316.聖騎士の奉納試合
武闘会が終わって、軽く表彰される。3位までではなく、1位、2位のみだった。トーナメント出場者は後日出場塔の神官より賞金を受け取るように言い渡される。
そして1度みんな退場させられた。合流した俺たちはパーティーを組み直す。
『サディアス様、本当に強かったわよ。付与剣の使い方が上手いんでしょうね』
『つまり俺も練習すればあの領域に!!』
『あの人、氷の付与のみだろ? 1つの属性突き詰めてるんだな』
『あー、色々とやりたいお年頃なので』
だってー、付与たくさんできるの楽しいじゃんよー。
火を吹きたいし、氷で凍らせたい。
『セツナはそれでいいんじゃね? どうせ相手はモンスターが基本なんだから』
『付与剣、パーティー向けだろうし、そうじゃなくてもソロは【フロストダイス】と【業火】で結構いけそう。ダインが、えぐいって言ってたwww』
業火は、エグいと思う。我ながら。突き刺したあとに爆発とか、確実に殺しに行っている。 普通に死にますので。
闘技場の外で待っていると、やがて人の列が動き始めた。チケット制らしい。迎えがくるとヴァージルが言っていたが……お久しぶりですな人が見えた。
『トラヴィスなのじゃ。相変わらずくたびれてるのじゃ』
『なんであいつあんなにくたびれてるんだろう』
「セツナ君、柚子さん、こんにちは。ヴァージルから聞いてるよ、こっちに席があるから」
「よろしくおねがいしまーす」
「トラヴィスも来てたんじゃな」
「領主一族、誰かが来ないとだからね……暇なのは俺なんだ」
なるほどー。でもこんな衣装だけ貴族な感じで威厳とか皆無なのに大丈夫なの? 体面的なものは保てるのだろうか。謎だ。
「ヴァージルが一番よく見える席にしろっていうから、いつも領主一族が座る席にしておいたけど」
「待遇良すぎるのじゃ! トラヴィス最近はなにしておるのじゃ?」
貴族を呼び捨てして許されるのはトラヴィスだけだな。トラヴィス自身も全然気にしていない。
俺たちを引き連れながらあの後のことを語っていた。
「外をうろつかせると碌なことがないって、今、俺は軟禁状態なんだ……聖地に来て自由ができると思ったら、セバスチャンがいるし。監視の目がキツい。うっうっ……」
「目を離すとまたギャンブルするから仕方ないのじゃ」
「家門の危機ですからね。管理下に置きたくなるのはわかります」
「味方がいないよぉ」
そして案内されたのは、円形闘技場のイェーメールエリア、一番前の席ではなく、中腹に用意された屋根のある特別観覧席だった。
「きゃー素敵。椅子も布張りで座り心地よさそ~」
ピロリがはしゃいでいるとセバスチャンが現れる。
「皆様ようこそお越しくださいました。トラヴィスぼっちゃまが大変お世話になりました。ヴァージルぼっちゃまからも言いつかっておりますので、ゆっくりと観戦をお楽しみください」
そういって紅茶とお菓子でもてなされる。
「マカロンだ! 案山子さん、これ美味しいんですよ」
「おお! ホントだッ! 学びたいッ!!」
それぞれ豪華なふかふかの椅子に座り、お茶とお菓子を堪能していると、出場する聖騎士が入ってきた。
真っ白い鎧に身を包み、人数は30人はいる。若い人と、それなりに年を重ねた人が多かった。闘技場の手前の土部分に、列をなし、やがて隣のアランブレのエリアの前で膝をつき、頭を垂れた。うーん、聖騎士は聖地で仕えると言ってたけどやっぱり王には挨拶をするんだなあ。
みんな鎧と兜をしているのでヴァージルがどれかわからない。だが、挨拶を終えると、聖騎士はそれぞれの方向に手を振りながら歩き出す。
「あれヴァージルよね」
「明らかこっちを見て手を振ってるのじゃ」
「セツナほら、応えてやれよ」
「ええ……っ」
せっかく兜でキラキラシャットダウンしてるのに。
ぐるりと一周終えると、第一回戦以外の騎士たちは出場口まで帰っていった。
真っ白な神官服を着た人が、対戦相手の紹介をしている。これもまたトーナメントらしい。
「騎士同士の戦いっていうから、馬とランスかと思ったわ」
「騎獣の高さが違うし、性能も違うからそれはないね」
とは、近くに座っているトラヴィス。
言われてみればそうか。馬系騎獣よりも、ヴァージルの騎獣である猫科系はジャンプ力もありそうだし馬を操る能力をも競う、俺たちの知ってる騎士の戦いとは違ったものになってしまう。
「ヴァージルが出るとは聞いてなかったんだよね~。なんか怒らせたとか」
「事情説明されてるんだ」
「君たちの席を取らねばならぬ理由くらい聞いてもバチは当たらないだろう?」
「それで、ヴァージル本人が怒ったからって言ったのか」
「いや、誤魔化されたからセバスチャンが他の騎士から聞き出したって」
誤魔化すときはわかるんだよ~とのんきな口調で言っていたが、お兄ちゃんはお兄ちゃんなのかな。
良いとこ無しのトラヴィスも、何か良いところがあればいいなあと思います。
ファマルソアンに手配してもらったオペラグラスは大変便利だった。全体が俯瞰して見える席だが、手元をしっかり見たいときにはこれに限る。
「騎士ってわりと剣が基本だと思ってたけど、双剣使いもいるんだなあ」
「獣人の大剣使いは迫力がすごいねッ!」
どうやら若い騎士と、ベテランの騎士を出して、若い騎士にはチャンスを、ベテランが本気でてっぺんを取りに行くといった構図らしい。なので、若い騎士は若い騎士同士が初めにぶつかることが多いのだが……。
「あ、あれヴァージルじゃね?」
「ああ、そうだね。相手は若手か。可哀想に。若手じゃヴァージルに敵わないだろう」
初めは兜を脱いで顔を見せるのだが……どこからともなくきゃーっという黄色い悲鳴が上がりました。
親衛隊紛れ込んでるぞぉ!!
「相変わらず人気だなぁヴァージルは」
トラヴィスが笑っている。少し後ろに控えているセバスチャンも微笑んでいた。
ヴァージルは片手剣だ。それと盾を使う。わりとオーソドックスな戦い方になるやつだ。対してリチャードは両手剣だった。
わりと大柄だから、さらに力で押すのかな。
しかし、一瞬見えたリチャードの表情は大変暗く、始まる前から闘志ゼロなのが見てとれた。
対してヴァージルは笑顔で周囲に手を振っていて、アイドルしてました。
これ、ざまぁ案件ならヴァージル負けるやつだぞ。
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