347.はじまりのトレジャーハント
もう辺りは真っ暗で、今からアンジェリーナさんのところへ行くわけにはいかない。それならばとお宝ダンジョンに行ってみることにした。何か掘り出し物があるかもしれないからね。
平原へ出てぎょろちゃんを呼び出す。
赤水晶をべろりんと食べたぎょろちゃんはご機嫌で俺を乗せて出発した。
夜の旅は結構目立つのだ。ぎょろちゃんの後ろ足から噴出される火が夜空に眩しい。
さすがぎょろちゃんである。
魔物が寄ってくるけど、俺も結構強くなったしなによりぎょろちゃんの回避能力、察知能力がすごいので余裕余裕。
あっという間に目的のダンジョンに到着した。ここのダンジョンはあきらかに遺跡だった。 見たことある。すごく、見た。映画で見た遺跡だ。ヨルダンだっけ? 岩肌に柱がいくつも見える。こういったダンジョンの入り口は、入るとマップが切り替わるからわかりやすい。初めての場所なので、マップはまっさらなんだが、壁に注意書きがある。
『やあ、初めてのお客さんかな? まずは聞いて欲しい。このダンジョンの最奥にはお宝が眠っていると言われている。ただそこに辿り着くまで数々の罠をかいくぐらねばならない。どうか、ナビの助言を聞いて進んで欲しい』
ナビ? と思ったら、何やらぴょこぴょこと奥からやってくる。【気配察知】ですぐにわかったので剣を抜いて警戒していると……人の顔面くらいの大きさがあるチョウチョだ。
「エグいな……」
「おいおい、兄ちゃん、人の面見てエグいはないだろうが」
昆虫は昆虫の大きさでいて欲しいです。
また色が毒々しい。紫と黄色と黒だよ。普通に警戒する。
「俺の名はナビ! このダンジョンが初めてのお前さんを無事奥まで届ける案内人さっ!」
「どうもセツナです。……じゃあ行きましょうか」
強制パーティー組まされたよ。無理やり入れられた。トレジャーハンター公認案内人だってさ。
ダンジョンはわりとわかりやすい構造だった。道は脇道はあれど一本道。たまに3つに分かれたりするが、そんなときはナビが教えてくれる。こっちが怪しいぞって。わざと違う道に行こうとすると慌てて止めてくるし、罠は地面の色が変わってるからすぐ気付く。途中道いっぱいの大きな岩が転がってきたときはお約束過ぎてわくわくした。
「これ、潰されたらどうなるの?」
「バカ言ってないでとっとと走れ! お前! もっと早く走れるだろう!?」
わざと手を抜いて岩に迫ってみたりしたらナビが慌てる。
このチョウチョ可愛いな。
でかくて毒々しいけど。
「そこからジャンプだ」
「いやー、俺無理かも~」
「お前ならできるだろ、とっとと来いよ!」
「いやーちょっと遠くて足踏み外しそうだなぁ」
なんてからかって遊んでました。
こっちのステータス確認してトレジャーハンター連盟に誘ってるし、飛べるように作られているんだろうな。
「今回の新人は困ったもんだぜ、度胸ってもんがない!」
すごくグチグチ言われた。
「いやいや、ナビ先輩のお力あってですよ。感謝してます」
すりよりキャラを演じてちょっと遊びながらダンジョン攻略する遊びに興じている。
「あ、ナビ先輩! あっちの穴気になりません!?」
「セツナ! お前! あっちはどう考えても危ないだろう。【気配察知】だ! 【気配察知】を使え!!」
言われなくてもほぼ無意識に使っている。なんかモンスターがうぞうぞしている。うーん、数が多すぎるな。行ったら死ぬかもしれん。
「なんかたくさんいます! 経験を積むにはいいかもしれないですね」
「やめろ! あっちにお宝はねえ! くたびれ損だ。こっちだこっち、こっちの道を行って右手の小部屋に入れ!」
お宝の位置まで教えてくれる親切設計だ。
「へへっ、さすがナビ先輩だなあ」
宝箱をいくつも開けている。
鍵はかかっていないものがほとんどだ。
俺が何も考えずすぐ手を出すから、段々と仕掛けのある宝箱には誘導しないようにまでなってきた。
「ここ最近で1番神経すり減らしてるぜ……」
「ハハハ! ナビ先輩ともあろうお方が何をおっしゃる! 宝箱を引き当てる素晴らしい才能! よ!」
よいしょーっ! どっこいしょー!!
結局ほとんどモンスターとは出会わず、罠は事前に教えてくれるし、回避方法も誘導してくれる。宝箱も安全なものばかり。
初心者用ダンジョンというが、ダンジョンですらなかった。
「あー、あそこが最後の部屋ですね!!」
ダッシュすると慌てて止める声がする。
「まてまてまて、あーっ!!!!」
あーっ!! 落ちたぁ……。
部屋の前に突然大きな穴が空いて俺は落ちました。
落ちる感覚は相変わらずなし。
どさっと尻餅をつくところから始まる。
「セツナぁ~」
上の方からナビの悲しげな声。
《はじまりのトレジャーハント【裏】が始まります》
【裏】!?
うん、ちょっとふざけすぎたようだ。
バサバサと音を立てて降りてくるチョウチョ。
「すみません、ナビ先輩」
「お前……急に走り出したらダメだろ……。ここはこのダンジョン最深部だ。モンスターも結構強いのが出るぞ。心してかかれよ。今までみたいに行動してたら1発で死ぬぞ」
それは困る。
数の暴力が来たら、ナビを囮に逃げるしかないな。
「どんなタイプのモンスターが出るんですか?」
「ここは闇の中。闇属性の魔物が多い」
んー、ミュス?
まあいいか。闇に対抗するなら聖だ。
ステータスウィンドウを出して斥候から付与師に変更。
「【聖付与】」
「付与!? お前、付与師なのか!!」
「へへっ、ナビ先輩、俺だってやるときはやるんですぜっ! どっちに行けばいいかは教えてください」
頼みますよナビ先輩。
先ほどまでは抜いてすらいなかった細剣を構え、俺は進み出す。ナビは……俺の肩の辺りをバサバサ言わせながら飛んでいた。
【気配察知】の精度下がるぞそれ。
というかやっぱり生理的に鱗粉バサバサを頭の横でやられるのは色々と耐えがたい。
「ナビ先輩、もう少し先を行ってくれません?」
「ばっか! 俺がやられるだろう!」
「【気配察知】ちゃんと使いますから大丈夫ですよ」
「おおおおまえ、ここに来るまで【気配察知】まったく使えてなかっただろう。信じられねえよ!」
なんてこと! ふざけていた弊害が。
鱗粉を我慢しながら俺はゆっくりと角を曲がった。
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