380.杖職人の矜持
俺たちのあちゃーって顔に、ファマルソアンさんはにっこりと笑う。
「どこにいっても職人は気難しいものです。まず私から話をさせてくださいね」
「はーい」
みんなでおりこうさんのお返事をした。
「私がいない方が良いか?」
柚子が尋ねるとファマルソアンさんが驚いて首を振る。
「確かに我々とドワーフの仲は決して良好とはいえませんが、来訪者のみなさんは別ですよ。それを問題視するエルフはおりません。この第7都市ではね」
にっこり笑うんだけどどこか圧があるんだよね。ファマルソアンさん。
ゲーム的なものか、NPCの職人、店は同じ業種が固まっていることが多い。この杖の店も同じだった。杖が描かれた看板がたくさん店先に並んでいるのだ。
「やあ、ファマルソアンじゃないか。珍しいな、どうした?」
「杖職人のみなさんにお話があるんですよ。ハミエルさんはご在宅ですか?」
「もちろん、今日も元気に店を開いているよ。ハミエル爺さんに用があるってことは、杖屋全体に関わることか」
「ええ、とても、重要なお話です」
にこやかな笑顔を引っ込めて言うファマルソアンに、話しかけてきた男も表情を引き締めた。
「みんなを集めよう」
「そうしていただけると助かりますね」
ハミエル爺さんの杖屋はとてもこじんまりした店だった。けれどそれがいい! 店の前はガラス張りで商品が外に向けて置いてある。そこから店内が見えるのだが、所狭しと杖が陳列している。さらに奥の棚には木箱がずらりと並んでいた。無造作に積み上げたようにみえるが、絶妙のバランスで配置されていて、歴史を感じさせるのだ。ところどころにある小物もいいな。あ、魔女帽子が掛けてある。売り物か??
「おおお……この杖、かっこいいのじゃ……」
柚子は身体の大きさくらいの杖が好きらしい。自分より大きいくらいがかっこいいだろうということらしいが、見ていて危なっかしくはある。
柚子が飛びついたのはショウウィンドウに飾られていた黒い杖。先が丸くなりその中に薄紫の魔石がはめ込まれていた。
「俺っちこっちの方が好き」
案山子は手に持てるのがいいという。そういったタイプは持つあたりに小さな魔石が嵌まっている。たぶんこれは付与剣と同じで、大きい魔石だろうが杖に嵌めたら小さくなるやつだ。
案山子が選んだのは白くて青い魔石の嵌まった杖だった。
「今はとうてい手が出せる値段じゃないけどな」
「ぐぬぬぬぅ」
「金欠だもんねッ」
ファマルソアンだけ入っていき、やがて年を取ったエルフを連れて出てきた。年をとっていてもイケメンだ。
「またずいぶんとぞろぞろ連れてきたな。店に入らない」
「こちらの広場でいいでしょう? みんな気になるでしょうし」
店からさらに少しだけ行ったところに広場があった。ドワーフと違って軒先に飲みスペースがあるなんてことはない。
「さ、ソーダさん。例の枝を見せて差し上げてください」
「あ、はい」
実は枝はそれぞれみんなの鞄に入っている。俺もいくつか取り出した。
「ほう……これは……可能性を秘めていそうな枝たちだな」
「事実、可能性しかない枝ですよ」
俺たちが並べたのは【鑑定】で、『ほどよく樹液の抜けた杖に最適なソウトゥースオークの枝』と出たものばかりだ。
「可能性しかない、か。そりゃ全部の枝に可能性があろう。その中でも杖に向くものを見つけるのが熟練の――」
「『ほどよく樹液の抜けた杖に最適なソウトゥースオークの枝』です。来訪者の【鑑定】スキルで見つけたものです」
周囲の職人たちがざわつく。
ハミエル爺さんは目を見開いて俺たちを値踏みした。
《クエスト 杖職人の矜持との戦い を受注しますか》
『なんか出たッ!』
『俺も、矜持と戦うの、ぼこぼこにされそう!』
『でもも楽しそうッ!!』
『【鑑定】持ちの二人だろうな……まあ好きなように』
とはいえ、断るのは惜しい。
受注する。
「【鑑定】か……今の来訪者が持つスキルだったな……それがどこまで本当かもわからないだろう」
「そうですね。どうします? 一応杖になる可能性の高い枝は持って来ていただけると思いますよ?」
「……」
ハミエル爺さんは黙ってしまった。
すると、周囲でことの成り行きを眺めていた杖職人の一人が声を上げる。
「俺は、【鑑定】にかけてみたい! 俺の店にある、取り置きの枝を見てもらえないか?」
「お前、まさか先祖代々受け継がれてるあの枝か!?」
「そうだよ。もう三百年は置いてあるが、未だに合う魔石は見つからない!! 正直さ、もっと杖を作って腕を磨きたいんだよ。だけど枝と魔石の在庫だけが増えていくだろう? 置き場所も資金もきついんだ。せめて枝は、そうでないものを始末していけるなら……」
在庫抱えてる商売人さんのつらみか。
「てことはさ、杖に合うと思って置いている魔石も【鑑定】してもらえばそうでないものを弾けるってことじゃないか!?」
明るい顔をして可能性にわいわい賑わっているエルフたちと、暗い顔をしたまま口を閉ざしているエルフがはっきりとわかれていた。
「ね、面倒なことになるでしょう? 枝は、なんかなかに扱いが難しいのです」
俺たちが無邪気に拾って来ちゃったんですけどーっとやったのを、見透かされている気がする。
「魔石についても彼らに説明してもよろしいでしょうか? 一応杖職人たちの秘密でもあるでしょう?」
「いや、秘密にもなっていない秘密だしな」
「聞かれたら普通に答えているよ。ただ、あの魔石の泉は魔物が強いからなかなか採りに行けないだけだし……」
そこでなにやらハッと気づいたようだ。
「こいつはソウトゥースオークだよな? あのブルーアドミラルを制して採ってくるだけの腕前があるということか」
「そうですね、ソーダさんたちはとても強いパーティーですよ」
「なら、魔石の【鑑定】もできるってことか」
さらに表情が明るくなる集団に、ハミエル爺さんはむうと低い声を漏らしていた。
「【鑑定】が便利なものだってのは聞いている。だが、俺たちも今まで磨いてきた審美眼で杖と魔石を集めてるんだ。杖はこれがいい、魔石はこれがいいって言われてもハイそうですかと受け入れられねえ……よし、一組でいい。一組だけでもいいからお前たちで最高の相性の杖と魔石を持ってきねえ!」
わーい、クエスト頑張るぞ~!!
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