93.フロストダイス
ぎょろちゃんに乗ってマップを2つほど進んだところで柚子が振り返る。
『せっちゃんストップじゃー! 一応ヘイト用に石ころ拾っていってほしいのじゃ』
『了解です』
辺りはだいぶ乾いた土地になってきた、木はほとんどなく、岩肌が見えている乾いた土地だ。
『ここに出るのはノンアクティブばかりじゃから、EP回復もしてしまおう』
アイテムポーチからおにぎり出してモグモグする。案山子がローレンガで仲良くなったチーズ屋のおばあちゃんに、チーズ以外も習いだしたらしい。
石はかなり拾った。途中からぎょろちゃんが、舌でびよんと石を回収してくれるようになった。
ぎょろちゃん、頭が良い気がする。
途中風魔法攻撃をしてくる敵がいたのだが、それを同士討ちさせるように動いていたのだ。
魔法特性があると、ヴァージルが言っていた。もしや知力高い?
魔法防御壁張ってくれるとも言っていたし。
正直愛着は湧いてきているのだ。爬虫類そんなに嫌いじゃないし。蛇は怖いけど、カエルトカゲ系全然いける。
カメレオン可愛い……。
赤水晶をあげて、再びぎょろちゃんに乗る。
最初のひと蹴り後は、後ろ脚から火を噴いてとても上手に飛ぶ。
ほぼ水平飛行をしていて、一体どんな原理なのか謎だ。
誰か足元に行って燃えながら確かめて欲しい。多分火以外に風魔法とか使ってるように思える。そうじゃないとこの滑るような水平飛行は実現しないだろ。
尻尾の付け根にまたがり、後ろ足にそっと足をかけさせてもらっている。
マップをもう一つ移動し、次へ行く前に柚子から注意が入った。
『砂漠マップに出たら、気をつけるのはサンドワームじゃ』
『なんか想像つく〜』
『私が基本攻撃をするから、せっちゃんは申し訳ないがヘイトを取ってほしい。詠唱時間を稼いでくれ』
『わかった。サンドワーム出たら騎獣どうする?』
『あのイケメンが、騎獣は賢いと言っていたからなぁ。もしかしたら避けてくれるかもしれんし、乗ったまま行くか……』
『じゃあぎょろちゃんもそのままで』
『そんなにうじゃうじゃはいないのじゃ。せっちゃんに経験値が入らないのが申し訳ないが』
『そこは気にしてない』
『早くあのイケメン連れて狩りに行くのじゃ……NPCとの2人パーティーならレベル差適用外らしいから、上がるそうじゃよ。運営公認養殖ができる!』
『それスキル育たないからやなんだよ~』
なんてことを言いながら、マップをまたいで砂漠だ。
『おおお!! すごい! 砂丘がきれい!!』
風の波の跡が残っていていい。
『ピラミッドダンジョンもあるぞ〜ミイラ男に巻き付かれる』
『えー、面白そう』
『もう少しレベルが上がらないと、はっちゃんが大忙しじゃよ』
結局レベルかっ!!
しかしほんとに風景がいい。他のマップもそうだが、初めての場所の新鮮な世界が、VRMMOのいいところだった。いろんな場所を見てみたいという気持ちがむくむく芽生えてくるのだ。
アンジェリーナさん、本の買い付けとかで連れてってくれないかなぁ〜一緒に旅とか、ロマンだ〜!! まあ無理だろうが。
と、急にぎょろちゃんがくるりと回った。ほんとにあまりに急なことで、背中から落ちそうになるが、落ちる前にまた水平飛行に戻る。
突然の動きの理由は、すぐわかった。
『せっちゃん出たぞー!!』
『でっっかっ!!!』
サンドワームが砂の中から薄茶の身体を思い切り突き出し、俺たちめがけて飛び出してきていた。
大きさ……ぎょろちゃんごと丸呑みされちゃう巨大な筒状だ。
口の中がちらっと見えたが、歯がギザギザでエグい。
あんなのに食べられるのは嫌っ!!
「それじゃあ始めるのじゃっ【フロストダイス】!!」
俺はヘイト係。
なるべく柚子の方へいかないように、ぎょろちゃん頼りの避けながらも自分を追いかけさせる役目。
むずっ。何その難易度。やったことないのを騎獣にのっていきなりできん。ぎょろちゃんから降りようかとも一瞬思ったが、あのサンドワームの大きさと出現の仕方考えると【気配察知】があったとしても砂の中からお口ぱっくり開けてこんにちわされ、そのままINしてしまいそうで怖い。
『よっしゃ、私の運試しじゃ! そりゃぁ!』
【フロストダイス】とやらで手元に出てきた何かを投げると、紫の星のエフェクトとともにキラキラと弾ける。2という数字が空に2つ浮かぶ。
『2のぞろ目ぇ……4秒じゃ足りぬ……せっちゃんよろ』
瞬間、サンドワームに凍結エフェクト。
フェアリサルースが【フロストサークル】で凍った時のように固まる。
が、すぐ動き出した。
俺は石を投げる。
「【投擲】! こっちだよ!!」
3つほど投げたところで柚子の魔法が発動。
「【アイスアロー】!!」
青白い、冷気を纏った氷の矢が10本。
柚子から放たれサンドワームに突き刺さる。
『うわぁ……きもーい』
「【フロストダイス】」
柚子がまた氷のサイコロをサンドワームに向かって投げた。
「ぴぎゃーっ!! 1と3ってぇ」
柚子の悲鳴。
俺はまた石を構えた。
2のぞろ目で4なら1と3は3秒だろ!!
つまりこれは、サイコロ2つ投げてそのかけ算だけ凍結が入る魔法だ。
読み通りすぐ凍結は溶ける。
凍結させられた相手、柚子にサンドワームは向かうが、俺の【投擲】でなんとか牽制する。
「【アイスアロー】」
計20本の氷の矢に貫かれ、やっとサンドワームは動かなくなった。
『幸運初期値のつらみよぉ……一応足止め魔法なんじゃが、足止めにもならんな。これなら接敵前にせっちゃんに【フロストダイス】渡しておいて、せっちゃんに振ってもらう方がいいな。私も【投擲】伸びたから当たるようになってよかったが、以前は当てるところからじゃった……』
おー、そんなあれやこれやもあるんだな。
『【フロストダイス】は5分間保持できるから、それでいいか? 【アイスアロー】の詠唱時間をかぶせられるし、私が照準合わせて詠唱しだしたらこちらに来るヘイトを、せっちゃんの【フロストダイス】が消してくれるからな。石も節約しないとじゃ』
『了解。じゃあ5分ごとに近づく』
『よろしくじゃー』
俺はぎょろちゃんの背中を撫でて、アイテムポーチから赤水晶を取り出す。
「よろしくなぎょろちゃん」
ほぼ真後ろにある赤水晶を舌でべろりんと持っていった。すごいぞぎょろちゃん!
しかし、俺の幸運も初期値なのである。
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幸運初期値組の命運やいかに!!




