91.風鈴のおつかい
その後、ヴァージルはさすがに疲れたということで、イェーメールまでポータルで帰りそこでお別れ。
俺たちは混み合う前にとイェーメールの赤水晶掘りに向かった。
基本それなりの混み具合だ。緑水晶掘りで小銭を稼ぐ者たちがいる。
だが、俺たちの今日の目的は赤水晶である。
少し奥に向かって、せっせと掘り進めた。赤を狙うと緑や他の色が出る不思議。
『だけど、何に使うか謎だった赤がこうやって必要になったってことは、青や黄色もなんかありそうだよな』
『クランハウスのストレージに1枠分ためておいてもいいかもな』
『こうなると、クランハウスのストレージと、部屋のストレージの容量増加欲しくなるわね……』
『冒険者ギルドの冒険者専用ストレージ、そんなに枠ないしなあ』
『恵まれているほうだけどね、私たち』
『大容量アイテムポーチを手に入れるか……』
『安いのだととんでもないリュックサック背負わされることになるのよ~嫌だぁ~! ださーい!! 私の衣装に似合わない! あ、セツナくん、この間言ってた鞄屋さん紹介して!』
『ああ、レラントさん。それじゃあ今度タイミングが合えば』
『俺も考えようかなぁ』
みんな【持ち物】の方は限界だもんなぁ。
とりあえずたくさん掘りまくって終了。今日はこれでログアウトだ。
次の日は、実は、休日ですので、ずっと寝……るのはさすがにあかんということで、平日手抜きし倒してる家のこととか、冷蔵庫の中整理したりなんだかんだして、ちょこっとログイン。
お昼寝ですよお昼寝。
きちんと計算してお昼にアランブレへ。
本読むのですよ!!
「こんにちは」
小さな声でお邪魔します。本屋だからね、一応。
すると珍しくカウンターに人の姿が。邪魔しないようにと本を物色しているが、どうしても耳に入ってきてしまう。
「そうそう、なかなかよい出来らしいんだけど、お店を休むわけにもいかなくって~」
「近いと言っても往復1日はかかるし、モンスターも出るものね」
「行商さんが来たらしいんだけど買い逃しちゃったのよね~」
ヤーラ婆のときと同じ気配がする……。
一応借りる本を手にカウンターへ向かうと、アンジェリーナさんが笑顔を見せる。
「いらっしゃいセツナくん。今日は2冊?」
「そうですね、とりあえずはここら辺を……こんにちは」
俺が来たらすっと横へ避けてくれたのだが、アンジェリーナさんと親しげに話していたなら俺も礼節を尽くすべき。
「こんにちは。若いのに昼間から読書かい?」
「セツナくんよ。彼はとても読書家で勉強熱心なのよ」
「へえ~」
とりあえずにっこり笑顔を返しておく。
「そうだ、セツナくん、今日は時間あるかしら?」
「もちろん。何かお困りごとですか?」
俺の質問にアンジェリーナさんがちらりと彼女の方を見る。
年の頃は、お母さん世代。なんだろうな。
「ええ、見ず知らずの子に悪いよ」
「セツナくんはよくイェーメールにも行くし、ついでの時に頼んでみたら?」
「イェーメールへのお遣いですか? 構いませんよ。昼は本を読んでいることがほとんどですけど、夜はやることもないし。その間に移動すればいいんで」
「彼、来訪者なのよ」
「ああ、そういうことかい。なら、街の移動もお手の物かね」
「イェーメールにはわりと頻繁に行き来してますよ」
「うーん、それなら、本当についでのときでいいから、欲しいものがあるんだ」
何でもとてもよい音色の風鈴が売られているという話だった。
「どこのどんな店ってのは知らないんだよ。行商人が売っているのをここで買ってるだけだから。ただ、ちょっと今ブームになっててね。私も気になってて」
「風鈴、ガラスタイプですか? それとも鉄製のとか」
「ガラスでね、絵付けは色々なんだけど涼しげできれいなんだ」
「絵……いくつかあったら俺の趣味になってしまいますけど、大丈夫ですか?」
「そこは気にしないよ。何かのついででいいからね!」
ついでを念押しして行く彼女に、俺は何度も頷いた。
店から出て行ったあと、俺はアンジェリーナさんに向き直る。
「あの、ついでってのはどちらの意味ですかね」
俺の質問に苦笑する。
「たぶん、早く欲しいわね、あれは」
だろうなぁ~。すぐ見つかるかもわからないし、仕方ない、行くかぁ! アンジェリーナさんがらみの依頼は即解決が鉄則だ! 好感度アップを目指して!
「じゃあ、行ってきますね」
「ごめんなさいね、読書時間を潰して」
「いえいえ、それではまた」
本を読むだけが好感度アップじゃないと思うんだな、これが。
アンジェリーナさんを取り巻くお悩み解決します!!
今回は時間をなるべく短縮したいので、出でよぎょろちゃん!!
騎獣石の前に赤水晶を出すとぺろっと舌が伸びてきて、ぼわ~んとぎょろちゃん登場だ。
ちなみに今日は世間一般は平日です。有給とれって言われちゃったんだよね。だからまだまだ騎獣はオープンされていない。人目にあまりつかないようにしたいのでちょっと走ってから乗って、イェーメールよりかなり手前で降りた。それでも時間はだいぶ短縮されているし、おかげで人にはあまり会わない。
目の前に出たミュスを片付けるくらいで、あとはささっと通り抜けて、第2都市イェーメールだ。
さて、ガラスの風鈴どこだろう。話しやすいのは冒険者ギルド。
「こんにちは~」
「おう、セツナ。この間はどうもな!」
なぜかカウンターの向こうにいるギルド長。俺のミュスの尻尾の処理もやってくれた。
「お聞きしたいんですけど、最近はやってるガラスの風鈴ってご存じですか? 知り合いが欲しがっていて」
「風鈴? さて……」
ギルド長は知らないそうだ。
と、受付のお姉さんが話しに入ってくる。
「知っていますよお。最近女子の間で大人気です」
「それじゃあ俺は知らねえや」
おっさんには無理だろうな。
「ここのガラス工場に併設されているお店で売っていますよ」
「ありがとうございます。行ってみますね」
いつもの地図を広げて場所を教えてくれる。
「柄も色もたくさんありますから、気に入りに出会えるといいですね」
うーん、クランハウスとアンジェリーナさんにも買って行こうかなぁ~。そんなに高くないって聞いてるし。
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アンジェリーナさんのおつかいクエスト始まります!




