77.ヴァージルのおうちと相棒
強引なヴァージルに連れていかれたのは、門のあるお屋敷でした。
イェーメールも貴族が住んでいる。顔がイケメン過ぎるのと、聖騎士とはいえども振る舞いがイケメンすぎるから、貴族だって言われても、ああ、そうですねって感じですが。イケメンだし。
ってか、聖騎士とかすごく地位がありそうだから、むしろ貴族がなるものなのか。あーありそう。
イェーメールも南側に門があり、南東に神殿。住宅街や店が広がり、北東の方向にこの街を治める領主と、その他の貴族の住まう屋敷が建ち並ぶ。だいたいが領主にゆかりのある貴族、ということになっているそうだ。つまり、領地なんだな、きっと。このイェーメールを中心とした領地の領主の住まいが街となっている。
「お帰りなさいませ、ヴァージル様」
品のいいおじさまが出迎えてくれる。
「私の友人のセツナだ。少し話をしたいから、部屋に通してくれ。俺は着替えてくる」
「それではセツナ様、こちらへどうぞ」
通されたのは応接間。たぶん。今までに座ったソファの中でも最高の柔らか座り心地だ。
そしてすぐさまメイドさんがお紅茶を入れてくださった。菓子つき。
ちょうどEPの値が減り始めてたので遠慮なくいただくことにした。
うん、一個その、持って帰っていいかな。案山子に食べさせてみたい。雷に打たれてインスピレーションレシピ降ってくるとかないかな。これ、マカロンさんですよ。映え必須のやつ。妹が修学旅行の京都でマカロンの専門店に行ったと言ってたな。あまうまい。
しばらくマカロン堪能していると、ヴァージルがやってきた。ホント、ラフな格好なんだよね。街歩き出来るレベル。それがこうもキマっていると、絶対アンジェリーナさんの前には出せません。
「急にこんなところに連れてきてすまない。人の耳を気にせず話せるところがなかなかなくて」
「いえいえ、お貴族様だろうとは思ってたんで大丈夫ですよ」
「そうか。……さっそく本題に入ろうか」
で、ファンルーアでどんなことがあったかを教えてもらった。
黒いフードの男たちの情報を得たヴァージルは、ファンルーアに入り、情報をくれた人物に会ったそうだ。
「彼は昔からの知り合いで、信用出来る男だ」
街の情報通らしい。
「神殿は以前より預言書を探しててね。聖騎士にもその情報を集めることは課せられたものだ。神殿のしかるべき場所に収めておくのがよいと、俺も思っているから」
そして、その情報通が例の店に黒いフードの男たちが出入りしているのを目撃し見張っていたという。
「あのたくさんの書き付け、あれを持ち去ったとして、誰に渡すのか、つまり、預言書を狙っているのは誰なのか、またはどんな組織なのかをはっきりしておきたかった」
それで、ヴァージルは何か情報がないか見張っていたが、どうにも手がかりがなく、とうとう忍び込んでみることにしたそうだ。
しかし、予想外に腕の立つ、魔法を使う者がいて捕まったという。
「まあ、俺1人がどうにかなろうが、セツナが聖騎士団に伝えてくれれば問題ないと思ったんだ……が、まさか単身乗り込んでくるとは……」
「いや、1人じゃないですよ、友人も手伝ってくれました」
「それにしても無謀だろう!」
「いやいや、それを言うならヴァージルさんの方が無謀ですからね」
正論突いてやったら黙った。
「聖騎士って、団、なんですか? 俺、こっちに来て日が浅いからそこら辺あまり知らなくて」
「ああ。そうだね、聖騎士はトップが13人。俺もその1人、第3騎士団の団長を務めている」
騎士団長さん無茶しすぎっすよ……。
第1騎士団は聖地に所属し、第2がアランブレ、第3がイェーメールを本拠地とするヴァージルらしい。第2都市に第3騎士団ってちょっとややこしいなと思いつつ、聖地という新しい場所にときめく。
「まあこのあと報告に行って叱られてくる。彼らの使った魔法も少し気になるしな」
「魔法?」
「これでもね、一人で侵入しようと思えるくらいには強いんだよ。それが、魔法が一切使えなくなった……たぶん、闇の魔法が関わっている」
闇魔法!
セツナ∶
闇魔法てどうやって習得できるの?
案山子∶
あれはねー、なんかしら闇落ちしないと無理って言われてるね!!
八海山∶
ゲーム内で話しかけるのが怖くて、NPCにすら頷いたりはいいいえの簡単な返事しかしてなかったら1ヶ月で習得したという話を何処かで聞いた。
半蔵門線∶
都市伝説レベルでござるね!
「まさか闇魔法が出てくるとは思わなくて、完全に俺の落ち度さ。だがそれは同時に、我々聖騎士団と相対する組織、邪教の集団だということだ」
「邪教!!」
ドロドロしてきたな。
「危ないからもう近づくなと言いたいが……セツナは知らぬ間に関わってしまいそうだなぁ」
「ハハハ」
それがメインルートならまあ関わります。仕方ないから。
「できればそういった危ないことに首を突っ込むときは、俺を呼んでくれ」
「なるべく呼ばないで済むようにします」
イケメンの隣を歩くとか、どんな罰ゲームよ……。
「聖地に興味があるなら一緒に行くかとも思ったが、セツナは騎獣を持っていないだろ?」
「騎獣……?」
ヴァージルは立ち上がると俺に黒く艶光りしている石を見せた。大きさは道端に落ちている石くらい。
そしてそれを床に向かって投げる。
「普段はこんな鉱物に住んでいる、我々を運んでくれる良い友人たちだ。聖地から戻ったら、一度騎獣狩りに行こうか」
石が床につくところで、ぶわっと膨れ上がる。
現れたのは真っ黒の豹のような生き物だった。
「おおおおお!!! さ、触っても大丈夫ですか!?」
「さて、シュヴァルツ?」
瞳は金だ。するりとした身のこなしで俺の隣まで来てくれる。
「失礼します……」
そっと出した手で、背の部分をなでると、やがてその場に座り込んだ。
「すべすべ……」
「騎獣は赤水晶を餌とするんだ。イェーメールの近くのダンジョンでもよく採れるから、セツナでも飼うのは難しくないと思う」
「毛並みが艷やか……欲しいです……」
「いるととても助かるから、帰ってきたら連絡をするよ。一緒に採りに行こう」
「お願いします」
シュヴァルツみたいなすべすべさんか、フワモコさんが欲しいです!!
楽しみが増えた。
アンジェリーナさんのところでヴァージルの帰りを待とう。
だが絶対に貸本屋へは入らせねぇからな……。
ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。
誤字脱字報告も助かります。
ヴァージルさんはアスター家の三男です。
詳しくはそのうち。
一番若い騎士団長でちょいやんちゃしてます。先走りすぎ。




