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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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336/362

336.お久しぶりのモーゼス様

 モーゼスお爺ちゃまはしっかり覚えていたようで、それはそれは歓迎された。


「お久しぶりです。お元気そうでなによりです」

「セツナさんも、随分たくましくなったようだね」

 あ、ステータスから確認されたな、これ。

 美味しい紅茶とケーキをいただきました。マンゴーケーキだ。


『うまっ!!』

『甘いものそこまで得意じゃないけど、これは美味しい……』

 猫じゃらしも満足そう。


「それで、今日はどんなお願いかな?」

「ええと、婉曲な言い回しは上手に使いこなせないので、直球で言わせていただきます。俺と、友人の猫じゃらしを、王族のどなたかと合わせていただけないでしょうか!」


 あまりにも分不相応なお願いに、周りに控えていた騎士が狼狽えている。


 だがさすがは元伯爵様。モーゼス様はふむと唸って俺と猫じゃらしを交互に見やる。


『石化のデバフつきそう』

『恐ろしい眼光ですね』

 相手の次の言葉を待つしかできなかった。


「詳しく聞いた方がいいのか、それとも、聞かずに行きたいのか」

 頭ごなしに否定する気はないらしい。


「詳しく話して、モーゼス様が身動き取れなくなるのが一番困るなと思います。俺の願いと、伯爵家としてのモーゼス様の意向の間で困ってしまうのが」

「困ってしまう……か」

「正直あまり時間がなくなってしまいました。できればお昼までにケリをつけなくてはと思っております。その後のことを考えると」

「昼まで、か。夜には時すでに遅し、と?」

「はい、夕方では遅いのです」


 学園の事態も把握しているだろう。夕方という言葉にピクリと眉を上げた。


「……わかった。ただし私も一緒に行く。しかし……夕方だろう? アランブレは遠い……」

「そこはおれ……私に任せてください!」


 猫じゃらしが手を上げる。

 そう、どうしたってポータルが必要。でも八海山は子爵側だ。さすがに敵に塩を送るような真似をさせられない。そうしたら、ロジックさんの中でも珍しく今回のやりとりに参加していないポータル持ちがいるらしく、ウロブルからアランブレへポータルを出してくれると外で待機しているのだ。


「来訪者の移動手段に便乗させていただくのは初めてのことだな」

 と、モーゼス様もにっこにこだ。他に二名、護衛がついてきている。


「マツリちゃん悪いね。帰りもお願いするかもだから、アランブレにいてくれるか?」

「はーい。この貸しは高いよ」

「わかってるわかってる。今度素材集め手伝うから」


 ショートボブの金髪エルフちびっ子さんが杖を振るうとポータル出現。俺がひょいっと乗っかり、すぐモーゼス様たちもやってくる。


「一瞬だな。これは、うらやましい。来訪者を雇いたいと言っていた息子の気持ちがよくわかる」

「モーゼス様がこんなものを行使しだしたら、毎日あちこち歩き回って我々の気が休まりません」

 騎士さんから抗議されてモーゼスさんは笑ってた。否定はしないんだな。


 すでにハトメールは飛ばしているらしく、貴族門を簡単にくぐることができた。そして以前通されたパーティー会場も通り過ぎ、謁見の間……と思ったら中庭だった。周りは木に囲まれ、少し屋根がある白いなんとも装飾華美な柱。その内側にテーブルと椅子があった。


