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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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92.風鈴職人の苦悩

 ガラス工房に行くのは初めてだ。

 熱い炉で細長い筒に息を吹き込んで、先のガラスを膨らます。そんなイメージだ。

 男たちが大汗をかいて必死に作り上げる芸術。


 目の前に赤髪お下げの小人族(ドワーフ)が顔を真っ赤にしてふうふうガラスを膨らましていた。


「あれ、せっちゃん?」

 汗だく小人族(ドワーフ)に抱きつかれそうになって生活魔法【洗浄】を発動だ。

「あ、綺麗になった。便利じゃのう、【洗浄】」

「柚子さんなぜこんなところに……」


「おい! 納期間に合わねえぞ、このゆずっこ!!」

「くっ……せっちゃんごめんだけど今忙しいのじゃ!!」


「お前用に炉を一つ空けてやってるんだぞ!」

「はいなのじゃぁ~あと1つぅ」


 香水瓶って言ってなかったか? え、香水瓶って膨らませるガラスなの?

 と思ったら、なんか柚子がこだわって作る部分だそうで、本来はガラス管を炙って引き延ばして作るらしい。

 複雑そうでよくわからない。しばらく後ろで見てたが、ガラス管を引いて色々な形に整えて引いてとすごく、大変そう。大変そうだが、とても嬉しそうにやってるのでまあ。

 赤いガラス瓶の蓋を作っていたので、きっと金入れたんだな。


 しばらく見ていて本来の目的を思い出す。

 どうやら店舗でなく工房に入ってしまったようだ。

 すぐ隣の建物に向かう。


 色々なガラス製品が並んでいる。コップ、瓶、皿、そして……風鈴がないっ!!

 なんでぇー!!


「あの、風鈴はないんですか?」

 お店のレジにいる人に聞いてみると、お嬢さんは困ったように小首を傾げた。

「すみません、最近とっても人気が出て、品薄なんです」

 あれま……。

「次はいつ頃できますかね?」

「職人の気分次第なところがありまして……」

 それは困る~。


セツナ:

柚子さん、風鈴職人のお兄さんの進捗どう!?


柚子:

なんじゃ、せっちゃんも風鈴目当てっ子か。


セツナ:

風鈴大人気みたいで今おつかい中。


柚子:

おつかいクエスト踏んだのか。

しかしなあ、兄弟子ちょっと今人生に迷ってるんじゃよ~。

隣でめちゃくちゃため息ついてるんじゃ。

私は納期が迫ってたから、ガン無視してたんじゃが……一緒に踏むか?


 ということで、柚子の納品を先に終わらせることにしました。

 木箱に詰まった香水瓶はびっくりするほど綺麗だった。


「このでこぼことげとげどうするの……」

「つまんでちょいちょいじゃな~だいぶ慣れて複雑な物を作れるようになってきたのじゃ」

 この装飾をウィスキーの瓶に生かすと意気込んでいた。


 届けるのもイェーメールの香水店だ。

 貴族の屋敷近くで今までになく高級感を出したお店だった。中が絨毯だ。香りの洪水かと思いきやそこまでではない。でも確かに、匂いが混じり合ったらよくないしな。


「柚子さん、今回も素敵な物をありがとうございます。しかも赤ガラスとは!! 最近は上級貴族の方々にも人気で、職人と会いたいとまで言われておりますよ。一度時間を作って一緒に参りましょう」

『おう……新しいクエスト始まりそうなのじゃ……まあ、多分もう一度来たときじゃな。今は置いておこう。行くぞせっちゃん!』


 一緒に兄弟子の悩みを聞くとなったところでパーティーは作っている。柚子作、チーム『酒盛り中』参ります!!


 元のガラス工房へ戻り、他の兄弟子たちがそれぞれのガラス製品作りに勤しむ中、部屋の隅の椅子に座ってため息をついている


「どうしたのじゃ、兄さん」

「おう、柚子か……」

「元気がないのじゃ」

「まあなあ……お前さ、香水瓶ずっと作っててこのままでいいのかって思わないのか?」


『ほらな、人生に迷ってるのじゃ』

『これ、クソ面倒くさいやつじゃない?』

『迷わないって言ったら終わりそうじゃ』

『柚子さんは酒瓶という大きな目標への過程だからなぁ……』

『へたに売れて、売れる物を作る方にシフトしちゃったヤツじゃ』

『納品納品言われてるんだな』


「風鈴が売れたのはいいんだよ……それは、よかった。修行の成果でもあるし」


『お、自分で解決するタイプのやつだ、こいつは』

『単なる相づちが欲しいだけのやつじゃな』

『これにアドバイスなんてしたら炎上だよ』

『うんうん頷いておくのじゃ』


 俺と柚子は彼の側に立って聞いている風の演技。


「売れる絵柄を作って、売れない絵柄を廃棄して、形が悪かったら即割って……こんな一つ一つに向き合えない品物作りなんて、そんなの、嫌なんだっ!!」


 熱いな兄さん。

「もうどうしたらいいのか!」

 兄弟子は頭を抱えてしまった。


『お、これはトドメじゃな。では僭越ながらじゃー!』


「何かドカンと作ってみるのじゃ」

「そうそう、今の兄さんの集大成みたいなものを!」

 俺も援護射撃〜。


「そうか、そうだな、やってみる。――そこで相談なんだが」




 まあ話を聞くだけで終わるわけがなく、なんでも上質なガラスの素材があるとやらでそれを採ってきてくれないかとのことだった。

『おおう……柚子さん、俺と二人で行ける?』

『うーん、前衛がいれば二人でも余裕なのじゃが~あーまあノックバック系使って敵を近づけない方式、いや、それとも? というか、せっちゃん昼間のこんな時間に何してるのじゃ?』

『今日は有給です』

『おおう、有給の日までゲームを……』

『柚子さんや……それ以上は言っちゃいけない』

『失礼つかまつったのじゃ……そーちゃんたちは夜じゃろー、とりま二人でやってみてだめだったらお手伝い頼もう』


 そんなわけで、今回は頼まれたガラスの素材ケイシャを、砂漠地帯へ採りに行くことになった。なんでもここのケイシャの質が最高なのだとか。

 これを使って己のすべてを注ぎ込んだ物を作れば、気持ちも固まる気がすると言っていた。

 砂漠地帯はイェーメールの北の方にある。マップが何度か切り替わった先だとか。


「少しレベルの高いところを通るのじゃが、幸い我らには騎獣がある!! 出でよヒビキっ!」

「おいでぎょろちゃん」

 イェーメールの東門。そこからぐるっと北へ行く。


『せっちゃん、とにかく私の後ろをダッシュなのじゃ。体勢を低くして、GOじゃ!』


 というわけで、俺と柚子という紙装甲コンビは旅に出たのである。


ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。

誤字脱字報告も助かります。


騎獣があれば無理矢理移動が多少可能になります。

ということで、セツナと柚子がガンバル回!!

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― 新着の感想 ―
2人が、かわいい ほのぼのするなあ
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 酒盛り中で油断して防具とか外しているから紙装甲なのか(違う)
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