311.突撃してくる者たち
「そなただけは絶対許さぬ! 首を洗って待っておるがよい!!」
「あの、ちゃんと止めてくださいね?」
後ろのお付きにそう話しかけるが、彼らの表情は暗かった。
兄ちゃんに言ったらええやろ……言ったら無能って言われちゃうパターンか!?
『これ、蹴鞠ちゃんが来るパターンよね。しかもトーナメントにはいけなさそうだし、乱戦の方? 蹴って怒られないかしら』
『でも他の出場者も同じようなやりとりしてる可能性あるだろう? そうしたらセツナとは違うグループの場合どうなるんだ?』
出場は1カ所だろうしなあ。
『一番ヘイト取ってるところに出現するんじゃないか?』
『えー、楽しみ。今、大概煽ってたものね~』
蹴鞠にすることを夢見ているのか、ピロリ。結構ヒドイぞそれ。
などと話していたら、またまた横から怒鳴られる。
「ここで会ったが百年目っ!!」
「武闘大会への出場枠を賭けて勝負を申し込む!!」
「さあさあ! いざ尋常に!!」
こんなドストレートにお申し込みされるの?
ぴこんって目の前の画面に勝負しますかYES・NOが出てきた。
もちろんNOです。
「はあっ!? 正々堂々勝負しなさいよ!!」
うん、3度目の再会である。
いい加減顔を覚えた。
大剣使い、男性。黒髪青目の高身長ヒューマン。この人は特に何も言わない。ただひたすら殴りに行く感じだ。
ヒーラー、一番当たりが厳しい女性、エルフアバター。黄緑の髪に青い瞳。可愛さは意識している模様。
片手剣。おねだりタンク。タンクの仕事はそっちのけで逃げるし殴りにも行く。
2回遭遇した俺の感想はそんな感じ。
「この間も逃げたし、卑怯者! 正々堂々と勝負せよ!」
「嫌だよ。なんで出場権をあげなきゃいけないんだよ。あ、攻撃してきたら正当防衛で応戦するけど、たぶんイベント中は聖地入れなくなるよ。来訪者じゃない冒険者に勝負挑みなよ。来訪者は1度手に入れた権利を離すわけないじゃん」
それでもこの3人には負ける気がしないんだよね~。手の内見せたくないからやらないけど。
俺たちはそこまで立場が強いわけではない第6都市エリアから退散することにした。何せ、都市対抗。ここで騒ぎを起こして喧嘩両成敗とかで出場資格を失ったら嫌だ。
「逃げるな卑怯者!」
逃げますよ。
俺と半蔵門線が一番足が速い。先に行けと言われたので途中から【隠密】を交えて走ると巻くことに成功したようだ。
『こっちにスキル使ってきたから俺が防いで、あいつら連行されたwww』
『ソーダ殿に被害が行かなくて良かったでござるね』
『NPCに対しては、やっぱり偽名は強いみたいだな。つまりセツナもNPCからは認識されてないってことだよ』
ただ、自らハインリッヒにはばらしてしまったからな。出場してる名前を言わなければだめだったろうし。
『ちょっとスレも読み込みたいな。起きてるときにチェックはしてるが、今もまたかなり動いているようだし』
ということで安全な場所を得るため結局ファマルソアンを頼ることにした。彼らと同じようなとりあえず突撃して権利を欲しがるプレイヤーが出てこないとも限らない。
ファマルソアンが準備してくれたのはかなり高級な宿だった。
『きゃー、ヤバイ、すごい!』
『ふおおお……リアルじゃ絶対泊まれない宿なのじゃ……』
塔より高い建物はないし、あまり高いと日照権などもあるのか、3階建てが限界のこの聖地。外壁と塔とのちょうど真ん中あたりに大きな建物があると思っていたのだが、まさか宿泊施設だったとは。
「セキュリティーにはかなり力を入れておりますから、ごゆっくり」
ここもまたファマルソアンさんの出資している宿屋だそうだ。本当に手広くやっているんだな。
円形のリビング。中央には丸い大きなテーブルとぐるりとそれを取り囲むソファ。流れるせせらぎ音。そして放射状にある扉の先に個室があるのだ。
『ヴァージルには悪いけど……こっちで寝るッ!!』
俺もそこには異論がありません!!
円卓でそれぞれがスレを検索して色々情報を集めている間、俺はなんか飛んできたフレンドチャットの対応に追われていた。
『で、ジャンちゃんがオコしたんですけど、リチャードのク○野郎が私の可愛いお耳をぎゅーって掴んだんですよぉぉぉ』
『マジっ!! あいつそこまですんの!?』
『NPCのくせに生意気だーっ!! てことでヴァージル様の活躍に期待しているのです』
『ヴァージルすんげぇ怒ってたから再起不能になると思うよ、相手』
『紳士なヴァージル様も素敵ですけど~、オコなヴァージル様も素敵ですよねー。昨日のショート見ましたよ! オコヴァージル様!』
『あんまりみんな見ないかなと思って作ってみたけど反応よさげだったねー』
『セツナさんは男性ですからね、ヴァージル様に魅了されてないところがまたいいですね。映像が俯瞰的というか。これが親衛隊メンバーの動画なら、多分視線が動かないんですよ。基本動画は撮影者本人からの目線の物なので、ヴァージル様に釘付けで何が起こってるかわからないやつです。てことでセツナさんの動画はとても人気ですね。ショートもいいけど、動画も評判爆上がりです』
それはどうも、だ。
『獣人のクエストは拾えたんでしょ? 生産職的には何かあったー?』
『かなり前から入ってきているセツナさんとは違って、私はまだ滞在期間短いですからね~これからかな? 武闘大会もみたいけど、今回のイベント終わった後聖地がまた一時的に閉鎖されたら困るから、クエスト探しまくろうと思ってます』
『種族のクエストあるから大丈夫だとは思うけどね』
『そうなんですけどね。あ、そういえば私お店での地位が上がったんですよ~今度お貴族様の寝具作成に携われそうです』
『おお! すごいね、お貴族様関連は』
『夢は店持ち。早くみんな家を持てるようになるといいですね~』
『学園の寮は何も手を加えられないみたいだもんね。ホント移動用』
『そうなんですよー。家具と寝具をカスタマイズできる空間欲しいです。私のお布団が売れるためにも!!』
『あれ、寝る前に少し寝心地感じるんだよ。気持ちいいよね』
『そのうち、ゲーム内で布団でゴロゴロする民が現れますよ。寝ている間にあのふんわりに癒やされたらいいのですよ!』
『アランブレのショッピングモールあるじゃん? あんな風に巨大アパートメントとかできたらいいね。みんなのストレージ枠も増えるし、家具商人も金稼げる』
『ですね。だいぶみんなの熟練度が上がって来ていますから、全部プレイヤー産でそろえるとかできそうです。オーダーメイドも受け付けます!!』
リアルで一軒家は大変だし、家具を自分の思い通りには無理に近い。それをゲームで実現するのは楽しそうだ。
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新しい異世界ファンタジー
『魔法を使えないなんてもったいない!もう一度学園に逆戻りします!!』
連載始めました。
https://book1.adouzi.eu.org/n2752lg/
エブリスタさんの新星ファンタジーコンテスト「無自覚チート」で準大賞をいただいた作品です。
先にエブリスタさんにアップしていた分を今月のあと3日間であげて、11/1からは足並み揃えて連載していきます。
短いお話なので隙間時間にどうぞ〜11/21くらいに終わる予定。毎日更新です。




