354.キラーフィッシュ
キラーフィッシュは動きも速いし、やはり何よりあのギザギザの歯が怖い。ホホジロザメのような見かけをしている。本能的に怖い。
海の中のシャークとか勝てる気がしない。
が、俺たちにはスキルがある!
2人は泳ぎも上手い。俺より断然上のスキルになっている。
となると、どうしたって狙われるのは俺。
俺の方に突撃してくるキラーフィッシュを撃退しなければならない。
取り出したのは空のポーション瓶。柚子がたくさんくれたものだ。それに海水を入れる。
「【沸騰】」
逃げながらそれをぽいっとやるとかみ砕いて……もだえてる。
その隙に俺は少し離れて、2人の拳が迫る。
ずんっと、水の中を振動が伝わってくるほど重い拳を受け、キラーフィッシュは身をよじる。
そう、トレジャーフィッシュはすぐお陀仏になった彼らの攻撃1回分だけでは倒れないのだ。体力があると言っていた。
すかさず【フロストダイス】。
2人はさらにもう一撃。そして離れる。
近くの気泡にいちいち赴かなくてはいけないのがキツい。
連続して攻撃が難しいのだ。
「それでも効いている。もう一度今のパターンを試そう」
【フロストダイス】に、俺の細剣での攻撃もまぜ、なんとかかんとかやっつけたころには気泡草の残りも少なくなっていた。
「時間がないぞ。急いでめぼしいものを持ったら上がろう」
俺たちは慌てて隅っこのトレジャーフィッシュの巣を探る。
剣、ナイフ、靴、缶詰。
「外れか」
「もう無理だ。上がるぞ!」
それでも惜しくて俺は手に触れたものを持って2人の後を追いかけた。
「ふああ、キラーフィッシュ強かった」
「いやいや、かなり早く倒せたから無事上がってこられた。よかったよかった」
「さあ、ここの気泡草も少なくなってきたし、これ以上は潜れないから戻ろう」
そう言ってもと来た道を引き返す。帰りはわりと楽だ。入り口で光る石を回収して、船から降ろされた縄ばしごを登る。
プールから上がった後のだるさがないのはいいことだ。
あれ、本当にかったるいからね。
船員たちからタオルが投げかけられるので、俺は【洗浄】をかけて綺麗に拭いた。そして一瞬で着替える。
この、カナリアイエローのサーフパンツはどうしたらいいのだろう。お返ししますも違うよね。やっぱり洗って今度返しますかな。【洗浄】はこの場でできるんだけど。
あたりはすっかり暗くなっていた。暗くなると酒盛りが自然と始まるのだ。モランもハザック親方のところで鍛えられているのかかなり飲むタイプだ。仕方ないから【持ち物】に入っていたツマミを提供した。鮭だよ。鮭のルイベ、そして念願のムニエル。本当は時間を見てヴァージルにあげたかったけど、時間がなかったやつ。
「美味い!」
「相変わらず美味い!」
海の男たちも大満足だ。
「そうだ、色々拾ったもの、山分けしないと」
「いや、別にいらんよ。それは初めて海底神殿に挑んだ者の褒美だ。セツナが持っていればいい」
とジャック船長。
「なかなか機転も利くし、トレジャーハントにうってつけの人材だったね。俺の知っている面白い場所をいくつか教えよう」
そう言って地図を広げる。
ジャック船長も部下に持って来させて、俺の地図にポイントが増えていく。
「あとは定期的に回ってくる会報にある地図は常に更新しておくべきだ。世界が、お宝が君を待っている!」
《トレジャーハンタークエスト:海底神殿第3層 をクリアしました》
おお、連盟クエストだった。
飲み食いしている間にアランブレへ到着。夜が明けて来た。モランとジャック船長と別れてクランへ戻ると、みんなが揃ってた。
「あ、ちょうど良かった~、セツナくん! 行くわよっ!」
ピロリがウキウキだ。いや、みんなウキウキしている。
「あ、お前また公式見てなかったな。今日の0時から第7都市が開いたんだよ」
「それは、見てなかったな。今まで海底神殿行ってた」
「トレジャーハンター連盟でござるね」
なんと、第7都市が開くと言う。
「ファマルソアンさんに連絡飛ばさないとじゃん」
「あ、そういやそうだったな。セツナよろしく」
みんな狩りに行ってて持ち物を整理整頓していたそうだ。
「ファンルーアの飛行船は大混雑ですって」
「まあでも、第6が開いたばかりじゃから、最初だけであとはやりたいクエストがある方に分散するじゃろ。第6都市は陰謀渦巻きに渦巻いていて楽しそうではあるのじゃ」
「打倒ネズミ王子って反政府組織みたいなのも出てきてるらしいな」
「そういった活動するの好きな奴らは結構いるのじゃ」
俺も慌てて自室へ。今拾ってきたものなんかは全部ぽいぽいっとタンスに詰めてしまう。
「船員にご飯ふるまっちゃったから、ストレージからご飯もらうね」
「ドンドン持ってってッ! ヴァージルにムニエル渡せたッ?」
「まだ! ムニエルも食われた……作るって言ったら喜んで狩りに行くよ、あいつ」
「ヴァージルパイセンのアッシュグリズリー狩りは一度見てみたいでござるね」
入れすぎないようにつめつめして準備万端。
と、ハトメールのお返しがくる。
『イェーメールから私船で第7都市ミラエノランへ行けますが、便乗します?』
ファンルーアまで騎獣で走り抜けるかと相談していた我々としては嬉しいお誘いだ。
「ファマルソアンさんが、マイ飛行船でイェーメールから一緒に行く? って」
もちろん返事はYESなので、俺たちは意気揚々とイェーメールへ出発だ。
『いやー、あの商人とゴリゴリに仲良くなれたのはホントラッキーだな』
『酒運びからいい流れが来てる』
『第7都市めちゃくちゃ楽しみなんだけど~、エルフのドレス、布をひらひらさせてるタイプで素敵なのよ。クランハウスができたら、また容量増えるってことでしょ~』
『え、ピロリさん、この間すっげー入るクローゼット作ってもらってたじゃないですか』
『不思議とね……服を入れる場所はあってもあっても足りないのよ……クローゼットなんてすぐ満タン』
『年中金がないからと金策に連れて行かれる俺の身にもなれ』
八海山が言うと、ピロリが高笑いしてた。
まあなんだかんだとここ2人は特に仲が良い。
イェーメールの飛行船発着場。
ニコニコとしたファマルソアンさんと、無表情爆発魔法美女のカランさんだ。
「いらっしゃいませ。それでは出発いたしましょう。我が故郷第7都市ミラエノランへ」
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