358.素敵なクランハウス候補たち
避暑地って感じなんだよな。お安いログハウスが群生し、少し行くとお高いエリアが見える感じだ。
他にも2つ見せてもらったが、1番最初に見たところが1番いいヤツだと思う。大きさとか。
「いいわぁ~すごくいいわぁ~」
「リビングはふかふかの絨毯敷いて、ローテーブルがいいのじゃぁ~」
「今のテーブルはテラスのところに置けばみんなでご飯でござるね」
ぽわぽわ~んとした、うっとりした様子のクランメンバーたちに、俺は危機感を覚えている。
メインはアランブレだよね!?
「それでは次の場所へ。街の端から端へ行くのは少々骨が折れるので馬車を用意しました。どうぞ」
森を抜けると立派な馬車が二台。
「ファマルソアンさんってお金持ち……」
俺がつぶやくと当然じゃないですかと返された。
当然なのか。
俺と半蔵門線は走った方がずっと早いが、街中を暴走してると兵士に止められるんだよな。街の中では街の振る舞いをしなければならない。
しばらく行くと潮の香りが鼻腔をくすぐる。なんと、海が近づいてきている。
「森と海、自然溢れるミラノエランですよ。さあどうぞこちらです」
案内されるがまま着いていくと、浜辺があった。
真っ白い砂浜はリアルの世界ならプライベートビーチのような感じだ。他に人はいない。その砂浜さえもホテルの敷地で、夏の芋洗いビーチと隔絶した贅沢空間。
「クランハウスとしてオススメするのはこちらの一帯ですね。この砂浜自体が、ここに家を持つ方たちしか入れない場所です。家までは小舟で参ります。小舟付きのお値段です。船の漕ぎ方は、少し習えば来訪者の方ならすぐマスターするでしょう」
船があった。大きなものじゃない、渡し船、とても小さな船だ。定員は4名くらいだろうか。スキルが生えれば操れるだろうなとわかる。
「この辺り一帯の方との共有の船になります。まあ、足りないことはありませんよ」
多分無限お代わりできるやつなんだろうな。
つまり、ミラエノランもう1つのクランハウス候補地は、水上コテージ型だった。
「あああああ、もう絶対こっちぃ……!!」
「モルディブなのじゃああ!! こっち、こっちがいいっ!!」
「ヴィラでござるっっっ」
いやわかる。わかる。ヤバイここ、完全に、あああ……これはヤバイ。
「さあ行きましょうかね。頼むよ」
今日は船頭さんがいらっしゃいます。船頭じゃないか、なんていうの? まあいいや船頭さんだよ。麦わら帽に真っ青なシャツ。陽気にはいよっと返事をする。
俺たちは3つの船に乗った。
「まずこの辺り、1番手前のものからご紹介しましょうか」
あれ、さっきと違う。さっきは1番いいところから入ったのに。
水上コテージは、海側にせり出した桟橋部分にビーチチェアを置けるスペースがある。中も広々空間だが、大きさはログハウスの1番小さなものと代わりはない。
「1番コンパクトなタイプですね」
ものは言い様のファマルソアンさんだ。
船は次の並びへと移る。
「こちらは先ほどより3倍の敷地面積がございます。海に面したテラスも2倍ですね」
「これくらいはせめてないとなのじゃ」
「そうねえ。のんびり横になりながら、スレ眺めるのいいわねこれ」
スレ読むのか……。
「キッチンスペースもまあまあかなあ」
「ただ、生産施設はそれで終わりになってしまうかもしれないな」
ソーダが何やらポチポチしてると思ったら、あれだ、今案内されているからこの施設のゲーム的な設備が見られるようになっているそう。
全然気づいてなかったよ。部屋見てわあってなってた。
「なかなかでしょう? さてさて、商人として、やはりお客様に見合った商品を紹介できねばと思うのですよ。ここまで順番に下から見てきましたが、みなさまのクランにはこちらの方がお似合いだと思いますよ。さあ、移動しましょう」
船に乗り、たくさんのコテージを通り過ぎ、やがて少し離れた場所の島が見えてくる。
まさかこれは……。
「ミラエノランの海岸線には大小合わせて20近くの小島がございます。そのうち5つを今回のクランハウス用として提供することになりました。その中でもこれは1番大きな島です」
「島ごと……」
「お値段、3億7000万シェルです」
「うああああ、高いぃぃぃ……」
「現金一括ニコニコ払いでお願いしますね」
ニコニコファマルソアンさん。
がっくりきているクランメンバーたち。
『2倍の7億4000万の8割、5億9200万シェルか……無理だな』
『かといってアランブレを手放すのはなあ。ちなみに、アランブレ生産施設拡張は小さな生産部屋ができて、そのとき使う施設を出現させるようになるらしい。クランメンバーで使いたいときは交代だそうだ』
『情緒は一切なしでござるね。まあ、他に欲しい生産施設は拙者たちの調薬くらいでござろう?』
『木工だってあるわよ一応。やってないけど』
『セツナの修復師は?』
『アンジェリーナさんのところでやる。というかまだ個人で引き受けてってやったことないなぁ。図書館でやるのが多い』
たまに図書館に1人呼ばれるようにもなってきた。
『完全に予算オーバーだけど、おうち訪問だと思って楽しむわ』
そう言うとピロリと柚子が部屋の中に散って行った。
島は、船着き場の桟橋がある。白い砂浜が広がり、桟橋からそのまま家に繋がっている。半分水にせり出すように作られているのでテラス席には真っ白なパラソルが広げられていた。パラソルは設置済みのようだ。椅子などはない。
「こちらにはビーチチェアと小さなテーブルを置いてひとときを楽しむのも良いでしょうね。それか、あちらの2階のテラスで海を眺めながらお食事もよさそうです」
家は2階建てでやはり2階部分に個人部屋のスペースが取られていた。
1階は開放的なオープンキッチン。
「アイランドキッチンッ!」
もちろんコンロなどはまだ設置されていない。ここは買った生産施設を置くのだろう。
「ビーチでは泳ぐこともできます。この辺りに危険なモンスターは出ませんから」
『あっちに簡易小屋あるだろ? 調薬なんかの生産施設を置けるスペースがあるらしい。ちなみにビーチのどこにでも置ける』
島はだいたい大きな別荘の2倍の敷地がある。
『ここがあああ、ここがいいいい……』
『ここがいいのじゃぁ……』
ピロリと柚子の絞り出すような声が聞こえた。
このあと、2番目に大きな島、3番目に大きな島も見せてもらったが、1番目の大きな島を見たあとだとどうしても見劣りしてしまう。
これはとても困った事態になった。
本日、TOブックスさんから、
拙作、
『精霊樹の落とし子と飾り紐』が発売されます。
お手に取っていただけると嬉しいです。




