373.求人募集
エルフの街が植物推ししているのはよくわかっていた。だって、ねえ? エルフと言えば森に住むスローライフ住人ってイメージがある。
でもこれだよ。
身長は俺より高い。肩より少し下くらいの髪を後ろで結んだりそのまま垂らしたりしてる黒い眼帯のイケメン店長が営む貸本屋がこれ。
赤に黄色のドットが入っているキノコのおうち。
なんか昔の玩具にありそうな可愛らしいキノコのおうちだよ。
店の前には木製のポストがあり、白い柵が敷地をぐるりと囲んでいた。
「ん? かわいいだろ?」
「可愛らし過ぎて戸惑いが……」
「可愛い眼鏡読書女子が好きそうかなって」
「下心!!」
アカンやろ。
「下心は君も同じだろう?」
眼帯していない方の目でウィンクしてきた。
ふぬぬぬ。
「でも本当に、写本師は募集中なんだよね。知り合いにいない? 本200冊以上は読んでいそうな眼鏡読書女子」
「酒好き酒瓶作りのドワーフ女子なら知ってますけど」
「あー、柚子ちゃんだっけ。オルロから候補としては聞いてるけど、こっちに来てくれるかなぁ。香水瓶の作り手として貴族間でも有名らしいし、引き抜いたらいらぬ恨みを買いそうだ」
キノコハウスの扉を開いて中に入ると、アランブレとそうかわらない。
「情報がだだ漏れている……」
「オルロには写本師志望になりそうな子いたら教えてくれとは言ってあるんだよね。でもさ、来訪者ってホント、本読む暇がないんだろうな。あちこち動きまくってて。セツナ君……いじらしいよね」
ここも情報ギルドの拠点の一つなのだろう。
「写本師になる人材を見つけたら、どんな特典がありますか?」
そろそろ情報ギルドの話も出そうだからなー。
「そうだな……アンジェリーナに用事作って、それにセツナ君が同伴できるようにする、プチ旅行券プレゼントとかは?」
「最大限努力をします」
「楽しみにしてるよ……てことでいらっしゃい。ミラエノランの貸本屋へ。俺も情報ギルドの一員だから、何か必要な情報があるなら集めるよ」
今のところ気になっているのは、賢者くらいかな。
「とりあえずまずは本を読みます。街歩き系と、賢者に関するものってありますか?」
「賢者の話も聞いてるんだ。へえ、耳が早い」
「そうですね、耳が良くなるドリンクいただいたので」
俺が答えるとウォルトは器用に眉を跳ね上げていた。
「鳥は癒やされるよね……そうか、ファマルソアン様か」
「さま??」
「エルフの街であの方は様付けされる人だよ。実力者だから怒らせたら大変だ。セツナ君はだいぶ気に入られているようだから、その立ち位置を大切にしたらいい」
来訪者の中で変態商人と呼び習わされるファマルソアンさんは、同族には様をつけて呼ばれる程の人物ということらしいが……うーん、わっくわっくしてる姿しか見ていない気がする。
さて、倍々速読みを利用してどんどん冊数積んで行くぞ!
賢者はエルフの街では有名な存在らしい。様々な職業をこなした賢人。知恵をもたらす知識人。人はあがめ奉り、それに嫌気がさした賢者は森の奥深くに姿を消したという。
力を持った人々が、さらなる高みを目指して賢者に会いに行くという話だ。
森の奥に行くならなおのことあのマントヒヒ似のモンスター攻略をもう少しできないときついかなぁ。【MP譲渡】がなかったら、半蔵門線の【氷柱】が連打できなくなるそうだ。氷遁は付与のように触媒は必要なく、本当に純粋に金らしい。金で遁術を教えてもらう。前提条件のクエストをクリアしたところで料金表を見せられて愕然としたという。忍術とは。
倍々速読みは本当に助かる。すぐ全部読み終わってしまった。
「そうだ。あのビーチに現れた楼閣の話なんかがある本ってありますか? あと、射手座の神話的なものがあればぜひ」
その都市の神話は押さえておきたい。
第6都市はスルーしましたが。
「そうだな……」
このキノコハウス、他の貸本屋にくらべて窓が大きい。本は直射日光はダメだが、キノコハウスの窓には全部緑のカーテンがあるので少し光が和らぐからだろう。
そんな明るさの中、本を手に取るウォルト……くっそ、絵になるな。スクショだ。俺がアンジェリーナさんとプチ旅行するために、眼鏡女子を犠牲にしなければ。
あれ、眼鏡ってデフォルト装備あったっけ? キャラメイク、もう本当に適当だったから覚えていない。
今まで出会った中に眼鏡していたキャラがいたかどうか……。
まあいい。ウォルトが眼鏡女子を求めていると知れば、眼鏡があるのなら眼鏡を手に入れる者が出てくるだろう。そこは自分で努力していただこう。
てことでウォルトの宣伝用商材を手に入れなければ。
「ウォルトさん、俺のやる気が出るように、俺に向かって写本師募集中って言ってみてください」
「君のやる気材料は提示したはずだが?」
「その上でさらに欲しいっ! あと、勤務形態とか? 募集内容とかもはっきりさせましょう」
動画に撮るからとは言えずに、なんとか言葉を引き出そうと試みるウォルト。
うーんと悩んでから俺に向き直ると、ニヒルな笑みを浮かべる。
「第7都市ミラエノランの貸本屋店主、ウォルトです。俺のところで一緒に写本師として働いてくれる可愛い眼鏡女子募集中。勤務形態? 好きなときに来てくれればOKだよ。手伝いが欲しい時は俺から連絡するから、都合が合えば来てくれればいいよ……こんなもん?」
運営さん、動画という概念を根底に薄ら織り込んでるだろ。
ヴァージル動画サイトで流していいのかなぁこれ。
「あとは、来訪者にとってのメリット……今は主に空の国、ケルムケルサの写本作業に掛かりきり。一緒にお仕事してくれる人を待っているよ」
よし、とか言ってる。
動画用にバッチリなんですけど。
これは、ヴァージル親衛隊みたいなやつが出来上がる予感。恐ろしい。
「このキノコハウスの位置情報も教えていいですか?」
「前提条件は付け加えておいてくれるかな。本200冊。それくらいは読んでおいて欲しいな」
図書館で本を読むか、それともウォルト眺めながら本を積むかで【知の泉】がバレるな。
ウォルトの顔目当てのやつはキノコハウスに来そうだな。飛行船も通ったし、金さえあれば簡単に来られるのがミラエノランだ。
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誤字脱字報告も助かります。
動画の概念というか、来訪者には不思議なコミュニケーション能力が存在すると思われてます。




