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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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8.街の衛生局員達

「アンジェリーナさん、生活魔法ってどうやって覚えられるんですか?」

「生活魔法は便利よね。あれは簡単なものだから、本を読めばだいたいやり方がわかるのよ。街の人も必要なものは覚えているわ」

 ここでも本か!


「お店にはありますか?」

「いくつかはあるけど、ここにないものもたくさんあるから、図書館に通ったり魔法使いギルドで買ったり、その道の達人に師事したり色々ね」

 沼の作者に師事すれば一発のやつだな。

 だが俺はアンジェリーナさんとの好感度を上げるために、ここで読めるものは全部読む!


「お店にある覚えられる教科書を全部借りてもいいですか?」

「うちにある教科書は図書館に行けばタダでも読めるわよ」

「構いません。俺はあの読書スペースが気に入っているので」

「そうなの? 図書館に入る許可を取るのはたしかに面倒かもしれないけど……」

「読めないものはまた検討しますよ」

 俺がとびきりのスマイルで答えると、アンジェリーナは苦笑いをしながら本を揃えてくれた。


『生活魔法大全01 着火』

『生活魔法大全02 補水』

『生活魔法大全03 洗浄』

『生活魔法大全05 ライト』

『生活魔法大全09 冷凍』

『生活魔法大全10 沸騰』

『生活魔法大全11 引き寄せ』


 どれもこれも効果範囲は小石程度のもの。

 なのでたぶん魔法カウントされないで覚えられるものになるのだろう。

 ステータスウインドを開くと、生活魔法という項目が増えており、そこにナンバーとともに生活魔法の名前が書いてあった。

 ふと、著者の名前を見るとどれもこれも同じ名前。

「沼の野郎じゃん」


 ジョン•ブラウン。覚えておこう。




 さて、あまりにも本を読みすぎるのもなんだ。

 また街をぶらつくことにしよう。というかいい加減チュートリアルを終わらせたい。


 ナビゲーションをオンにするとガイドが出るのでそちらへ向う。するとツナギ姿の二人がなにやらバタバタと走り回っていた。


「くっそ、逃げられた」

「あと少しだったのに!!」

「そこの下水道だよなぁ」

「うむ……」

 暗がりをふたりで覗き込みなにやら思案していた。

 

「どうされました?」

 話しかけるしか道はない。

 ガイドの矢印は二人へ向いているのだ。

「ん、ああ。あと少しで腹に子どもがいるミュスを捕らえられそうだったんだが……」

「あいつらはすぐ増えるから」

「接敵即断ですね」

 俺の回答にふたりは怪訝そうな顔をしてこちらを見た。そして何かに気づく。


「君、もしかしてミュスの尻尾を山程納品したという……」

「なんという僥倖!! セツナくんだよね? もし良かったら今からそこの下水道にミュスを狩りに一緒に行ってくれないか?」

「ミュスは我が仇敵。ぜひ同行させてください!」


 今回はパーティを組むチュートリアルだったらしく、ダンとビルという、衛生局員といっしょに下水の中へと向かった。

 こういった不快な匂い系はそこまで再現されないが、不快な感触はある程度再現されるらしく、ひんやりとジメジメした感じは伝わってきた。


「ミュスの急所は知っているかい?」

「ふっ……初級問題ですね。首の付け根です」

「正解! 俺がミュスを引き付けるからセツナくん、君がトドメをさしてくれ」

 ダンがそう言ったとき、俺の視界の隅にヤツの気配を感じた。

 鼠•即•斬! である。


「くっ、やつの爪で腕を怪我した!」

 ビルが左腕を抑えて片膝をつく。


 嘘だろ?

 え、接敵からの瞬殺だったが?

 と思ったが、チュートリアルだということを思い出す。これは寸劇なのだと自分に言い聞かせる。

「セツナくん! 初心者ポーションはあるか? それをビルにぶつけてくれ! 戦闘中は飲んでいる暇はない。傷に直接浴びせるんだ!」


 彼らはまだ戦闘中判定らしい。

 なんだかなぁと思いつつも、ギルドを回るたびにもらった初心者ポーションをビルに投げつけた。パリンとガラスの割れる音がして、ビルがこちらに親指を立てている。

 破片危ない。


「バッチリだ! あ、レベルが上ったね。おめでとう!」

 頭の上に花火が上がりレベルアップだ。

 ようやくレベル3。

 ん? 大量のミュス狩りした分は?


 これも後でわかったことだがチュートリアル中のレベルアップは、チュートリアルのイベント分しか反映されない。チュートリアルの途中で得た経験値は、チュートリアルが終了したときに一気に入る。

 チュートリアルを途中で辞めることもできる。ステータスウィンドウのチュートリアルをオフにすればいい。


 素早いことはいいことだと、敏捷を上げておいた。


「何やら怪しい気配がする……」

「少し静かに行こう。パーティーチャットを使えば意思疎通もバッチリだ」


『こうですか?』

『さすがセツナくん!』


 褒めて伸ばす系上司……最高だな。

 ちなみに近いから声として響いてくる。


 ギィギィと奴らの鳴き声が聞こえた。おお、集団か? 集団のミュスは見たことがない。ほとんどいつもは単品だった。

『ここは俺がファイアボールをあの巣に投げ込む。逃げてきたやつをセツナくん、頼むよ!』

『任せてください!』

 

「ファイアボール!」


 声に出すんかい! と心の中で突っ込みながら、巣が燃えて、一撃死しなかった個体が逃げてくるのを狩る。

 くくく、この俺から逃げられると思うな!!



 そんなこんなで気づけば……、

「かんぱーい!!!」

 ダンとビルに連れられ、街の居酒屋に来ている。


「いやぁ〜セツナくんホントにありがとう!! 素晴らしい動きだったよ」

「お役に立てて光栄です」

「取り逃がしゼロとか、もう衛生局に入らない?」

 え、本屋さんにならなるんだけど、その選択肢はないな。


「やめろよダン。彼は来訪者。この世界でまだ色々なことを経験したいだろうさ」

「ミュス狩りなら喜んでまた参加させていただきます」

 わりと本気です。

 ミュス狩り作業になってちょっと楽しくなってきた。夜も凌げるようになったし。お手伝いするのは吝かではない。

「嬉しいねぇ。あいつらホントに気を抜くとあっという間に増えるから。……ありがとな!」


《以上でチュートリアルは終わりです。冒険者ギルドで報酬を受け取りましょう》

《ダンからフレンド申請が届きました》

《ビルからフレンド申請が届きました》


 ステータスウィンドウを出すと、フレンドの欄がチカチカしている。

 ぽちっとな。


「また溢れてきたら誰かに伝言を頼むから、ぜひ来てくれ!」

「また一緒にミュス討伐しようぜ!」

 俺はふたりとがっしり握手を交わした。





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