72.ヴァージルのお誘い
「ヴァージルさんは、【鑑定】は持ってらっしゃらないのですか?」
「それは、来訪者の得意とするスキルだな。残念だが」
「実は俺も拾っていまして」
と、ミトの家で見つけたそれを見せる。
「同じようなもの、か?」
「よくわからないメモなんですけど、これ、ヴァージルさんに会ったとき、部屋で拾った物なんです。でも、これだけじゃ何かわからなくて」
NPCは紙切れに名前がついているわけじゃない。謎の紙切れとしての持ち物にはならない。
「友人に【鑑定】してもらったんですが、よくわからないそうです」
「【鑑定】はその物の真の意味に迫るというスキルだと聞いている」
そんな風に言われているのか!
「ただ、番号が読み取れたそうで、これは1だそうです」
「……ということは、これにもナンバーがあるかもしれないと」
「ですねえ」
本当はミュスの王から5番もゲットしてるけど、ちょっとそれを説明するのが面倒というか。ミュスの王関連は伏せておきたい。
気になるなぁ、ヴァージルの持ってる紙のナンバー!
「友人を紹介しますか?」
俺の言葉にヴァージルは首を振って紙切れを差し出した。
「預けよう。時間のあるときに見てもらってくれ」
おお! 謎の紙ゲットだぜ!
「わかりました。なるべく早く見てもらってお返ししますね」
俺はそそくさと【持ち物】にしまい込む。
「セツナくん、俺はこれからファンルーアに向かうが、一緒にくるか?」
「いえ、アランブレに用があるので、すみません」
だってアンジェリーナさんのところから遠くなるじゃん? イェーメールまでが許容範囲。
イケメンもあっさりしたもんよ。
「わかった。何かあったらまた伝えるよ」
「お願いします。俺の方もこの謎の紙とか、調べてみますね」
挨拶をして店を出る。
薬師の店か……あ、もしかしてこの薬師も錬金術師? ありそー!
というか、生産職に錬金術師ってあるのかな? 隠し役職にしては、本編に関わりすぎてるから、そのうちなれる職業なのかもしれない。薬師ルートとかで。
さて、今クランハウスに飛んでも、もう迷惑な時間。神殿チラ見して走りながら狩りをして帰ろうかな。
って、別れたばかりのヴァージルさんに遭遇した。
「あれ!?」
「ああ、言ったろ? 聖騎士なんだ。少し任を離れることを報告してきた」
ちょっとバツが悪い!!
「俺は、お祈りを捧げて行こうかと」
言い訳、言い訳考える! 遊びに行こうと言われたのを断っておいて遊びに来てるの目撃された気分。
「そうだな、私も旅の無事を祈って行こう」
と、二人で並んで神殿の奥へ向かい祈りを捧げる。
《双子座の加護を得ました》
お、加護きた。
なんだか、俺とヴァージルのところにキラキラのエフェクトが。ヴァージルは何も反応していないので、俺にしか見えてないのかもしれない。
「それじゃあ、また」
国宝級イケメンはそう言って去っていった。フード被れよ。隠密行動に向かないぞあんた。
「もしかして、加護いただいた?」
突然、奥様に話しかけられる。
「え、あ、はい。わかるんですか?」
「うふふ、そんな気がするだけよ」
「ね、そんな気配がするのよ」
「ふふふ」
夕方なので人がそれなりにいる。奥様たちはふふふと笑っていた。
『西風のダガー』が復帰して絶好調な俺。
ログイン→ミュス狩り→アンジェリーナさん→ミュス狩り、のルーティーンをこなして日々を過ごしていると、とうとう連絡が入りました。アクセサリー出来たって!
となると、酒屋開店にもなる。クランメンバーに連絡だ。あと、ファマルソアンさんにもね。
で、段取りを組むことに。アクセサリーを受け取ったら酒屋に小人族が群がることを想定し、まずはクランメンバー全員の【持ち物】、アイテムポーチを空にする。そしてローレンガへ出発だ。
ファマルソアンさんから連絡は入っているらしく。初回である今回は詰めるだけ詰め込んでこいとのお達し。
「おはようございます、タカヒロさん」
「おはようございます。連絡はいただいております。さあこちらへどうぞ」
ずらりと並ぶ酒瓶。
「うちの店だけでなく、ローレンガ中の酒蔵から色々と取りそろえました」
タカヒロが窓口となって、どこの酒造にもチャンスをという話になったという。
ぎっちぎちに詰め込んで、なんならちょっと重量制限に引っかかっても問題ないと、余計に詰め込んだ。
挨拶をしてポータルに乗った。
出た先はなんと酒屋の前。
「ここが一番かなとポータルを取り直した」
酒屋はそれはもう立派な物が出来ていた。ちょっとロッジ風。丸太を大胆に使って、正直酒屋に見えない。なんか、おしゃれなテラス席がある。
そしてそこには親方が座っているのだ。
「よお、セツナ。とうとう開店するんだって?」
隣には右腕の兄さん。
「店は完成したけど開店するまで帰らねえってな」
あのスペシャルアイテムポーチにしこたま買い込んで行く気だこの人!!
店内から現れたファマルソアンさんが、俺たちを手招きし、裏口から入る。そして順番に並べられた酒の量よ。今地震来たら泣いちゃう。
「1度にこれだけ運べるのは本当に羨ましい。冒険者を引退するときは是非声かけください。そして私と一緒に世界中を駆け巡りましょう」
その前にゲーム引退だよ。
すっかり身軽になった俺は、鍛冶場に向かうことにした。お金を払う係のファマルソアンにも今日はついてきてもらう。
鍛冶場ストリートはもう、殺気だっていた。
前回のご対面のときよりさらに気が立っているというか、突進前の闘牛みたいに後ろ足かいてる感じ。
この人たち、酒屋に突撃する気満々だ。店が閉まっている。軒並み、閉店!! でも外にテーブルが山盛り出てる。
「……ソーダさん、もう一度買い付けに行ってもらえませんか?」
「ローレンガの酒なくなっちゃいません?」
「そこは大丈夫だと思いますよ」
足りなさそうだもんなぁ。
「よう、セツナ。待たせたな。完成したぜ」
ルンゴが笑顔で待ち構えていた。手には、完成したそれがある。
「懐中時計!?」
クランメンバーの驚きに、ふふんと胸を張る。いいだろー。
シルバーの懐中時計。細いけど丈夫で、鎖の先が金具で、ベルト通しなどに着けられるようになっている。わりと大きいのは十二星座を見越してだ。小指の爪より小さくなった獅子の宝珠が開いた蓋の内側、中央についている。
「宝珠が増えたらこの針の先につけたり色々工夫出来るようにしてあるぜ。セツナだから大負けに負けて、一カ所500万シェルくらいで請け負ってやるかな!!」
たかぁいいいいい!! しばらく無理です-!
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言われることはわかっております。
フラグクラッシャーセツナ!!!




