい時に親はなし、というからな。生きているうちに孝行してやれ。


「相国様」

「ん、正利か。久秀を借りているぞ」


 俺の脇で膝をつき、頭を下げた正利。


「久秀をどこで拾ったのだ?」

「はっ、某と同郷の者にございます」

「ほう、同郷か」


 って、どこだよ? 美濃じゃなく山城か近江辺りだったか?


「某はこの山城の西岡の出にございますれば」


 そう言えば道三の逸話に、京の都で油売りをしていたというものがあったな。実は正利の父親だという話を聞いたことがあるんだが、実際のところは知らない。


「西岡の出身だから西岡久秀か」

「はっ、左様にございます」


 出身地を家名にすることはよくある。不思議ではない。剣豪として有名な宮本武蔵も宮本村の出身だったという説がある。

 武田一門の叔父武田縄信も元は岩手を名乗っていた。これは岩手の郷を治めていたからだ。その地に馴染もうとしてのことかもしれぬが、地名を家名にする武士はかなり多いのだ。


 肩がかなり楽になった。西岡久秀には肩揉み名人の称号を与えよう。


「久秀は肩揉みの天才だな」

「お、恐れ入ります」

「久秀を俺にくれぬか、正利」


 近習にして毎日肩を揉んでもらおう。


「久秀をですか」

「お前の家臣を引き抜くのは心苦しいが、俺の肩が久秀を欲しているのだ」


 肩を揉んでいる久秀の顔を見る正利。嫌そうな顔してないだろ? 大丈夫だよな?


「相国様の直臣にしていただけるのであれば、久秀も喜びましょう」

「よし決まった。久秀は今から俺の近習だ」

「お礼を言うのだ、久秀」

「は、はい。ありがとうございます。相国様」


 久秀は庭に飛び降りて平伏した。

 これが俺と西岡久秀の出会いだった。


 久秀は目端が利き、如才ない。痒いところに手が届くというのか、そばにいるととても助かる男だ。

 それに文字も非常に綺麗で祐筆に丁度良かった。




 大永七年六月七日。(一五二三年)


 丹波を平定するために出陣した佐竹・六角連合軍に対して、細川高国は周辺国に援軍を頼んだが、援軍は()()来ない。


 若狭武田と丹後の一色は諏訪頼満の第六軍団が抑えている。若狭武田は臣従してこなかった。同じ武田でも俺は手加減しないというのに、まったく愚か者め。


 但馬の山名は援軍を出す準備をしていると報告があった。播磨の赤松も山名同様に出陣の準備をしている。


 摂津の三好は武田信貞と三浦義意の第一軍団が河内に攻め込んだことと、京の都にまだ四万五〇〇〇の軍が駐留していることで動きがとれない。


 一色、山名、赤松は足利幕府でも名門の四職だからか、太政府に従うことを拒否した。まあ分からないではない。足利に義理立てしたのだろう。それで家を潰してどうするんだろうか? 連合を組めば勝てるとでも思ったのだろうか?


 たしかに連合を組めば戦力的にかなりいい感じになる。時間は稼げるかもしれないが、時間がかかると俺にどんどん有利になるぞ。俺のところは常備兵だが、農民兵がほとんどのお前たちがどこまで抗えるか見てやろうじゃないか。


 丹波は攻めにくく守りやすい地形だと聞いている。佐竹・六角連合軍が苦戦するのは必定。であるならどうやって攻めるか? 武田に援軍を要請するしかないのだ。

 なんと言っても佐竹・六角連合軍に火薬はない。大砲もない。武田にはそれがある。この差は大きい。





 大永七年六月一七日。(一五二三年)


