341.愛を叫べ
ファンルーアのアースドラゴンのイベントが終わり、いよいよ第6都市が開かれる日。リアル時間夜中の0時に開かれるということで、その手前のマップにプレイヤーが山ほど集まっていた。
「ぎょろちゃ~ん」
なぜか漆黒のコルニクスの女性たちに大人気のぎょろちゃん。
他人を乗せるのは嫌がるが触られるのは平気みたいで、みんなになでなでされていた。
「爬虫類って苦手な人が多いと思ってた」
素直に感想を漏らしたら、どうやら苦手ではあるが、この銀色のフォルムが生々しさを感じさせないのでいいらしい。
「目があちこち向いているのが愛嬌があります」
鯉ボートレースでお世話になったマロンさんが言うと、周りの女性たちが頷いてまた撫でていた。
ぎょろちゃん嫌がってなさそうなので自由にさせていたが、カウントダウンが始まった。石に戻ってもらうと、ああ、とため息が漏れている。アイドルぎょろちゃん。
そしていざ扉が開かれん。
ぎぎぎぎと音を立てながら綺麗なおねいさんが描かれていた扉が二つに割れて開いた。同時に門の外に兵士が現れる。
わーっと声を上げながら入ろうとしたところで、それ以上前に進めなくなった。
「第6都市フロディーシウは乙女に守られし領地。乙女に真実の愛を伝えよ!」
「乙女に真実の愛を語りし者は自然と前へ進むことができるだろう!」
門の両側に立っている兵士が声高らかに叫ぶ。
その場は騒然とした。
「真実の愛ってなんだよ」
「好きな人ってこと?」
なんて話を聞いたところでピロリが何人か跳ね飛ばしながら前に出て言う。
「ヒロちゃん」
それ以上進めなかったのが解除され、1人門をくぐる。
「おっさき~」
そこからは恥ずかしげもなく言える者だけが進んでいった。
もちろん俺もはっきりしっかり宣言したよ。
「アンジェリーナさん!」
許可でましたー。
「セツナくんって、彼女外人さん?」
「でも、『さん』って言ってたよ」
「憧れの人的な~」
なんか話題話題。他のプレイヤーにアンジェリーナさんが認識されていないようでよき。
門をくぐる手前で黒豆がお姉さんたちに詰め寄られている。
「で、黒豆誰なの?」
「もちろん私だよねー?」
「黒豆ちゃんは私よね?」
こわいこわいこわい。
気になって前に進めない。
それは周りも同じようだった。
やがて困り果てた黒豆が一言。
「家族」
むむっと顔をしかめるお姉さんたち。あー、ご家族より自分よねまでは言えないヤツ?
黒豆が歩き出し、門まで辿り着いたのを見てお姉様たちも宣言した。
「黒豆!!」
全員が全員で通れるのってすごいことだと思うよ。愛が重い。
ソーダ:
隣がガチ友だち同士らしく、しかも、女男女。もめてるwww
ピロリ:
いいから早く入ってきて!
八海山今更照れるんじゃないわよー。私でもいいのよ★
八海山:
気色悪い。
案山子:
半蔵っちの息が止まってるッ!
柚子:
既婚者には余裕の問題なのじゃよ。はっはっはーなのじゃ~!!
まあなんだかんだとみんなくぐり抜けて入って参りました。
最終的には親という最強カードを振りかざせばいいという話に。
中に入ったところでパーティーを作り直してそれぞれ別行動することになった。門兵からあの質問をされた瞬間、パーティーチャットを解除されたのだ。パーティーチャットで言ってお茶を濁すことがないように? 相談しないように?
みんな好き勝手に駆け出す。俺は真っ先に神殿へ。
ここはどう考えても参拝しどころだろう!!
神殿はどこも同じ作り。とてもわかりやすくできている。中へ行くと門に描いてあったように美しい女性の像。ペンを持っている。あれが、乙女座の好きポヨ日記を書いたペンか。
いつもと同じように膝を折り祈る。
『アンジェリーナさんともっともっとお近づきになれますように』
『恋するって素敵よね♥ 頑張ってね』
《乙女座の加護を得ました》
おう。
ありがとう乙女座の神様!
効果は……意中の相手の名を呼べばHP回復効果が少量増える。さらに意中の相手と一緒にいると周囲の自然回復効果が少量増える。と。
少量……。
意中の相手と一緒にいると……。
まあ、名前を呼べばいいってのはいいかも。多分それをさっきインプットしたんだろうな。ソーダが見た噂のお相手たち、揉めそう。さらなる火種だ。
さて、みんな次の都市のソールさんの師匠へのノートは持っているそうだ。
しかし、ハインリッヒぼっちゃまへ向けてのよろしくねのお手紙はもらっていないという。闇の魔物ミュスに関する何かがあると思うのだ。
ソールさんの心遣いはありがたいが、ミュスで因縁ができてしまった俺としては出会いたくないのであれはそっと【持ち物】にしまったまま上手くこの街を通り抜けたい。
ソーダ:
もう次の門についたやついる。でもまだ閉ざされてるって。飛行船開通と同時かな。
八海山:
種族クエスト開いているし、謎解きなんかはやらないんだろうな。ここはほとんど素通りになりそうだ。クエスト探しはした方がいいんだろうが。
下手に出会うとまた揉めそうだからここは必要なものをみんなに探ってもらってこれはやっとけ的なクエスト以外は素通りというか、寄りつかないようにしよう。
と、目の端にミュス。
反射的に刺す。
あ、やっちゃった……。
「キャーっ!」
「ミュスを、ミュスを刺したわっ!」
「親衛隊が来るぞーっ!!」
なにぃ!?
普通に歩いていたNPCが叫んでいるんだが。
いやいや、ミュスは害獣ってお付きの人も言ってたじゃん。
いやなによ……。
それなりにいた人がざっと引いていった。
残されているのは来訪者だけ。
みんな、どうしたどうした状態だ。
「セツナさんだよね。ミュス、刺したらダメ?」
「さあ……」
とか言ってる間にまた視界にミュス。刺す。
ごめん、もう身体が反射で動くんだよね。
そんな風に戸惑っていると、前方から黒い騎士服を着た人たちが現れた。
周囲の店の扉から、人々がチラチラこちらを見ている。
プレイヤーもちょっと距離を取っていた。
いじめないで……何さ……悪い予感しかしないんだけど。
俺の細剣にはミュスが2匹串刺し。普段なら一分もしないうちに絶命したら消えるのに今は消えません。イベント巻き込まれてるよ。
「貴様……このフロディーシウにおいてミュスを狩るとはどういうことかわかっているのか!?」
「王都の冒険者ギルドでは常時討伐依頼が出ている害獣ですけど、わかっていらっしゃるのですか?」
絶対これハインリッヒぼっちゃま何かしてるって。いやでも、聖地にいたときはまともだったよね、交代後のお付きたち。交代前も、やっべーって顔してたからアカンことはわかっていたはず。
「王都は王都、フロディーシウはフロディーシウだ。ここではミュスは愛玩動物である!」
「ふざけんなっ! 闇属性の魔物が愛玩動物になってたまるかっつーの!!」
ギラリと、俺に圧を掛けていた騎士が眼光鋭く睨んでくる。
「反逆者を捕らえよ!」
聖地に行く前からなのか、行った後なのか、どうなってるのこの第6都市!!
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