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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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57.ミュスの王のドロップ

『そうだ。初討伐で、ミュスの王の爪と歯と尻尾もらったんだけど、オークションで売ったら? って勧められた。あと、ミュスの王の宝珠と謎の紙切れ』

『ちょwwww ミュスの王の宝珠気になるんだけどwww』

『それが、効果がわからなくて、後で案山子さんに見てもらおうかなと』

『んじゃ、伝えておく。というか気になるから俺もイェーメール行く。それ見てみたい』

『【持ち物】から引っ張り出すと気持ち悪いよ、歯とか』

『だろうなぁ~みんなにも聞いてみる。どこで待ち合わせする?』

『あー、もうイェーメールに向かって走ってる。もうすぐ着く』

『んじゃ向こうで』


 アランブレからイェーメールまではそんなに距離がないのだ。


 もちろん途中でミュスをもりもり狩って、無事到着。


『西門の中に入ったところにいるよ』

 フレンドチャットが入ってすぐにその姿を見つける。


 赤い髪に黒装備の大男と、ピンクのツインテール毛先が青い白のパレオ女子。徐々に忍者装備が整ってきている全体的に黒づくめのひょろっとした男に、青髪ポニテイケメンエルフ、これまた背が高い。もうこれだけで目立つんだよ。そこに小さい赤髪おさげドワーフと、わんこ牧師スタイル。

 そこに近づいていったら絶対仲間って気付かれるよなぁ。まあ、諦めた方がいいか。


 ささっとPTチャットを渡される。


『さっそく鑑定しようよッ!』

『どこで広げる? あまり目立つのはよくないぞ』

『あの名前、お前だってばれてないんだろう?』

『フィールドに出た方が早い気がするでござるよ~』

 半蔵門線の提案に乗ることにした。



 街からほどよく離れる。

 が、暗いな。


『みんな見えるの?』

『俺は【夜目】生えてるから平気』

 と、ソーダ。うんうんと頷く半蔵門線。

 そんなスキルもあるのか。ミュスを夜狩るときは、感じて探してたからな……。


『そこら辺の木でも燃やそうかッ!』

 最悪それでお願いしよう。一応星空で薄ぼんやりしている。大きさとかはわかるからいいか。


 ということで、どさっと表に出すと、評判が悪い。

 だから、言ったじゃん、気持ち悪いって。


『うぇー……でかい尻尾も生理的に無理無理無理じゃぁ』

『俺はこの、歯がちょっとダメだ』

 八海山が目をそらしている。


 そして案山子の鑑定。

『うーん、セツナっち……残念なことに……特に何もなさそうですッ!』

 まあ、そんな気はしました。


『何か効用があったり、素材や材料になる場合は、まだわからないものでも説明の後ろに微妙な空白があったりするんだけど、このミュスのやつは何もないやッ! 残念ッ!』

『オークション行き決定です。そうだ、こっちの2つは?』


 ミュスの王の宝珠と、謎の紙切れ。


『むむ……この紙切れは何かありそうだからとっておいた方がよさげ。まだ説明は謎の紙切れ、だけだけどッ。で、ミュスの王の宝珠は、これも不自然な空白があるからおいておくべきだねッ! 今読める部分は、『ミュスの王たるものが持つ』って書いてあるだけだ」

 王にはなりたくないのだが、まあおいておこうか。


『しかし、真鯖がネズミーランドにならなかったのは、セツナだなぁきっと』

『真鯖?』

『Marchサーバー。つまり、私たちが遊んでいるサーバー。ネズミーランドは、月に一度ある、ミュス大行進のことね~。フィールドのミュスをある程度狩るんじゃなくて、下水道のミュスを狩る、だったのかな、解除方法』

『可能性はありそうだが、今回のなら、ちょっと遅い気もする。チュートリアルで行った時にすでにミュス大行進がなくなってたのかも?』

 八海山が犬耳をピクピク動かしていた。


 半蔵門線がちらりとこちらを見ている。何かな??


『セツナくんに聞かれてすぐに下水道ってのを探したんだけど~、全然みつからなかったのよ。初期、チュートリアルついでに入ったって言ってたからそこら辺かなと思ったんだけど』

『あー、俺も下水道に入るのは2回とも衛生局員の2人に誘われてですね』

『うーん、微妙な情報は触れない方がいいなぁ。とりまミュスの王の絵も出すのはやめておく。もうちょっとセツナがそのミュス関連はっきり進めてからの方がよさそうだ』


 進めるつもりはそれほどないのだが……。いつも通りミュスを始末するだけだ。


『オークションの話は聞いたことがあったけど、どんな感じなのかな。俺もついていってみようかな』

『私もー!』

『俺もッ!』


『私はちょっと香水瓶の納品期限がせまっておるのでパスじゃ』

 なんでも定期納入の契約をしたらしい。


『セツナは攻略見ないらしいから、みんなは知ってることあっても黙ってる方向で』

 そんな話をしながら街へ戻る。


 というか、何より先にお届けしないと! アンジェリーナさんのお遣いが先!

『ちょっと用事があるからそれ済ませてから。というか、そろそろログアウト時間だな』

『んじゃまた明日ってことで』

 解散だ。


 俺はダッシュでお届け先へ行く。

 ナビゲーションをオンにして最短でたどり着いた。このあたりもまた、店舗より普通の住民の家が多いあたりのようだ。


 さっそくノックしてと思ったが、今、このゲーム内だと夜中の0時くらいなのだ。

 さすがに迷惑か。うーんと家の前で逡巡していると、呼び止められる。


「人の家の前で何をしている」

 このパターン前にもあった! が、ラッキーだ。

「あ、こんばんは。もしかしてオルロさんですか? アランブレのアンジェリーナさんからお届け物を預かっていたんですけど、ここまできてさすがに夜遅すぎるかと悩んでて……」


 先ほどまでは扉に向かっていたナビゲーションが、今は目の前の老人に向かっていた。

 そして【持ち物】から本を取り出す。


 タイトルは『未来の若者』。小説か何かかなと勝手に推測していた。


「おお、アンジェリーナの。そりゃありがとう。……今夜の宿はあるのか?」

「適当に宿屋に行きます。まだイェーメールでやろうと思ってることがあるので」

「ならうちに泊まってけ。届けてもらったお礼だ」

 お礼ならあんたじゃなくてアンジェリーナさんの家に泊まりたいんですけど!? いやそうじゃなくて。


「俺は来訪者なので、寝たら2日くらい起きないんですよ」

「ならなおのこと寝ていけ。宿代もかさむだろう」


 身ぐるみ剥がされない? 怖いんだけど……いや、でもアンジェリーナさんの知り合い。ここで断って心証が下がるのは避けたい。


「本当に、ご迷惑じゃないんですか?」

「連れ合いも去年亡くなった。子どもたちももう自分の家を持ってるから、部屋だけは余ってるんだよ」

 ということで、お邪魔することになりました。


 本当に泊まるところを提供してくれるだけのようで、2階の客間だというベッドを借りる。

「起きて俺がいなかったら適当に出てっていいからな。こっちのことは気にすんな」

「ありがとうございます」

 みんな親切だなぁ~。

ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。

誤字脱字報告も助かります。


セツナくんにも鑑定スキルあげたいけどあげるタイミングがなさそう。

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― 新着の感想 ―
君も大概、親切だからね?(笑) 善意が善意で回るシステム、素敵
こうしてどんどん人の輪が広がっていくのね。 VRMMOを楽しむ才能アリです、これ。素晴らしいことだ。
セツナくんに何か覚えさせたいなら、アンジェリーナさん経由が1番確実そうw
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