361.マリアベルの蒸し葉
門兵さんに教えてもらったマリアベルの蒸し葉は、門から西の方へ道なりに歩いた場所にあった。店の前に大きなハスの葉のようなものが飾られている。葉っぱだけ、飾られていた。
「気軽に行こう行こうと言った自分が悪かった」
そう言い出したのはソーダだった。視線の先にはピロリ。
「大丈夫よ!! どうせ初期の下着設定じゃないっ!」
叫ぶピロリに八海山が首を振る。
「ヒロちゃんに怒られたくないのじゃ」
「いやよぉーここまで来て入れないなんて!!」
「そのうち風呂施設とか出るだろうからさ、クランハウスに作ってやるから。サンセットを見ながら入ることのできる風呂をさ」
ソーダが肩をぽんと叩く。
と、店の前で繰り広げていたせいか、中から店員さんが出てきた。
「いらっしゃいませ。当店のロウリュウは冒険の疲れも吹き飛びますよ! 店内では皆様所定の服を着ていただきます。サウナはみなさん一緒に入るタイプなので、中でおしゃべりも可能です。他のお客様のご迷惑にならないようにだけお願いいたします」
目を輝かせるピロリ。まあ、サウナは湯船じゃないもんな。水風呂はあるけど。
「もちろん湯もありますが、そちらは男性女性それぞれの湯もございますし、混浴もございます。混浴では衣装のまま入ることをお願いしております」
色々と配慮されていた。
ローレンガの温泉で揉めたこととか情報としてとりこんでいるのだろうか?
まあ、とにかく無事みんなで入店。
いらっしゃいませとエルフのお姉さんが招き入れてくれて、受付で料金を払う。
現在みんな金欠だ。とはいえ、狩りをしてここで使う分くらいは稼いでる。お一人様5000シェル。本が10冊分だ。
そしてそれぞれに服が渡された。水着のような感じだ。男性も女性も下は変わらずベージュのサーフパンツ。女性は袖がかなり短いシャツも着る。
店内はジャングルのようになっていた。扉をくぐった辺りから湿度がぐっと高くなる。もさもさと木が生えて、花が咲き乱れていた。
「ジャングル風素敵ね~」
「結構人がいるな」
飲食スペースやお土産スペースまであったが、まずはサウナですよ、サウナ!
サウナの作法には詳しくないが、館内の掲示板にオススメサウナの入り方が描かれていた。いいよね、初心者にやさしい。サウナーはエキスパート多そうだから。
「身体洗うところは別々なんだな……ピロリ、お前大人しくしておけよ」
「わかってるわよっ!! ちょっと離れて1人で身体洗うわよ……」
何が怖いって彼女のヒロちゃんらしいからね。
俺も身体を洗う。
「【洗浄】」
「くっそ、俺も覚えようと思ってたのにまた忘れてた。メモっておこ」
そんなわけでお先だ。
ルンルン気分でサウナへ。
とはいえ、ゲーム内でとんでもなくサウナな気分が味わえるわけではない。
雰囲気を楽しむものだ。温泉はわりと温泉に入ってすっきりいい気分にはなれたが、サウナは我慢したりするのでそこまで熱さは再現しない、とサウナ室へ入った瞬間運営からお知らせが入りました。
『気分を楽しめってことでござるかねえ』
『気分は楽しいねッ! サウナ初めてッ!』
『俺も温泉についてるのくらいで本格的なのは未経験ですね』
身体を洗って続々集まってくるクランメンバー。
八海山が入って来た瞬間、尻尾がぱたりと落ちていた。だいぶ期待していた模様。
『まあ、雰囲気を楽しむ感じだな』
『だが、そうなるとこの施設の意味が問われるだろうな……クエストか』
『クエストだろうな』
八海山とソーダがもにょもにょと話し出す。
クエストか。
門兵が話しかけてくるのが珍しいしな。
そうか、あれがクエストの始まりなのか。
となればこの部屋にみんなでみんな1ヶ所にいる必要はない。誰とはなしに部屋を出て行こうとしたところで、あちらから扉が開く。
大きなハスの葉を持った男性エルフが入ってきた。
「みなさーん。もうすぐお楽しみロウリュウの時間です! 準備はできていますか-!? 水分補給もしっかりしてくださいねっ!」
するとその後ろからぞろぞろと追加で人がやってくる。そこまで広いわけじゃないサウナ部屋が満員になった。
「それじゃあ行きますよ~そーれ!」
石に水をじゃっとかけて湯気が立つ。ハスの葉でその蒸気を仰ぐと熱い空気がこちらへ押し寄せた。
『これはわりとロウリュウっぽいのじゃ』
『本来はもっと熱いが……ゲーム内ならこの程度かな』
八海山が語る。
「そ~れ!!」
じゅわーばさーを何度か繰り返してすっかり満足した俺たちは店内に散らばる前に水風呂までやってきた。
『ちべたいのじゃーっ!!』
『きゃー、すっきりだけど冷たい!』
冷たいのはわりとしっかり表現されるようで、うん、冷たい。みんなでキャッキャする中、八海山の尻尾がまた揺れていた。
『それじゃ行ってくるわ~』
『鳥さん待っててなのじゃー!』
サウナエリアから出ると、服が完全に乾いている。店内もこれでうろついていいとのこと。
俺も店内探索に乗り出す。
ここは2階建て。1階が受付と商業施設、2階が風呂とサウナと休憩所だそうだ。休憩所にはマッサージもある。
ちょっと本気でよさそうだな。時間があるときに寄ってみたい。
思い思いに店内を調べる中、お食事処に辿り着いた。案山子がすでにいる。
「案山子さん……」
「はッ! セツナっちッ!! これはあれだようん、美味しいよッ! 食券はそこッ!」
咎めたわけではない。なんていいところを見つけたんだという賞賛の「案山子さん」である。もちろん俺も買う!
食券型めちゃくちゃいいな。って、エルフの里食券ってどういうこと……ここだけリアルと同じなのが笑う。解釈不一致にならない? サウナというよりスーパー銭湯なんだが、ここだけ食券あるの、ふふ……面白すぎるだろう。
タルタルとり天カレーうどんにしました。美味しい。美味しいよ。
「セツナっち、いいの選ぶねえ」
「でしょう。タルタルがポイントですねこれは」
お食事処は少し段のあるお座敷席が20ほどある。テーブルはそこそこ埋まっていた。
「相席失礼するよ」
「どうぞどうぞ~」
ガタイのいいエルフのおっちゃんが来た。強面エルフさん。ご注文の品は天ざるだった。ソバもいいよね~。
「見かけない顔だが、来訪者さんかい?」
「はい。アランブレから飛行船が開通したので遊びに来ました」
「そりゃあ、ようこそミラエノランに。もう色々と見てまわったのかい?」
「それがまだ全然で。門兵さんにこちらのサウナをオススメされたのでみんなで遊びに来たところです」
く……天ざる美味しそう。天ぷらがさくって音を立てている。
というかここ、ローレンガと同じような和食系メインなの? いや、あっちではパスタ食ってる人もいるな……麺? 麺なのか? 案山子はラーメン食べてるし。米は……ないようだ。食券にもなかった。
「どこかオススメスポットはありますか?」
「そうだな……どんなジャンルのオススメをするかってぇ話だが……ミラエノランに昔っからある鳥の館は面白いぞ。悩みも吹き飛ぶヒーリングスポットだ」
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