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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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56.初めてのアイテムの行き先

 さらに、ミュスの王の尻尾を取り出すと、お姉さんは目をまん丸くした。


「これは……ちょっと査定額がわかりませんね……いえ、うーん」

「どうした?」

 普通のミュスの10倍くらいの長さのある尻尾を前に、お姉さんが悩んでいると奥からおっさんがやってきた。


「ギルド長。こちらの買い取りをどうしようかと……」

「……それ持ってこっちに来な!」

 おっさんもとい、ギルド長に呼ばれて俺は後をついていった。


 ギルドの奥の扉をくぐると、そこは広々とした場所だった。部屋の中央に大きな、それこそ8人掛けのテーブルが4つ繋がったくらいの大きな金属の作業台があった。

「尻尾を出してもらえるか?」

 俺は言われるままにアイテムポーチから出して乗せた。


「こりゃすごいなぁ」

 部屋のあちこちで作業をしていた人たちが集まってくる。

「こんなのもあります」

 ミュスの王の爪と歯も出す。ばっちいよきっと。ミュスだし。薄茶で少し湾曲した爪と、同じく薄茶の歯。


「初めてみたな。変異したミュス、だっけか? 衛生局から報告があったな。これからは平原だけじゃなく下水も定期的に冒険者を募らないとだめだろうなぁ」


「ミュスの王って平原にだけ生まれるんだと思ってました」

「ん? ミュスの王?」


 あー、NPCにはアナウンス届かないし、ミュスの王ってわからないか。獅子座の神様が、ミュスがたくさんいると強い個体が生まれるって言ってたけども、でもそれは平原の話? うーん。ちょっとよくわからないな。


「いえ、王様みたいにふんぞり返っていたので。普通のミュスたくさん従えて」

「ミュスの王か、言い得て妙だな。昔から、ミュスが大量発生するのは、ミュスの数が増えて強い個体が生まれるからだと言われているんだ。もしかしたらその強い個体が、今回セツナ君が倒したその大きなミュスだったのかもしれないな」


 あ、獅子座の神様と同じような話をしてる。

 増えるのが下水だったってことか??


「どうする? 記念に持っておくか? それとも買い取りするか? 尻尾はもうしわけないが討伐の証として持ってきてもらっているだけで、燃やすだけになる。爪や歯も、何に使えるかが今はわからないから、後から何か使い道が見つかって高価な物に化けないとも限らない」

 これは、とっとけって言われてる感じか?


「うーん、せっかくなので、記念に持って……おくか?」


「こういった初めてみたものを集めたがる好事家もいるぞ?」

 あー、初討伐だったな、そいや。


「そういった物を扱うオークションもある。後続がこないうちに早めに出品するのもありだな」

 ふむふむふむ。

「ちなみにそれはどちらで?」

「イェーメールだな。あそこは商売人も多いし、貴族も多い。アランブレには負けるが、首都から少しだけ離れたからこそ、活発になるものもある」


 どゆこと?


「取り締まりが緩いってことだ。非合法まではいかずとも、グレーゾーンの取引も多いって話だよ」

 ほー、今度ちょっくら行ってみるか。イェーメールなら1人でも走っていける。フィールドに凶悪なモンスターはいなかった。


「今度試しにいってみます」

「なら、まず冒険者ギルドに顔出しな。こっちからも知らせを送っといてやるよ」

「ありがとうございます!」

 

 さて、ミュスにまみれた後は女神の元へ!


 本当に最近本が読めていません!!


 アランブレから出過ぎた。

 イェーメールに行くのは行ってみようと思うが、今ではない。いや、オークション急いだ方が的な言い回しだったな。ミュスの王出没することになるのかな……くっ。


 とりま、今日はさすがに読んで行こう。


 相変わらずお美しいアンジェリーナさんに挨拶をして、本棚を物色する。

 何にしようかなあ~!

 あー商品取引とか読んでおくか。オークション行くなら。


『取引契約』

『商売人の心得』

『目利きの法則』

『先物取引成功と失敗』

『金はこうやって増やせ!』


「セツナくんは……商売人をめざすの?」

「いやいやいやいや、違うんです。実は、ちょっと珍しい物を手に入れたんですけど、まだそれがどんなことに使えるかとかがわかっていなくて。それならイェーメールのオークションに出すのも手だと言われたので」

「あら、そうなのね」

 笑いながら貸し出し処理をしてくれた。


 もうここは俺のもんだと言い張れるくらいになった席に座り、ゆったりと読書タイム。いやーいいなぁ。ホント、幸せの瞬間。真剣に本を読むアンジェリーナさんの横顔をたまに眺めながらの読書。


 5冊なんてすぐだな。

 もう5冊借りて、読む。ミュスの尻尾をたくさん納品したし、日々本を読んで過ごすならこれで十分なのだ。

 まあ、さすがにゲームなんでもう少しなんかしたいけれど。


 後から借りた2冊も返却。

「ねえ、セツナくんはすぐイェーメールへ行くの?」

「そうですね、オークションが気になりますし」

「それなら、この本を届けてもらえないかしら?」

「ハイ喜んで!!」

 俺の即答に笑う。


 イェーメールの地図を広げ、ポイントを打つ。

「知り合いに頼まれていた本を見つけたの。届けてあげないとなんだけど、ちょっと仕事が入っていてアランブレから離れたくないのよね。助かるわ、セツナくん」

 お礼なんて、もうそのアンジェリーナさんの笑顔だけで十分ですよ。

 

 ちょっと気になってるのは、藍染めのストールどこいった……?


 やっぱりずっとつけててもらうのはキャラ的に無理なのかなぁ。もらってくれただけで満足しておこう。




 俺はさっそくイェーメールへ移動を始める。アンジェリーナさんに頼まれたことを2日も3日も放っておく気はない!

 ルンルン気分でアランブレを出発。もう日も暮れるが別にかまわんだろう。なんなら走って引き離してしまえばいい。


 と、ソーダから連絡が入った。

『初討伐おめでとう!』

『おー! よくわからないけど、たぶん、NPCの力でどうにかなる系だった』

『たまにあるよ。初討伐は前提条件揃えるのが大変なだけで手強くないやつ。だけど二度目から大変なやつ』


 色々なパターンがあるんだな。


『で、録画撮った?』

『録りはしたけど~』

『あー、全部UPする気はない。ようはそのミュスの王の絵だけ載せようかなと』

『隠しクエストって言われたんだよ』

『マジか! すごいなそれは』

『たぶんそれも初なんだろうけど』

『うーん……ちょっと表に出すの考えるわ。とりま後で見せるだけ見せて。勝手に表には出さないし、出すときは事前に見せてすりあわせする。単に見てみたい!』

『まあそこは信用してるよ』


 ソーダの配信チャンネルは結構な登録者数もあるのだ。副業の許可は得てるが、スポンサーはNGなのでつけていない。これで一生ってわけじゃないから、本来の仕事の方に従っているのだ。

 別にばれてもいいが、正直、ゲーム内でつきまとわれると、アンジェリーナさんをみんなに知られるのが嫌だ!!

ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。

誤字脱字報告も助かります。


アンジェリーナさんのお使いは何にも勝る最優先事項です。

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お使いクエストだ!!
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