76.ヴァージルを助け出せ!
ソーダたちに感謝をしつつ、俺は【隠密】のまま裏口をくぐった。
《隠しミッション! ヴァージルを探せ!! ヴァージルが捕らえられている最奥の部屋まで、見張りに気付かれることなくたどり着け!》
内容は変わっていないみたいだ。
裏口から入り、さらに階段を降りる。階段の手前にいた黒いフードの男は時折位置を変えた。その隙を狙う。
降りたところは地下の倉庫。かなり大きな倉庫のようだ。
通路がずっとあり、右側にはドアがいくつかあった。わりあい広い通路は、荷物が所狭しと積み上げてあり、確かに目隠しは多そうだ。
知ってる。
これ、まっすぐ行っちゃだめなやつだ。
【気配察知】でこの地下に2人の見張りがいることはわかった。入り口付近は安全地帯。しばらく2人の動き方を探っていると、たまにイレギュラーな動きはするが、なんとなく移動経路は把握できた。
ミッションはわりと時間制なことが多いらしいのでとっとと行こう。
気付かれたら終わり。
進んで、隠れて、横道に入り、後ろを回って隠れて、と、予定通りに進んでいたが、ここでイレギュラー!!
まさか、人生で初の段ボールに隠れるをやることになるとは思いませんでした。
俺は蛇。段ボールとともに歩む蛇。
なんとか気付かれずに真横を通り過ぎる見張りにヒヤヒヤしつつ、奥一歩手前まできた。 鍵は扉の外側に掛けてあった。
古式ゆかしい大きなリングにぶら下がってるやつ。
あれをとって、鍵穴にさして回すまで気付かれずにいけるか??
カシャンだのチャリンだの音がしそうなんだが!!
せめて取る瞬間音がしないよう、布製品で包むか。鍵は1つしかついていないが、輪っかとぶつかって音がしそうで怖い。
【持ち物】とアイテムポーチの中を探ると、なんかごちゃごちゃあったが、あ、ストール! アンジェリーナさんとおそろいのストールがある。
……あの日以来、アンジェリーナさん、ストールつけてくれないな。もらってくれただけ御の字なんだろうけど、くっ……。
つい思考が余所に行きがちだが、軌道修正してストールでガバッと取る。音を立てずに鍵穴に差し込む。【気配察知】さまさまだ。2人の見張りが一番遠いところにいるときに動けるのはでかい。
扉がキィとか音を出したら終わりだが、そこは杞憂に終わる。
薄暗い部屋の中には、後ろ手に縛られたヴァージルが倒れていた。
衣服が乱れ、それなりに殴られたりしたようだが……色男めがっ!!
ボロってなっててもイケメンってなんなんだよ。リアルにいなくてよかった。無駄に嫉妬するわ。
ここで物音を立てたら元も子もない。俺はそっと駆け寄って口にポーションを突っ込む。
「ぐっ」
「しーっ!!」
たぶんむせかけた。
贅沢を言うな!
縛られている手首足首の縄をダガーで切ると、すぐヴァージルが起き上がる。
「動いて平気ですか?」
「セツナか、なぜここに」
「だって、ヴァージルさんがここに来ると」
「俺は、聖騎士に伝えてくれと……いや、ありがとう」
ヴァージルの剣などは、部屋の隅の箱の中にしまってあった。
「ポーションだけで平気ですか?」
ご飯もあるけど。
「助かった。これなら動ける。一気に行こう」
「あー、俺は腕っ節に自信がないんですけど」
「俺は不意さえつかれなければ3人ぐらい平気だよ」
頼もしい限りだ。
セツナ:
外に出るからグルだと思われないように離れておいてくれ。
ピロリ:
とっくに大通りまで来てるわよ~!
最後まで気を抜かないでね!
扉がバンっと大きな音を立てたことにより、見張りが2人こちらに来る。
彼らは俺の姿を見つけるが、その瞬間後ろからヴァージルによって首元を強く叩かれ横殴りに殴られ、気絶。
酷い。
暴力反対。えー、人相手は結構エグいな。
そのまま階段を駆け上がるともう1人の腹を拳で殴りつけ、裏口から出た。
とにかく大通りへ。
ファンルーアから出た方がいいというので門まで一直線だ。人混みに紛れ進んでいるとソーダがパーティーを寄越した。
『さすがイケメンランキングナンバーワン』
『フード被ってなかったら注目の的だな』
『この人隠密行動無理でござるね』
少し離れた後ろを半蔵門線もついてきているらしい。
『ヴァージルさん、ファンルーアを出るつもり』
『ならこっちだ。八海山のポータルで移動しよう』
「ヴァージルさん、こっちに、友人がイェーメールにポータルを出してくれます」
「……助かる」
街の西側、脇道に入ったところにわんこ牧師が立っていた。
こちらの姿を認めると、すぐにポータルを出してくれる。
「ヴァージルさん、先に」
「すまない。恩に着る」
俺たち最悪クランハウス直行便あるからね。
まあ、一緒にポータルへ。
《隠しミッションクリア! ヴァージルとの絆が深まりました》
初めての表記ですけどどういうことですか?
何かきっかけでフレンド申請は来るんだが、この絆ってのは初めてだ。
『ヴァージルさんとの絆深まったんだけど何これ』
『おおお! 噂の絆システム!!』
『噂?』
『NPCとの間に起こるらしいでござるが、絆が深まった人がまだ数人レベルで、その性能が何かわかってないでござる。ただ、定期報告によると、一緒にクエストこなしたりしているらしいでござるね』
『へえ……』
『あと、同じミッションを受けようとしても受けられなかったりするので、サーバーに1人しかそのNPCとは絆を築けないのではないかと言われてるでござる』
『お断りはできないの?』
『セツナ殿www 理由はわかっちゃうやつでござるwww』
『こんなイケメンじゃなくてアンジェリーナさんがいいいいいい!!!!!』
『www』
みんなが笑うけど俺は本気です……。
『セツナ殿、ミュス狩りばっかりでござるから、まあ、よい肉体労働係が出来たと思えばいいでござろう』
『結構一緒に狩りに行かないかとか呼び出されるらしいよな』
『1人は確かご令嬢と絆だろ? ダンスレッスンしたって書き込みを見た』
『女の子同士でどうしようって言ってたヤツよねww』
ポータルで出た先は……酒屋ですね。そう言えばここに取ってたな、ポータル。
「セツナ、そのご友人も、本当にありがとう」
「いえいえー。無事でよかったですね」
「俺たちちょっと騒ぎ起こしただけだし」
「セツナ殿が頑張ったからでござるね」
「じゃ、これで」
「おいおいおいおい」
「待ちなさいよセツナくん! これから説明してもらうんじゃないの?」
「まあ、我々がいては出来ない話もあるだろうからここら辺で」
「あとは若い者同士で、でござるよ」
クランメンバーがぱっと移動しました。
「ああああ!! あいつらっ!!」
NPCの前でポータル以外の移動あんまりよくないんだぞお!!
だが、ヴァージルは気にしていないようだ。
「セツナ、本当に助かった。色々話もしたい。時間をもらえるか?」
この人いつの間にか呼び捨てにしてない? 俺のこと。
「ええと」
「来てくれ」
強引なのよお!!!
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ヴァージルさんとの絆が深まりました。さてどうなるか。




