390.解読のお手伝い
アランブレの貸本屋へ向かうときはいつもルンルン気分だ。クランハウスへ戻り、すぐさま店へ向かう。扉を開けた奥にはいつもの笑顔。
「いらっしゃいセツナくん」
「こんにちはアンジェリーナさん。この間言っていたウロブルの本、修復できました!」
師匠へご報告。
「まあ! おめでとうセツナくん。いったい何の本だったの?」
「実は、この間アンジェリーナさんも言っていた、『退魔の書』の次の本? この間のは『壱』だったんですけど『弐』にするための方法とかそんな感じでした」
「ああ、あれは魔法書だから。解読できるよう私たちが修復して手助けするのよ」
「友人が何か素材を集めないとって言ってました」
「身の丈にあったものを扱えるようになるまで、つまり、それだけの素材を集められるようになるまで読み解けないよう封印されているの。修復師はその封印を解くための手助けをする、そんな方法もあるのよ」
あー、アップグレードは解読、になるのか。魔法書ね。なるほど。
進化とかアップグレードって言いにくくて悩んでいたけどそういった解釈なんだな。了解である。
「となると、セツナくんもちょっと道具を新調しないとね。早くて一ヶ月くらい掛かるかしら」
「俺の専用道具!!」
えー、嬉しい。
「出掛けましょうか、依頼をしないとね」
そう言ってカウンターから出てきたアンジェリーナさんと俺は、アランブレの街へ繰り出した。
でえとおおお!! 突然の街歩きデートキタ!!
クランハウス帰った時に着替えてくれはよかった。くっそ。いきなり着替えたら……いや、NPCはプレイヤーのゲーム的なところには目をつぶるってあったから、せめて【アイテムポーチ】に入れてる俺の街歩き衣装に、一瞬だ一瞬でやるんだ。
ということでお着替えした。
デート嬉しい。
アランブレの街は一時期うろついたが、イェーメールの鍛冶屋周辺をうろつくことの方が多くなってしまい、ここのとこまったく来ていない。
連れて行かれたのは金属加工のお店。ドワーフさんです。
「やあ、アンジェリーナさん。メンテナンスかな?」
「こんにちは、オウル親方。今日はね、弟子の修復道具一式を新しく頼みたいのよ」
「おお、修復師か。それはそれはめでたいな。まあ見て行ってくれ」
イェーメールの鍛冶屋は武器や防具を店の奥でトンテンカンしている感じだが、ここはまたちょっと様子が違った。
何もかもが、繊細なんだけど何の道具かわからんもんが山ほどある。あ、これペン軸だ。ってとなりには羽根ペン。
金属加工の小物屋のようだと思えばナイフなんかが並んでいる。
ただどれも武器ではなさそうだ。
「ここはね、職人の道具屋なのよ。オウル親方はとても繊細で丁寧な仕事をするの」
「褒めたって金額は変わらねえぜ。ほら、修復師の道具はこっちにある」
俺は今、アンジェリーナさんがくれた道具で修復をしているのだ。アンジェリーナさんが使っていたってだけで、俺の中の価値が爆上がりなのでこれでいいんだけどな……なんて思っていたが、いざ道具を目の前にしたら欲しくなる。
よくわからない匙。となりには秤や、小瓶も多い。蓋が鈍い金色をしていて、なぜか蓋の中央がくるくるとソフトクリームみたいに渦を巻いていたりする。
「一式というと、刷毛もか?」
「そうねえ……今度解読の仕事が入りそうなのよ。そのときに必要なものを揃えておかないといけないわ」
「解読かぁ……秤がいるな。秤に使う欠片が不足していて……そうだ、お前さん、冒険者なんだろう? 来訪者だよな? 解読の作業には絶対不可欠の『星々の欠片』ってものがあってな。これがちょっと採りにくい場所にあるんだ。こいつを持ってきてくれたら、道具を半額にしてやろう」
え、半額! 合計いくらかわかっていないが、半額は嬉しい。
「オウル親方、そんなのダメよ。せめて1/3にしてあげないと。半額じゃあ割に合わないわ」
美人に睨まれて親方は怯んでいるが負けない。
「だが、一式っていうからにはここら辺もって言うんだろ?」
「もちろんよ。なんならここらからここまでのものも揃えたいわ」
「それで半額なら随分勉強していると思うんだが?」
「何を言っているの! 誰も『星々の欠片』を手に入れられないから、親方は困っているわけでしょう? セツナくんが採りに行ったら自分の分だけじゃない量を採ってくる。これがなければ親方は他のものも商品として売ることができないのよ?」
つ、強い……交渉なの?
言い聞かせられてる感。
まあ、俺は物の価値がわからないので、アンジェリーナさんの後ろでニコニコ笑っておいた。
なんかとんでもない場所っぽいから、ソーダたちに、八海山に、同行をお願いしよう。
「つまり、どーーーーーしても必要な素材が今なくて、俺が採ってきたら半額にするけど、親方が他の商品に使う分まで採ってきたら1/3になるってことでよいですか?」
なっ!? とかちょっと動揺していたけど、アンジェリーナさんがまとめてしまう。
「そうそう、かなり大変な場所にあるんだけど、セツナくん、最近とっても強くなっているしお友だちもいるのよね? お願いして手伝ってもらったら。ほら、解読が必要になる子がいるんでしょう? 一緒に行くのがいいと思うわよ」
「そうですね。彼にも関わることですし、ちょうどよいから手伝ってもらおうと思います」
話はまとまった。
親方も最後は仕方ないと肩を落とす。
「わかったわかった。確かに今の俺には『星々の欠片』が必要だ。写本師希望の子が多くてね。そちらでも使う素材なんだ」
写本師は……ミラエノランだな。あの眼帯イケメン男だ。お望みの可愛い眼鏡女子が弟子になったのだろうか。今度ちょっとキノコハウスを覗いてみよう。
親方が奥から地図を持ってきた。アランブレから聖地に向かう途中でちょっと横道にそれる場所だった。
「退魔師は一緒にいた方が、いいかもしれないぞ」
「おう……てことはお化けですか」
「なんでも伝説があるらしいが、それはこの手前の村ででも聞いてみてくれ。俺も詳しくは知らないんだ」
退魔師のために必要な道具の素材だから、八海山に頑張ってもらおう! 尻尾を股の間に挟んじゃうかもしれないけど。
ブックマーク、評価、いいね、感想、ありがとうございます。
誤字脱字報告も助かります。
何かするためには何かがいるのはゲームのお約束。
小物屋さんってすごく好きなんですけど、店主の趣味でみたいな個人のお店ってうらやましい。




