386.ウロブルの図書館で修復師のお仕事
しかし、先生はダメだったのか。
「うーん、一緒に来ますか? 俺たぶん、見せてもらえるんですよ」
「ふっ……学院の肩書きを舐めるなよ。俺はこう見えて持ち出し禁止書籍すら持ち出させるくらいの権力はある男だ」
なんか自慢された。
「ところが俺は、司書さんにたぶん、呼ばれている男です」
きりっと言ってみる。
あれ、ウロブルの図書館と仲は悪いけど本は大切で仕方なしに、でも紹介とかはしゃくだから派遣だけはしてやるよの気持ちだと思うんだよな。
「たぶん呼ばれているってなんだ?」
だらっと座っていたブラウン先生がちょっと身を乗り出した。
「実は、修復師として活動中です」
「何っ!? よし、行こう。今すぐ行こう!!」
立ち上がったと思ったらせかせかと扉を出ていく。
早い! 例の追いつけない歩き方だ。
「修復師が必要だったというなら彼らの対応もわかる。俺の肩書きには関係のない書物なのかと思っていたが違うな、何が書かれているかわからない書物だったんだ、きっと。だからお断りの仕方もふんわりしたものだった」
ほうほう。
「かといって図書館があまりに酷い状態の文献を、図書館内から見つけ出したと言ったら問題になるだろう? 彼らもおおっぴらに言えなかったのさ」
ウロブルの図書館は巻物なんかも多く取り扱っていて、また雰囲気が違っている。裏口は知らないので表から入り、受付の司書に話しかけるかと思ったら、ブラウン先生がずかずかと奥に進んでいった。
壮年の男性司書に話しかける。
「やあ、カワーラさん」
「これは……ブラウン先生。申し訳ないが何度来られてもあれは見せられないのですよ」
何度も突撃しているのか。よっぽど見たかったんだなぁと見やれば、ブラウン先生はにやりと笑っている。
「今日は私の教え子を紹介しようと思ってね……こちらはセツナ」
いつ教え子に。いや、研究室に通ってる教え子設定だったな。うん。否定はできない。便利な移動をこれからも使わせてもらうために。
「修復師だ」
それは、カワーラに劇的な変化をもたらした。
驚いて目を見開き、すぐに真剣な顔になって周囲を見渡す。
聞き耳を立てている人がいないことを確認し、頷いた。
「こちらへ一緒に来ていただけますか?」
図書館の奥へ奥へと導かれ、扉をくぐると完全に裏側に出た。裏側はアランブレと変わらないような事務的な感じだ。
「修復が必要だとどなたから聞いたのですか?」
カワーラは先を行きながら俺に尋ねる。
「えーと……」
アランブレの司書の話は出さない方がいい気がする。
「最近忙しかったセツナが久しぶりに研究室に来てね。そういえばこいつの職業は修復師でもあったなと思った瞬間、カワーラさんの態度の意味を悟ったんだよ」
「ブラウン先生には敵いませんね」
「俺はとても思慮深い男なのだ」
いつもだらーっとだるーっとしているイメージしかないけど、やるときはやる男のようだった。
こちらですと通された部屋は薄暗く、極端に照明を落としているように思えた。【夜目】があるから平気だけども。
中央のテーブルには本が一冊置かれていた。ローレンガで見たような巻物ではない。普通の古めかしい分厚い本だ。
が、確かにぼろぼろだなこれ。
リアルならめくることもためらわれる、触った瞬間崩壊してしまいそうな状態だ。
「これは……俺の手に負えるかどうか」
「かなり状態が悪いことはこちらも承知の上です。閉架書庫にあったのなら、ここまで話にならなかったのですが、一般書籍……巻物の奥から出てきたんですよ」
「ああ、巻物か。あれはなかなか他と違う置き方をしていたりで整理しきれていないものもあったな。あれか、巻物部屋か」
「そうなんです。お恥ずかしい限りですが」
ウロブルの図書館は小さな部屋が並んで巨大な図書館となっている、ちょっと謎構造だ。それぞれの部屋にテーブルもあったりする。行き届かないところも普通にありそうだ。
「最悪この状態と変わらないだけですので、試しにどこまで修復できそうかやっていただけるのなら助かります」
「他の熟練の修復師に頼んだ方がいいのではありませんか?」
アンジェリーナさんとか、アンジェリーナさんとか。
「それが……近々新しい書物が見つかったということでウロブルの、ヴィランウェバ伯爵様がこの本を見るためいらっしゃるのです。この街の修復師は明後日まで帰っていらっしゃらないので……」
つまり、時間がない。
「し、失敗しても怒らないでくださいね」
ということで修復師チャレンジが始まった。
これ、単純に【修復】だけじゃどうにもならないやつだ。つまり、赤のライン狙うやつだけじゃだめ。
アンジェリーナさんに渡された粉と、メモを改めて見る。
うん、スキルツリーに新しいものが増えてるんだよね~。
それに使う素材も持たされている。
「それじゃあ、頑張ります」
気合いを入れて……ミニゲームだ!
「【分解】」
まず表紙などを全部分解する。汚れがひどい。しみもたくさん。それ以上にしわと折れ目が山ほど。
これ、一ページずつ相手しないといけないんだよね。五百ページ以上あるのだ。まあ、ゲームさんがそこは手加減して全部のページを相手するわけではないが、修復の必要のあるページできちんと手を止めなければならない。
表紙は後回しにして、本文の方を片付けよう。こっちのが多いし。
「【しわ修復】」
粉を振って、ローラーのようなもので伸ばす。実際こんなの絶対だめだろうというやつだ。しかしこれはゲーム。そしてリペアはミニゲーム。スマホに保護フィルムを貼る時のように、異物をミニローラーで外側の方へ押しやるゲームだ。俺の視界の上の方にゲージがもうけられ、力を込めすぎると失敗。込めなさすぎるといつまでたっても終わらない。
相変わらず修復師は根気がいる。
「【折り目修復】」
だいたいしわが消えたら次は折れてしまっているページを丁寧に戻す。たまにそのせいか、ページとページがくっついてしまっていて、そのときは剥がすんだけど、じりじりと。また強くやり過ぎるとやぶれるぞというゲージが現れるのだ。
修復師は忍耐がいる。
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誤字脱字報告も助かります。
都合よく人手が足りない!!
明日はね、去年からの前振りを回収します。




