328.穏健派に巻き込まれ
乙女座に関する書籍を読みあさっていると、アンジェリーナさんから話しかけられる。
「今度は乙女座……第6都市?」
「はい! もう少ししたら行こうねと話してまして」
「来訪者は本当にあちこち行くのが好きね」
「新しいものを見るのは楽しいですよ」
アンジェリーナさんと一緒にいるのが一番楽しいですけどね。
「そういえば、修復の依頼をいただいているのよ。もしよかったら一緒に行ってみる? 貴族の方なのだけれど」
「態度に気をつけないといけないやつですね。大丈夫です。余計なことを言わずにアンジェリーナさんの技術を盗みます!」
「ふふ、そうね。もちろん手順はきちんと教えるけど、見て経験しないとね。それじゃあ行くことになったら連絡を入れるわ」
師弟チャットメール待ち、了解です。
未だに事務的なメールばっかりで、それ以外のメールってこないんだよね……。寂しい。
それでもお仕事がもう一段階進むようだ。楽しみ。
思う存分本を読んだ後は、ミュス狩りとする。ハチさんで金策も考えたんだが、次にログインしたときメールが来る可能性が高いので、アランブレ周辺でログアウトしたいのだ。
あまりクランチャットで話せなくなるかもと言っていた学園組だが、結局クランチャットでなんだかんだと話している。パーティーを組めなくなっているだけのようだ。
ピロリ:
ちょっとあんたんところのお嬢様、植木鉢2階から落とされた報復にタライ落としてくるってどーいうことよ!!
半蔵門線:
アマリアお嬢様がやっておしまいなさいって言って、調子に乗ったプレイヤーがどこからかタライ持ってきたでござるよ……
柚子:
こっちの【気配察知】持ちがとっさに身を挺してクリスティーン様をかばっておったが、わりとホントにドン引きしてたのじゃ。かばったプレイヤー可哀想だったのじゃ。
ソーダ:
ガコンってめっちゃいい音してたもんなwww
八海山:
そちらの貴族的嫌がらせがなかなかエグいな。伯爵令息の販路潰したとか。
ピロリ:
由香里さんがお嬢様と裏工作したらしいわよ。他のプレイヤーも一緒に。
八海山:
大変貴族らしいから、アマリアお嬢様発狂してたぞ。
ピロリ:
あの小娘、調子ノリすぎだからそれくらいでちょうどいいんじゃない? っていうか、公爵相手によくやるわ、子爵風情が……ってNPC伯爵令息が言ってたわよ。
案山子:
どうかんがえてもッ! 人の婚約者、しかも王子様を略奪する方が悪いッ! アマリア陣営の俺っち南無ッ!!
ソーダ:
セツナ~、知り合いのほとんどが学園のこれに巻き込まれてて、あんまりウロブル離れられないんだけどさ、アランブレの貴族の様子とか、なんかわからない? どーも入ってくるクエスト見てると、親世代が動いてそうなんだよ。
半蔵門線:
確かに、勲章授与の話とかが流れてくるでござるな。阻止しろ案件で。
セツナ:
アランブレでお貴族様に知り合いいないんだよね。わかんない。
残念なことに貴族の騒動にはノータッチですんで。
「最近はずいぶんと生意気を言う小娘がいるようで」
おほほほほと笑うご婦人相手に、あらあ、とかまあとか返しているアンジェリーナさんの大物感!
俺はさらに後ろで立ったまま、わずかに微笑むという表情を固定して黙っている。
「先の戦で功績を立てるつもりだったらしいのよ。でもねえ、戦なんてないのが一番でしょう? 戦は始まる前に終わらせるのが一番よ。今回はほとんどパフォーマンスとして戦っただけで、かなり不満だったらしいわ。なんでも来訪者の方が尽力してくださったとか」
伯爵夫人は俺の方をチラリと見て微笑んだ。
俺も微笑み返しておく。
「娘がウロブルの学園に入学しているんですけれど、かなり大変そうですわ。なんでもどこかのはしたないご令嬢が婚約者のある王子を誘惑したとか……」
よく知ってます。
「そうそう、推進派のナンドゥーロ子爵が、最近海運業を始めようとファンルーアで何やら怪しげな荷物を運んでいるとか……バスタビア子爵がイェーメールの領地で採れるランカの実、ほら、滋養強壮に聞くと言われているあれですわ。あれを領主の許可なく流しているなんて話も……」
《クエスト ナンドゥーロ子爵の海運業の行方 を受注しますか?》
《クエスト バスタビア子爵の商品横流し を受注しますか?》
なぜざまぁ騒動に俺を巻き込むんだYO!!
2つ出てきたってことは、1つしか選べない系。
というか、これ、俺、穏健派に入ってる? まあ、心証的、やっていること的には穏健派で間違いないんだけどな。
うわーどうしよう。
でも気になるのはイェーメールが関わってる方だよなぁ~。ヴァージルの実家で横領が行われているかもって話だろ? ヴァージルかトラヴィスに言って、次期領主の長男に調べてもらうのが一番じゃね?
ということでぽちっと、バスタビア子爵の商品横流しの方を受注した。
「お弟子さんの腕も良さそうね。今度はアンジェリーナさんがお忙しいときはお弟子さんに依頼するわ」
「今日くらいの修復でしたら任せられるのでそうしてやってください」
えっ、これ、半人前に昇格した!?
貴族の屋敷を辞し、連絡はアンジェリーナさんに入ると思うから、連絡が入ったら教えると言われる。
「なんだか、アンジェリーナさんの顧客を取ってしまったみたいで嫌ですね」
「気にしないで、正直修復師が少ないのよ。私は貸本屋の経営もあるから、セツナくんが代わりに動いてくれるのは大歓迎よ」
「アンジェリーナさんがそう言うなら……」
本心ならいいんだけど。
セツナ:
なんか俺も穏健派のクエストもらった……巻き込まれた。
ソーダ:
やっぱりそうか。そんな話をちらほら聞いててさ。どんなやつ?
セツナ:
受注した方は、イェーメールの子爵が領地の作物かなんかを横流ししているっていう話の真偽を調べる。
断ったのは、ファンルーアの子爵が海運業を始めるってんで、何やら怪しげな荷物を運んでいるらしい。
ソーダ:
ファンルーアの海運業っていうとちょっといった先の町だろうな。詳しいタイトルをフレンドチャットに送っておいて。お前が受注した方はいいや。もう一方流しておく。
受注したクエスト一覧スレというのがあるらしい。
ソーダ:
基本1人が受注するようなものは1人で解決できるようになっているが、道中気をつけて。
ソーダに言われながら俺はぎょろちゃんでイェーメールからファンルーアの道をちょっとそれて進んでいった。
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