50.前回までのおさらい
今回は例のベルトコンベア式メインクエストのおさらいです。
ゲートを越えて訪れた世界。【ラングドラシル】。
俺(来訪者)は胸躍らせその大地に降り立つ。
街の中を散策していると、兵士から呼び止められた。
「やあ、今日は獅子の神の機嫌が良いそうだよ。神殿で祈れば加護が得られるかもしれないね」
俺は興味を持ったので神殿へ行ってみることにした。
獅子の像の目は仄かに青く光っていた。
像の前で膝を折り、見よう見まねで祈ってみる。
すると、どこからか声が聞こえる。
『そなたの勇猛さを世界に知らしめるがよい』
ふんわりと胸元が温かくなり、獅子の強さを得た気がした。
神殿の中庭を訪れると、少女が泣いている。
どうしたのか尋ねると、せっかく母親にもらったリンゴをカラスに取られてしまったという。俺は少女に自分のリンゴを与え、母親の元へ見送ると、木の上ですました顔でリンゴを喰らっているカラスをにらみつけた。
カラスはカァと鳴いて飛び立つ。そのとき、何か光る物を落としていった。
俺はその場所を探る。
と、オレンジ色のオーバルカットの石だった。素人目にもとても美しい物で、ただ、石だけがこうやって落ちているのが不思議だ。このようなカットされているものは、普通指輪やペンダントとして加工されているのではないか?
とにかく兵士の詰め所へ向かい。神殿でカラスが落としていったと素直に話す。
不審がられはしたが、IDカードを見せると本当に来たばかりの来訪者とわかり、すぐ解放された。盗むのはさすがに無理だろうと思われたようだ。
さあ、次の都市へ向かうとしよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺(来訪者)は街なかで胸を押さえている男と行き交う。どうやら体調が悪いらしく、家まで送ってやった。
「親切にありがとう」
「いえ、それにしてもすごい、ですね」
彼の家の中は様々なメモがあちこちに散らばり、壁に貼り付けてある。
「散らかってて済まないね。あと少しで謎が解けそうなんだ」
「謎ですか?」
「ああ、預言書が500年前に神殿から消えた謎がね……そうだ、もし私になにかあったら、ファンルーアの娘を訪ねてはくれないか?」
数日後、たまたま通りかかった彼の家の前で、葬儀が行われていた。棺に入れて、神殿へ運ぶところだった。
ちらりと覗いた家の中は、とても綺麗に片付いていた。
兵士からファンルーアへの道を聞いた俺(来訪者)は、 あの時預かった手紙を持って向かうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あの学者の娘の家に行く。聞いていた通りパン屋を営んでいた。
預かった物だと封筒を渡すが、少し不審がられた。
まあいい。渡したことで彼との義理は果たした。
しかし、あの部屋の中があまりにも片付いていたことに、少し思うところがある。
預言書の話も詳しく聞くことができなかった。誰かに聞いてみたいと思うが、誰に尋ねるべきかもわからない。
と、兵士に突然呼び止められID提示を促される。
何かやってしまったのか? と不安に思いながら言われた通り見せると、そのまま連れていかれた。
そして、このファンルーアを任されているという伯爵の屋敷の一室に通される。伯爵様の前だから礼儀をしっかりしろと言われるが、この世界の礼儀などまったく知らない。さてどうするか?
しかし、こちらの心配はどこへやら、やたらと友好的にあれこれと食べるものを勧め、宿がないなら屋敷に泊まればよいとまで言い出す。
なぜだろうという不審な表情に、伯爵は笑う。
そして種明かし。
アランブレで拾ったオーバルカットのオレンジ色の石は、こちらの伯爵が長年探していた物だというのだ。それを見つけてくれた俺に感謝を述べたかったのだが、見つからず困っていたと。
「代々伝わる物でね。先代の時代にいつの間にか屋敷から消えていたんだ。誰かが持ち出したのだとは思うが、大事にしまっていたのが仇となり、気付くのが遅れた。そのせいで行方知れずになって何十年と経ってしまった」
その日はお言葉に甘えて一泊させてもらうことになった。
食事のあとに1杯付き合ってくれと応接間に案内され、酒で上機嫌となった伯爵は色々と話してくれた。
あのオレンジの宝石は、必要な物の一部であり、未完なのだと。
他に赤、青、緑、黄色、黒に透明7つある。
すべて揃えるのが夢なのだと。
そして、ポロリと漏らす。
「預言書を手に入れるために必要だ……」
そう言いながら飲み過ぎた伯爵は、ソファでうとうと眠りについてしまった。
俺は部屋を出て執事を呼ぶ。眠ってしまったことを告げると、それは失礼しましたと部屋へ案内された。
預言書。あの学者の探していた物もそれだ。
翌朝丁寧にお礼を言って、屋敷から出る。そして街に戻ると、パン屋の娘から呼び止められた。
「昨日はすみません。父からの手紙をありがとうございました」
そう言って家に招かれる。
彼女はお茶を入れて手紙とともにもう1つ封筒を机に置いた。
「父は元々神殿で神に仕えていた神官なのです。ただ、晩年は預言書の行方の研究に明け暮れ、神殿からも見放されてしまって……そんな父が私に預けていたのがこの石です」
そこには美しい透明のラウンドブリリアンカットの宝石があった。
「食うに困ったら売りなさいとでも言うのかと思っていたら、これは絶対に人目にさらさないように、と。当時の私は父がどこからか盗んだのかと不安になりました。そんな人ではないとわかっていても、父が持つには不相応なものですから。それでも持っていてくれというので、ずっとタンスの奥に隠していたんです。それが、……手紙には、自分が突然死ぬようなことがあったら、この石を手放して、できれば海の底深くに沈めろと書いてありました。……父はどうして亡くなったのですか?」
俺も詳しくは知らないが、その直前にあったときに道で苦しそうにしていたこと。かなり痩せていたこと。死は突然のものではなかったのかもしれない、と彼女を慰めた。
それでも、俺もあの部屋の綺麗さは気がかりだ。
そんな不安な表情を読み取ったのか、じっと宝石を見ていた彼女が、俺の方に石を動かす。
「私は夫とパン屋を営んでおります。父の言う通りに宝石を海に沈めに行くことはできません。もしよかったらお願いしてもよろしいでしょうか? あと、父の知り合いがローレンガにいるそうです。名前は聞いていないのですが、昔よくつるんで悪さをしたものだと聞いたことがあります。父は30過ぎて神官となったので、若い頃の友人なのかと思います。もし会ったら、父の訃報を知らせてあげてください」
俺は、美しい宝石を預かることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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