38.水瓶のかぶり物
クランメンバーみんながすすめてくれるので、参加することにしたら騙されました。
『これ、視界、どうやって確保してんだ』
『俺の耐久増強頭装備がぁ……』
選ばれたのは俺とソーダでした。
『とてもお似合いでござるよ、ブフォ』
『シュールダネッ!』
『絶対嫌だぁ〜』
レベルが低くて役目もない俺が、ソーダ以外の被り物をしてないメンバーが眠ったら小突く係になった。素手だからダメージ微量なのでということだ。
『獅子座の宝珠を装備するしか無い……』
『専用アクセもってないじゃろ』
柚子もニヤニヤしてる。
町の人は山の東側を、俺たちは西側を探索する。まあ、西側にダンジョンがあるらしいので、ソーダが自ら提案していた。その方がいいだろうな。
「zzz」
「おらよっ!」
【スリープサイクロン】とか言う、範囲攻撃を仕掛けてくるモンスターがなかなかに厄介。前回もこれに散々苦しめられたそうだ。タンクがやられるとパーティーが半壊する。
だが今はこの、水瓶のかぶり物のおかげでソーダが絶対に眠らないので、安定して狩りが出来ていた。おかげさまですぐにLV20を突破。ということで現在は経験値分配ができなくなっている。とりあえず石を投げて一発でも当てておけと言われていた。が、みんな寝る寝る。寝まくるのでそちらを殴るのも忙しい。
「そのかぶり物ヤバイけど、ここまで効果発揮するの素晴らしいわね~」
「ただ、ソーダは眠り耐性育たないね。熟練度伸びないとそれ返したときにここの狩りが大変になる」
「例の泥寝酒飲んだら耐性付くんじゃないッ?」
ピロリと八海山の心配に、案山子の案はとても有効なように思えた。
「このボス狩り上手くいったら報酬要求してみようか」
「たぶんじゃが、セっちゃんが要求した方が上手く行くと思うのじゃ」
「わかるー! セツナくんNPC好感度高いわよね、全体的に」
「NPCはつまり、すべてアンジェリーナさん側の者ですからね。親切に接して損はない!」
「ぶれないでござるね」
半蔵門線に言われると複雑です。
ソーダの動画は見たことがなかったが、彼らの戦闘の連携は見ていて不安な要素が一つも無い。
斥候役の半蔵門線が少しだけ先行する。【気配察知】の熟練度がかなり突出しているらしく、【隠密】を使いながら索敵担当。パーティーチャットで敵モンスターの種類と数を報告。数が多ければ、こちらに柚子の術を展開。さらに案山子がその手前で術の発動を待ち、準備ができたところで半蔵門線が【投擲】で、アクティブリンクしないタイプの敵を呼びこちらへ連れてきて、柚子の【フロストサークル】という円形氷の魔法陣へ呼び込み、時間差で案山子の【メテオレイン】が降り注ぐ。魔法陣から漏れた敵を、ソーダが【挑発】してヘイトを自分へ。ピロリがそれを始末していく。
俺は誰かが寝たら殴って、【投擲】。
賑やかしです。
ちなみに、俺が味方を殴れるということはもちろんフレンドリーファイアあります。
ただ、パーティーメンバーの展開魔法陣は見えるので、範囲攻撃に入らないよう気をつければいいし、【フロストサークル】は敵モンスターの流される方向がある。術者は南西に立ち、術を展開すれば北東に流されていくのでそちらに近づかないようにすればいい。
柚子が術式展開中にスリープを喰らって寝入ったら、術は途中で霧散する。掛かってすぐ殴れば魔法はそのまま続けられるのだが、確実に即起こすのも中々難しかった。そのときはソーダが挑発で一時的に全部請け負うようにしている。
結論。モンスター可哀想。
「このダンジョンは耐性生えたら美味しい狩り場になりそうね~」
「私もだいぶ【睡眠耐性】の熟練度が上がっておるのじゃ」
「目に見えて掛かりにくくなってきたでござるね」
「氷よく効くし、柚子っちそんなに睡眠かからなくなってきたから、俺も【ダークストライク】で漏れたやつ始末していこうかな」
「そうね、それもありだわ。行軍が早くなるし」
ということで、さらにスピードアップで進んでいく。
前回来たときにマッピングしているとかで、いくつも分岐したフィールドダンジョンを迷う様子もなく、とうとう前回全滅したところまでやってきた。
『マップの形的に絶対この先がボスだと思うんだよなぁ』
『経験則で拙者も同意でござる。だから先行ではなく一緒に入った方がよいでござる』
初見のボスはどうしたって失敗することが多い。
『だが、今回はNPCがこれを貸してくれた。結構行けると思うんだよな』
ソーダが己の頭に嵌まった水瓶を叩く。
倒せる前提で貸してくれているのではないかということだ。
『とりあえず役割はいつも通り。ボスだからスリープのエグい攻撃もあるかもしれない。セツナ、頼むぞ』
『了解』
自分の役割は果たしますよ。
ちなみに、防御力がもう少し上がる装備を借りている。ごついから街中で着るのは嫌だな。
入る前に万全を期す。EP回復もぐもぐ。キンキの煮付け美味い。
『よし、それじゃあ行こうか』
そう言って、木々で狭まった道を、みんなで進もうとした。
《フィールドダンジョンボス『眠れる山の美少年』と対戦しますか?》
『よっしゃきた! 行くぞー!』
『アイアイサッ~!』
『氷漬けの美少年にしてやるのじゃ!』
『各人回復もちゃんと準備よろしく、俺が突然寝るかもしれないからHP半分はキープで』
『美少年ぼっこぼこにしてあげるわ』
『取り巻きがいたら拙者が始末するでござるねー』
風が吹く。
入り口は狭かったのに、生い茂る葉をかき分け進むとそこにはかなり広い空間が広がっていた。
俺たちは駆け出しその中央まで走る。
走るんだよ。またもや強制歩行です。
テレビゲームで言うところのムービーってやつみたいに、決められた行動をさせられる。 が、パーティーチャットは健在。たぶんここで相談する時間をとってくれているのかな?
『ちょっとこれはNGじゃないのぉ~!?』
『下半身隠れてるからオッケーでござるよ』
半裸の、ツタにまみれた美少年が広場の一番奥でもぞもぞとそのツタをうごめかしていた。
『触手ッ!! 全年齢対象どこ行ったッ!』
『下半身隠れてるからオッケーじゃよ』
パーティーチャットは審議の最中で、まったく戦闘のお話はでませんでしたー。
美少年は確かに。長くはない水色の髪に大きな赤い瞳。何が楽しいのかふんわりと笑っている。綺麗な少年ではある。下半身ツタだけども。全部の大きさは、都内の一戸建てくらい。今までのモンスターに比べると確かに大きい。
そして周りに、フェアリーサルースというモンスターが5匹も飛んでいた。ここに来るまで散々苦しめられた【スリープサイクロン】を放ってくる、空飛ぶ妖精のような可愛い少女の姿をしている。羽根が4枚ついている。
『俺忙しくなりそう?』
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頭に水瓶は、バランスが悪そうだなぁと思いつつ。