 弟信貞が率いる第一軍団が河内を平定したと報告があった。もう少し時間がかかると思っていたが、なかなかどうして、やってくれる。

 あいつは頭が良いのに、板垣信泰のように戦場に出たがる。戦においては頭をフル回転させてどう戦えばいいのかを考えて、それを実践しているのだろう。

 経験は浅いがこのまま成長すれば、叔父縄信や板垣信泰のような武田の柱になるだろう。楽しみなことだ。

 弟信貞にはそのまま河内に駐留するように命じた。


「さて、信泰」

「はっ!」

「お前の出番だ」

「この時を待っておりました!」


 そこまで待たせてないはずだ。まったくこいつは。


「板垣信泰。第二軍団に出陣を命じる」

「はっ!」


 嬉しそうだな。


「伊勢氏綱には第二軍団の軍師を命じる」

「ありがたき幸せ」


 信泰と正反対な静かな返事だ。


「飯富虎昌も従軍せよ」

「はい!」


 世紀末覇王のような顔をした源四郎こと飯富虎昌は、信泰が我が子のように可愛がっている。





 最近、武田家の各軍団の階級と指揮する兵数の目安を明確に規定したから、おさらいしておこうと思う。

 足軽(部下なし)、足軽長(五人前後)、足軽頭(三〇人前後)、足軽大将(一〇〇人未満)、侍(三〇〇人未満)、侍頭(一〇〇〇人未満)、侍大将(三〇〇〇人未満)、部将(一万人未満)、家老(二万人未満)、宿老(無制限)。


 俸禄は次の通りだ。

 足軽(一石・二貫文)、足軽長(六石・一二貫文)、足軽頭(四〇石・七五貫文)、足軽大将(一六〇石・二五〇貫文)、侍(五〇〇石・八〇〇貫文)、侍頭(二〇〇〇石・三〇〇〇貫文)、侍大将(八〇〇〇石・一万貫文)、部将(二万七〇〇〇石・三万貫文)、家老(六万石・七万貫文)、宿老(一〇万石・一一万貫)。


 武田家の軍団長は家老か宿老になる。

 家老が兵一万五〇〇〇の軍団長だとしよう。武田家は家老に対して米で六万石と銭で七万貫文を俸禄として与える。あとは軍団長である家老が、部下たちに俸禄を与えるという制度だ。

 俸禄は足軽から宿老までこのように基準が決まっているから、中抜きして下の者の俸禄が減った場合、兵らが不満に思って軍団の弱体化に繋がるだろう。そのため俸禄がしっかりと支払われてなかった場合は、中抜きした奴に厳しい罰則がある。家老だからと言って、俸禄全てを自由に使えるわけではないのだ。


 この他に武具は武田家が全て用意する。戦になったら食料も用意する。

 常備兵たちの日頃は鍛錬に勤しんでもらう。鍛錬だけだと俸禄しかもらえないが、土木作業や田畑の開墾をすると手当が出る。


 侍になると軍団幹部として遇されるが、足軽大将でも一〇〇人を指揮できる。現代風に言うと、足軽大将が大尉くらいの位置づけだろうか。

 飯富虎昌は足軽頭だから部下は三〇前後だが、ここで手柄を立てれば足軽大将に出世できるだろう。


 現在、武田軍に宿老は三人しかいない。第一軍団長の武田縄信、第二軍団長の板垣信泰、そして俺だ。当主の俺が宿老とかおかしいと思うかな? まあ、軍団を率いる身分として家老や宿老があるということだ。


 本来は甘利宗信も宿老だが、引退してしまったからな。

 そろそろ誰かを上げてもいいんだが、全員というわけにはいかない。それにあまり多すぎても困る。そこら辺の塩梅を考えるのは、意外と大変なのだ。


北畠具国(きたばたけともくに)。そのほうにも一向宗攻めを命じる。信泰の指揮下に入れ」

「しょ、承知いたしました」


 まだ一九歳の若者が、慌てて頭を下げた。体は大きくがっしりしているほうだから、鍛えていると思う。父親が四年前に他界したことで若くして家督を継いだのが、この北畠具国だ。

 伊勢国国司ではあるが、守護ではない家柄。建武の新政後に南朝に所属した北畠は足利幕府からは守護に任じられなかった。足利尊氏などと争い、南北朝合一後は北朝系によって天皇位が独占されるようになったことに反発し挙兵したりしていたためだろう。どちらかというと、公家色の強い家のように思う。


 二日後に板垣信泰率いる第二軍団二万と北畠軍四〇〇〇が出陣した。海からは志摩水軍と紀伊水軍も出陣。陸と海から一向宗を包囲殲滅する予定だ。

 陸と海からの包囲殲滅は長島でも行った。信泰の得意分野だ。猪武者のような言動が多いが、信泰は我慢ができる将だから大丈夫だろう。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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[一言] ボ、ボンバーマン登場!!!
[気になる点] いつも楽しく読ませていただいております。気になると言いますか、あれ?この人まだこの頃この名前じゃないよね?って思った人がおりまして、まぁ、創作上、のちの名前を統一名として使ったのか、父…
[一言] 畿内は古から複雑な土地。 史実の三好長慶でも掌握するのには苦労したはず。 信虎はどう平定するのか見物です。
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