332.ロウォール子爵が持つもの
捕まえた盗人を引きずって、正面玄関の方へ向かうと、アナウンスがあった。クエストは無事完了らしい。
ここまでで終わりってことだ。
「ありがとうセツナさん。後日どのような後始末になったか、話せるところをヴァージルから伝えさせるよ」
「いえいえ、お役に立ててよかったです。連絡も大丈夫ですよ」
お嬢様のバトルに巻き込まれたくない。こっちは親なのかもしれないが。
「本当に……欲がないんだな」
「いつもヴァージルにお世話になってますので」
「こちらが世話になっているような気もするが……また俺の方で礼は考えます」
ヴァージルの言葉にジェロームは頷いた。
そこで今回の騒動は終わりだ。それじゃあと分かれて俺はイェーメールの外でミュスを狩ることにした。
出て直ぐあたりはミュスが多い。アランブレとイェーメールは始まりの街的な立ち位置で、強いモンスターは配置されないようだ。日が昇るまで狩りを続け、冒険者ギルドに納品して朝市へ。
イェーメールの朝市は美味しい。少しだけ砂糖を入れたカフェオレに、コッペパンを横に切り、ザワークラウトの上に皮がパリパリの太いソーセージがのっている。ふんわりとパリッとじゅわっとで酸味と肉の脂が口の中に広がった。
うめーっ!!
ウロブルの朝市も、ローレンガの朝定食も美味しいけど、こいつもやめらんない。
腹ごしらえをして、ちょっと露店を見て回った後に貸本屋へ向かう。宵っ張りさんだから朝はきついかなと思ったが、店は開いていた。
「おはようございます」
「おう……」
ちょっと眠そう。
これきっと客に合わせてくれてるよなぁ。
「今日はちょっとご相談があって。カフェオレ飲みます?」
オルロは眉をぐいっと上げたが、黙って朝市で買って【持ち物】へ入れておいたカフェオレを受け取った。
「今日は情報を買おうと思って来ました」
金欠だから手加減して欲しいけどー。
クランチャットでも疑問が出ていた。
なぜ公爵家とたかが子爵家が張り合えるのか。昔武功を立てて出来上がった家門といえども、公爵と子爵だよ!?
絶対何かあるって。
「ほう……そっちの話か」
「一応料金聞いてから答えが欲しいんですが……今、お貴族様の間で派閥争いがすごいの、ご存じですか?」
「はて、どの派閥の争いの話かな?」
オルロはニヤニヤしながら聞いている。じーさんの意地の悪さが出てますよ~~!
というか、いくつかあるのか?
「ロウォール子爵と、モティスファ公爵です。友人たちが、ほら、あのドワーフの柚子も、ウロブルの学園で巻き込まれてて大変みたいです」
「へえ、あのちっちゃい娘っ子もか。そりゃ大変だな」
少しだけ真顔。柚子はオルロとけっこういい関係を築いている模様。
「ただどうして公爵家と子爵家がこうやって張り合えるかが不思議なんですよ。公爵と子爵なんて天と地の差でしょう? 何かあるのかなって」
「ふむ……」
にやりと笑うオルロ。
「まあ、来訪者のあんたらは知らないことがあるだろうなあ」
「普通は知ってて当然ってことですか?」
「いや、庶民は知らんだろうよ。……そうだな。朝飯がまだなんだ。朝市で何か買ってきてくれ。それで教えてやろう」
「ええっ!? その程度の話!?」
「その程度だが、知らんのだろう? あと、答えはそのまま渡すつもりはないからな!」
お爺ちゃんにもてあそばれてる気がする~!!
まあリクエスト通り朝市へダッシュだ。オルロさんの胃にも受け付けてもらえるものはなんだろう。わからずに大量購入になる。
「……多すぎるだろうよ」
「好みがわからなくて」
甘い蜜掛けパンと、分厚いハムを挟んだサンドだけをとって朝食は終了らしい。残りは【持ち物】にしまう。
「ほら、そこの薄い紙の束があるだろ? 取ってくれ」
そこというのはカウンター脇の棚だ。ここには紙の束が無造作に置いてあって、前から気にはなっているが何か整理中のものかと思っていた。
「そこはな、俺の書き付けを置いているんだ。この辺りで起こったことなんかをまとめてるのさ」
「オルロさんの日記!!」
「にっ……まあ、そうか? いや、違うぞ……」
とりあえず手に取ると、オルロさんの元へ。彼がペラペラとめくる。そうして1枚の文字がみっちり書かれたものを取り出した。
「500シェルだ」
「商売熱心!」
もちろん払わせていただきます。
席に座ると読むスピードが速いのも健在だった。
オルロの日記、もとい、書き付けには、ロウォール子爵家の先祖が昔ゲートが開かれたとき追いやった戦いについて書かれていた。
アルバート・ロウォール子爵の武勇についてだ。
王家はこれに感謝し、庶子であった騎士に子爵位を与え、アランブレに邸宅を作ったとある。領地は飛び地でアランブレの外れにあった。経営などはごく普通。ただ、武勇を誇り、その後も優秀な騎士を輩出する家門として有名らしい。また子だくさんで伯爵家に娘を嫁がせるなどして、血縁を結んできた。
そんなことを年号なんかを交えて書いてある。
ロウォール子爵家に伝わるのは伝説の剣だ。この剣もあってアルバート・ロウォールは窮地を脱したのだともあった。
剣の名はセークティオ。
すべてを切断する剣と言われ、王族はこの剣を恐れていると言われている。
「……セークティオ?」
「ああ、伝説の剣だ」
「伝説の剣をなんで王族が恐れているんですか?」
オルロはにやりと笑った。
意地の悪いじいさん顔になってるー!
「セークティオの剣については本があるぞ」
立ち上がりカウンターから出てきて、テーブルに座ってる俺の前に本を置く。そして差し出される手。
500シェル也。
この世界にはいくつか伝説の剣と呼ばれるものがあった。その内の1つセークティオは、英雄セークティオンが使っていた剣だった。
切れ味もさることながら、剣が発するオーラは相手をそれ以上前に進ませない威圧を発する。
その存在感の前に誰もがひれ伏すのだ。
そしてセークティオはモノを斬るだけではない。縁や、好意、悪意などの意識も斬ることのできる恐ろしい剣だった。
恐ろしい剣ですね。
「縁や好意、悪意を斬る、ですか……」
「そう、忠心や恩すらも斬るらしいな」
あー、そこら辺を恐れてる?
「でもそれなら、子爵は穏健派の支持を斬ればよくないですか?」
「俺もそう思うよ」
ニヤニヤ。
ニヤニヤしてる!!
ヒントをくれようとしている。
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