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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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63/361

63.怖いエルフさんとの取引

 オークション会場に隣接した建物。そこが彼らの事務所らしい。

 その一室で、俺は例のエルフ、ファマルソアンと対面していた。

 黒張りのソファに座るのは、先日と同じく黒服姿の俺。その後ろにクランメンバーたち。今日はバリバリ戦闘服で控えてる。いやー、勝てないと思うけどね。なんとなく。向かいににっこにこのファマルソアンさんと、同じくエルフの女の人。銀色のアタッシュケース持ってます。金、入ってるよね……あれ、シェルってコインだけど、札? コインがざらっと出てくるの?


 そしてもう一人、司会の方。司会兼オーナーだそうで、今日の取引を見守ってくださいます。お値段設定も相談を受けてくれた。迷惑を掛けているお礼だそうだ。

 正直歯も爪も気持ち悪いから売ってしまいたいつもりだったので、お礼はこちらが言いたいけれど。売り上げの一部を渡そうかな。


「それでは、今日は私が取引の保証人となります。よろしいですか?」

「はい」

「よろしくお願いします」

 ファマルソアンさんと俺は同時に頷く。

 そう、名前。エルフの中でも、特にNPCは位があるらしく、ファマルソアンさんはエルフの貴族だろうと言われていると教えてもらった。

 まあ、怪しい物買い集めてるから偽名かもしれないが、ソアンとつく家系が存在するらしい。


「では早速。歯が、歯があると聞いております!!」

 事前に伝えて値段も大体のところを言ってある。

「ええと、結構気色悪いですけど大丈夫ですか?」

 そう断りながらテーブルに歯をドンと出す。途端にパーティーチャットがざわつく。薄黄色というか茶色というかきゃーって感じ。大きさは俺の手のひら大。


「あああ……買います!」

『趣味悪っ!』

『趣味人の域を超えているっ!』

『女の趣味も悪いヤツッ』

『でも隣のエルフのお姉さんめっちゃ綺麗よ。美人秘書風』

『確かに』


「値段は……」

「言い値で」

 笑顔ヤバイ。

 ただ、とんでもない額を吹っかけるのも違うっていう話をしてはいるのだ。適正価格というものがあって、ただ、初めての品物だから多少高くても問題ないと。

 尻尾200万で買ってくれたし、じゃあ、250万って言ったら司会さんに怒られました。

「400万シェルで……」

「わかりました」


 即決でした。


 わあ……金持ちになる~!!

 アタッシュケースの中身はコインが入った袋でした。すぐ数えられてトレード成立。

 ロフトベッドの夢が……。


「それで、もう終わりですか? まだありそうなのですが」

 ありそうってなんだろう。一応歯のお話しかしてないのだが。

「ファマルソアン様、館内でのそういったスキルの使用はお控えいただきたく……」

 司会者さんがあちゃーって顔してる。

「ああ、すみません。自動選別なので」

 なんか便利なやつもってるんだ……。

「エルフの方々は昔から嘘に敏感なのです。そういった種族的性能がありまして」

 うーん、爪は出してもいいけど、宝珠は出したくない。というかここに持ってきていない。クランハウスの自室のストレージに入れてある。


「爪がありますね」

 俺が言うと、目の色が変わった。お隣のお姉さんが無表情なのが怖いくらい。

『セツナ、金ばっかりあってもお前本につぎ込むだけだろ。装備とか要求したら?』

『ミュス狩りに装備いらないんだけど?』

『セツナ殿www』

『使い勝手の良いダガーとかナイフあたりもらっておけば?』

『上から下まで揃えてもらうとかッ!』

 うーん……装備か。

『あ、セツナ君。あれを頼もう。獅子座の宝珠の専用アクセサリー。今市場に出てるの軽く1000万シェルするよ』

『いっせんまん……』

『NPCで売ってないからドロップからの作成で高くなるんだ。失敗もあるからね。NPCに頼めば伝手とかでなんとかしてくれるんじゃないか?』

 八海山の提案に、俺は飛びつく。


「実は欲しいアクセサリがありまして」

「ほう、なんでしょう。できうる限りの努力はします」

「宝珠を使えるようにするアクセサリーが欲しいんです」

 俺の言葉にファマルソアンは満足そうに頷く。

「伝手は山ほどあります。ドワーフと我らが仲が悪いなどという輩がいますが、金の前にやつらも膝を屈するのです」

 おい、仲悪そうだな。


「十二神の宝珠でも対応可能です。なんなら、この先を見据えて十二神すべてを納める物を作りましょうか?」

 え、いいじゃん! 最高じゃん! と思ったが、パーティーチャットで止められる。

『ダメダメ。嵌まってないと力半減系だよ、そういうの。ちゃんと専用で作ってもらった方がいい』


「まだ1つしかないので、専用の物を」


「わかりました。なら、アクセサリー……バンゴに――」

「バンゴ様は先月ファマルソアン様と大喧嘩をされて二度と顔を見せるなと」

「……ランゴは」

「ランゴ様は先々月ファマルソアン様と大喧嘩をされて二度と顔を見せるなと」

「……ロンゴは」

「ロンゴ様は半年前ファマルソアン様と大喧嘩をされて二度と顔を見せるなと」

「ドワーフめがっ!」


 めっちゃ仲悪いじゃん。


「だが十二神の宝珠用アクセサリーというならそこら辺だろう。他にいるか?」

 ソファにぐだっともたれかかって、面倒くさそうにファマルソアンが言う。

「いらっしゃいませんね。ルンゴ様は一年前から連絡を拒否されておりますし」

「ドワーフめ」


 自業自得くさいけどな。


「よし、こうしよう! 私が紹介状を書く。費用も出そう。自分で交渉しなさい」


《クエスト:小人族(ドワーフ)のアクセサリー職人》


『あー、クエストが来た』

『まあ、来るなぁこれは』

『だけど、獅子座の宝珠のアクセサリーを費用全部相手持ちで手に入れられる機会はそうない』

『上手くいけばラッキーよね』

『前提条件のファマルソアンが嫌われてるってのが厳しい』

『確かにでござる』


 とはいえ、断るのももったいない。


「じゃあ、爪は成功報酬で」

「はっ!? 私が紹介状を書くのだよ!?」

「え、……じゃあいいです」

「良くない!!!!」

「なら、上手くいくよう願っていてください」

「いつだ! いつ上手くいくんだよ!」

「そんな成功率低いのに爪をもらえるとよく思いましたよね」

 机の上に、爪をドンっと置いてみる。


「爪ぇ!!!!」


『きもっ!!』

『俺は歯の方が嫌かな』

『私も歯の方が生理的嫌悪感が上』


 ささっと【持ち物】に隠す。


「成功報酬で良い……」


 まあ、何か企むような人ではなさそうです。

ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。

誤字脱字報告も助かります。


クエスト始まりま〜す!

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― 新着の感想 ―
既にドワーフと酒のコネあるんだよなぁ… 素材のコネもあった気がするなぁ採掘
酒飲ませればなんとかなるんじゃない?(偏見)
そういえば主人公はドワーフに伝が………
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