353.お宝部屋
トレジャーフィッシュは海底をさらったり、侵入してきた冒険者を喰らったりして、金品を強奪し溜め込む習性があるという。
恐ろしいお魚さんだ。
「ここら辺の海域は船の操縦が難しいからな。船が沈んだときは神殿から出て食べに行くんだよ。船が沈んだなら海底神殿に向かえって言われるくらいだ」
「それはそれは……」
ジャック船長が俺の腕なら問題ないがといいながら話してくれた。
青と緑が多く、時折白の混じる石で作られた海底神殿。気泡草のおかげで案外水がない。水がなければキラーフィッシュはやってこられないので多少の流血は問題なしとのこと。
とはいえ3層の中でもトレジャーフィッシュがいるのは水の中。ところどころ水に沈んだ部屋があるのだ。そういった部屋はすべて繋がっていて、トレジャーフィッシュもキラーフィッシュも潜んでいる。
「トレジャーフィッシュが宝を溜め込むのがこういった、小部屋の奥の方だ。気泡草を摘んで、投げ入れると部屋に空気が溜まる。だが、摘んだ気泡草から出る空気の量は決まっているから、この群生地の規模を考えると3つだな。3つの部屋をチェックすることにしよう」
モランがさあ、と手を広げる。
「どこに行く?」
構造としては、第3層はすべて水に沈んでいる。が、気泡草のおかげで天井付近に空気がある。そして、ここは大きな分厚い壁がぐるりと部屋を囲んでおり、その天井部分が壊されている。俺たちは分厚い壁の上を歩いているような感じだ。天井まで届いていない壁があるのだ。
だから下は全部繋がっているが、個々の部屋としても存在する。底の深いところにはトレジャーフィッシュやキラーフィッシュが出入りできるような小さな開口部が存在した。
「なるべく魚がいないところがいいんですか? それともいるところがいい?」
俺の質問にジャック船長がにやりとした。
「キラーフィッシュがいなくて、トレジャーフィッシュが1匹いるような場所がいい」
となると、ここと、あちらとその向こうか。
お仕事熱心な【気配察知】さんが条件に合う部屋を見つけ出してくれる。
この層のトレジャーフィッシュは稚魚で、成魚は俺たちを飲み込むくらい。つまり、俺たちを飲み込むくらいでかいヤツがキラーフィッシュだ。
「うん、セツナ君の【気配察知】はもう達人のレベルだね」
モランのお墨付きをいただいて、俺たちは水際の壁に張り付いていた気泡草をちぎって問題の部屋に投げ入れた。すると、沈んでいった気泡草から大きな泡がぶくぶくと溢れ出す。
「よし、行くぞ!」
先陣を切る船長。続くモランと俺。
水に投げ入れて初めて知るが、気泡草から溢れる空気は本当に大きい。時々周りに水がなくなる瞬間がある。
15分くらいでそれまでが勝負だ。
「いるぞ!」
気泡に飲まれた船長が落ちながら大声を張り上げた。
水はとても綺麗で透明度が高い。底の方に見えたのは一匹のトレジャーフィッシュの稚魚。オレンジ色の、ジンベエザメのような形をしていた。口が平べったい。
そしてさらに底には何やらキラキラ光るものが。
トレジャーフィッシュは始末してしまった方がお宝を漁りやすいらしく、まず先に倒そうと相談がなされていた。
たぶんだが、2人で余裕で倒せる。なんなら1人でも。
ただ、ここはトレジャーハンター初心者としての俺の鍛錬所だ。
俺中心に話を進めてくるのだ。やるしかない。
気泡草で空気を補充しつつ、手の中に【フロストダイス】を作り出す。そして、真上でそれを放り出した。
トレジャーフィッシュは口に入る大きさならなんでも飲み込んでしまうらしい。
見事に凍り付き動きを止めるが、1×2だった。
しかしそれだけの時間があれば彼らには十分だ。
「ジャック船長! モランさん! お願いしま……あ、ありがとうございます」
トレジャーフィッシュ南無。
打ち合わせはしたんだよ。一瞬動きを止めるって。止まったら2人で思い切りパンチかましてください! って言っておいたんだ。
どんだけ仲が良いんだよっていうくらい見事に腹側と背中側から叩き込んで、2人の拳が真ん中で出会うみたいな構図。
そんなことされたらひとたまりもなく、トレジャーフィッシュさんおだぶつでした。
そしてトレジャーフィッシュの巣穴とやらに潜入。いや、底の隅の方なだけなんだが。
気泡草を1つ持っているモランさん。みんなで空気補給しつつ物色だ。
武器、服、籠手、靴、あ、指輪だ。器用さプラス1だって。これは持ってて損はない。
「やっぱり稚魚はイマイチだな。いいもんは成体のところか。ガラクタも多い」
定番の空き缶とか、穴の空いた長靴とかな!
外れ感がすごくある。
同じようにもう1つの部屋を攻略し、3つ目だ。最初に思い切り気泡草を投げ入れて、それぞれ気泡草を持てるだけ持って飛び込む。
水の中を落ちるんじゃなくてほぼ空気中の飛び降り状態だ。
やっとドボンと水に着地したところで異変に気付く。
トレジャーフィッシュじゃない! オレンジじゃなくて真っ黒だ。目が緑色に光ってる。
これがキラーフィッシュってやつかあ。それでも俺は初手は【フロストダイス】。
1秒でも考える時間があれば違う。
船長がやっべって顔をしている。
モランがマジかって顔をしている。
【気配察知】は2人も使っていたはずだ。キラーフィッシュちょっと小ぶりなんだよね。間違えちゃった。てへぺろ。
でもでも、2人も同罪だからねっ!
船長が拳を構える。
モランも拳を構える。
2人ともやる気満々のようだ。
水の中で使えるのはやっぱり氷。ということでMP回復材もったいないとか言ってらんないと、俺はすぐさま触媒を取り出すと、気泡の中まで泳いでいく。
気泡の中に細剣を取り出して、触媒を振りかける。
「【氷付与】【氷刀】」
ピシピシと周りの水が凍る。
水に浸けたらさらに範囲が広がった。
細い刀身を中心として大きな氷の刀が出来上がった。
振るうのは無理だ。水の抵抗がものすごい。突き刺していくしかないだろう。
MPはほぼない。あとは自然回復分でできる生活魔法くらいだ。
キラーフィッシュ、始末してお宝ゲットだぜ!!
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