 そこには金髪の美女と、王冠を被った男がすでに座っていた。


「こっちだモーゼス」

「お父様、ごきげんよう」


 二人は座ったままそう言って手を振った。


 第二王妃と現王様か! でもこれは助かる。謁見の間だと話が広まるのが早そうだったから。


「お久しぶりです国王陛下、ヴィクトリア様もお元気なようでなによりです」

「モーゼス、そなたが宮廷の権力から逃れるために早々に引退したのは本当に惜しかった。せめてヴィクトリアにはもう少し頻繁に会いに来てやってくれ」

「嬉しいお言葉にこの老人、目の前がかすんでしまいそうです」


 椅子を勧められて、俺たちも座る。上座はどこなのだろう。俺たちの座る位置は? とまごまごしてしまった。丸テーブルだから気にしなくていいの意向なのだろうが。


「さて、申し訳ないが少々ごたついていてな。あまり時間がない。来訪者のそなたらも、回りくどいことは苦手であろう。用件に参ろう」


 俺がチラリと猫じゃらしを見ると、力強く頷いている。


「単刀直入に申し上げることをお許しください。今日は陛下へ献上するものを持って参りました。剣なので少し離れてお出しします。周囲の護衛の皆様が反応しないようお願いいたします」

 斬られたら終わるんで、俺ら!


 そう言って1度座った席を立ち、猫じゃらしはテーブルから十分離れたところでセークティオを取り出す。


 騎士たち、言われてても反応しちゃってるよ。

 猫じゃらしはうやうやしく跪いて剣を掲げていた。


『セツナ君バトンタッチ!』

『えええ……了解です』


「お忙しいのがウロブルの件ならば、これで、陛下の思う方向へ導くことができると思われます。彼の伝説の剣、セークティオでございます。鞘は残念ながら見つけることができませんでしたが」


 俺が言い切る前に、陛下は立ち上がり、隣に座っていたモーゼスが俺の腕を掴んだ。


「まさか、まさか……」

「彼の地を調べて掘り出したものでございます。私は来訪者特有のスキル、【鑑定】を持っております。アランブレの星座神、獅子の神に誓って本物でございます」


 ちょっと獅子神様を利用させていただきました。神に誓ってってかっこいいよね。


 鞘は見つからない。たぶん鞘を持ってると思うんだよね、ロウォール子爵。

「これは特殊な剣だと聞いております。【鑑定】にも、『見えぬものすら斬る』とありました」


 俺が言葉を続けると、ヴィクトリア第二王妃が頷く。


「縁や、忠義、恨みや、嫉妬など、大切な物から危険なものまで、斬ってしまうと聞いております」


「ハハハ、なんとも、散々我らを悩ませていた諸悪の根源がこのようなところから湧いてでるとは……」


「陛下、夕方、ウロブルで代理決闘が行われると聞いています。友人も巻き込まれています」

 嬉々としているだろうが。大手を振るって対人戦だもんなあ。ピロリはこの間の聖地でのトーナメント、とっても楽しかったそうだ。


「時間が、ありません」

「そうだな。至急手配せねばならぬことができた。茶会はこれにて失礼する。そなたらにはまた後日モーゼスを通して連絡しよう」


 そう言って猫じゃらしからセークティオを受け取ると、国王陛下は去って行きましたとさ。

『このケーキ食べてみたいんだけど』

『俺もそう思います!! 食べちゃいましょう』


 ささっと席に着いた猫じゃらしがわざとらしく緊張して喉が渇いたと茶を飲み干して、自分でお代わりを入れる。

 俺も便乗してお茶を飲み、それにしても美味しそうですねーとフルーツタルトに手を伸ばした。だってこれ、シャインマスカットだよ。季節関係ないんだろうけど、シャインマスカットのタルトとか、絶対食べたい。俺はフルーツタルト大好きっ子です。猫じゃらしもマンゴーケーキが美味しかったからか、甘いとわかってても王家が出すケーキを食べたかったらしい。


「確かに、ウロブルで聞いていたら立場を考えさせられたな……」

 モーゼス様がぽつりとつぶやいた。

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― 新着の感想 ―
「ええと、婉曲な言い回しは上手に使いこなせないので、直球で言わせていただきます。俺と、友人の猫じゃらしを、王族のどなたかと合わせていただけないでしょうか!」 合わせて→会わせて だと思います
盤面ひっくり返しきましたね。 ここまで戦力集めたり頑張って情報戦やってたプレイヤーの方々お疲れさまでしたw
モーゼス様に渡してたら水◯黄門ルートになってたなって印象。(護衛と仲いいし)
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