89.騎獣決定
長い階段をえっちらおっちら登り切った俺たちは、さっそく石に石を食わせるという、なかなかにシュールな契約を行う。
これをやってしまえばもう騎獣を替えることはできない。
みんな緊張しながら赤水晶を騎獣石に近づけた。
「わっ」
石が、ぶるんと震えた気がする。
「もう1つ赤水晶を持っていてくれ。出てきたらあげるといい」
細かく振動しだした騎獣石が、ぶわりと膨れ上がり、それぞれの騎獣が現れる。
ソーダは青い目をしたライオンだ。毛並みの色は普通のライオンと変わらない。薄い茶色だった。
「かっこいい! 名前、名前かあ……プリン・ア・ラモード、通称プリンだな!」
名前……なあ。
ピロリは猫? と思ったら犬系だった。ワンって鳴いたよ! 毛並みは予想屋の言うとおり、もふもふしている。茶色というよりオレンジ色。チャウチャウに見える。舌ちょろって出てて、垂れ目の可愛いやつ。
「かわ、可愛い。ハナちゃんにするっ!!」
チャウチャウ可愛い。ハナちゃんも可愛い。
八海山は……狼だ。白い狼。めちゃくちゃ賢そうな顔してる。キリッと。狼ON狼になるなこれ。
「同種になってしまったが、これも縁だ。黄桜にしよう」
メスらしいけど、酒だよね、また。
半蔵門線は、残念、カエルは無理でした。馬だし。馬!! 黒いたてがみがふさふさ尻尾もふさふさのかっこいい馬! 羨ましいっっ!!
「お前の名前はシブヤだ。立派な忍者馬になろうでござる」
忍者馬……とは!!
案山子、念願の虎ちゃんです。しかも、黒ベースの縞模様がグレーという、かっこよいオブかっこよいじゃん。うわ、これにエルフが乗るのか。絵になりすぎる。
「もふ虎ちゃあああんッ!! これ、名前、すぐとか困る……ドロシーで」
そこの案山子なのか。
柚子は虎? 猫? 虎にしてはスリムで、豹にしては少しもふってる。なんだろう? と思ったらユキヒョウらしい。胸毛のあたりがしろふわしてる。黒いぶち模様と銀色にも見えるグレーだ。
「美人さんなのじゃあ~足が太いのがかわよぉぉ!! 名前はどうしよう。なんか、旨い酒……」
「ユキヒョウは珍しいね、私も初めてみたよ」
レア引いたらしいですよ、柚子さん。
「くっ、そなたの名前はヒビキだっ!!」
ウィスキーだな、絶対。
「飛行系は出なかったな。それで、セツナは?」
鳥さんもいるらしい。
さて、俺の子震えてるだけで出てこない。
「ほら、おいで」
怖くない怖くない、と撫でてみると、さらにブルブルしてた。
なんぞぉ!?
「……セツナ、もう1つ赤水晶を与えてみてくれ」
ヴァージルも不思議そうにしている。
言われるがままに二つ目の赤水晶。
近づけると、ぴゃっと何かが出てきて俺の手のひらから赤水晶をとっていった。
見たことあるんだけど……えっ、舌?
カエルなの!? 馬だよ、お前は馬だ。馬希望って言ったじゃんよ!?
そしてぶわりと膨れ上がった。
「おおお!?」
「何?」
「えっ、すご、えっ、ござ……」
そこに現れたのは――、
「トカゲ?」
「いや、違うぞセツナ君。これは、カメレオンだ」
言われてみれば目がぎょろりとしている。足が身体の横から出ている。尻尾も長く先はくるくる丸まっていた。
そして色。
なんと、メタリックシルバー!!
「カメレオン……」
手触りひんやりの起源やここに。
「カメレオン……」
「せ、セツナ……赤水晶あげようか」
ヴァージルの気遣い発動してる。
ちなみにクランメンバーは笑い転げてるのと、羨ましがってるござるが一匹。
「セツナくん、名前、名前つけないと」
知ってるよ! ウィンドウ開いてるからっ! くっそ。俺の愛馬!!! は、爬虫類は予想外だってー!!!!
赤水晶を取り出すとしゅっと舌が伸びる。
これあのカエルに酷いことした呪いかなにかか?
「セツナ、これはとても珍しい。正直、初めて見た。予想屋もたぶん予想しきれないものだ」
「名前……名前……」
俺の目の前にとてつもなくでかい爬虫類。なんだろう。同じ大きさになったら昆虫が一番強いって言うじゃん? 爬虫類も普通に怖いぞこれ……。
「名前……目玉大きいな。ぎょろちゃん……?」
《騎獣カメレオンの名前を『ぎょろちゃん』で登録しました》
間違えた、ちゃんまで入れちゃった。
アンジェリーナさんに見せられないよう……。だって一歩間違えて見せてって言われてさ、颯爽と乗馬服で先を行くアンジェリーナさん。
その横をカメレオンウォークで行く俺。
カメレオンウォーク知ってる? 前に行く? 行くの? 行く、行こうかな、よし行った、次! 次の足前にだ、す? みたいな揺れた歩き方なんだよ……。こいつに乗ったら酔わない? 俺。
今ぎょろちゃんじっとしてるけど、どう歩くの……?
「それじゃあ、発着場まで騎獣で行ってみる、か?」
みんなチラチラぎょろちゃん見てるし!! いや、俺も興味あるよ。外から見たいけど!!
みんなそれなりに早い。飛ぶように走るタイプ。これは、地面があるところしか行けない種類だそうだ。地を蹴って、空を行くみたいな。
飛行タイプは希少らしい。ヴァージルのいる聖騎士団の団長でも持っている人は一人だとか。
そして問題のぎょろちゃん。
カメレオンウォークではなかった。やっぱりあれ、酔うし前に進める気がしないよね。
ただ、予想の枠を越えてきやがった。
後ろ足これ、火ィ噴いてない!?
浮いてる。なんなら一番上飛んでる!!
『たまにいるんだよ、魔法特性が強いタイプの騎獣だね』
騎獣博士のヴァージル先生が教えてくれましたよっ!! 本でも見たけど。魔法に対する耐性も強いらしく、移動中の攻撃などには魔法で防御壁を張ってくれるそうだ。
『素晴らしい騎獣だよ、セツナ』
イケメンスマイル付き。
手放しに喜べないこの複雑な気持ちを……くっそ……馬と走れねえのよ。俺のロマンス返せ。
『羨ましいでござるよセツナ殿。いやマジで』
『いるだけで注目の的だろ……セツナ、そろそろクランメンバーって発表しておこうかな。どんどん言い出しにくくなってきてる……』
『深淵あたりにはもう言い出せないわよ?』
『深淵のコルニクスではセツナ君噂の的ッ!』
『え、なんで?!』
『なんでじゃろうなぁ~』
俺が何したんだっての!
『まあ、みんな騎獣を手に入れられてよかったよ』
『ヴァージルさんありがとうございます!』
クランメンバーは笑顔でお礼を言っていた。
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そんなわけで、ぎょろちゃん。
実はXで、ちょっと前に流れてきた卒業制作のカメレオン(人が乗れるサイズ)に、一目惚れしまして。
騎獣は絶対これにしようと!!!
いやもうほんとに素敵で〜私が金持ちで敷地に余裕があったら買いたかった……。




