310.出場枠のためのクエストたち
今回の1日とちょっとが、武闘会前にクエストに遭遇する最後のチャンスだ。
次ログアウトしてログインしたら武闘会前日である。
ログインしたところでヴァージルから連絡があった。
『セツナ、武闘会に出るらしいね。出場する冒険者はかなりの強者揃いと聞く。十分気をつけて。大会当日までなるべくクランのみんなと一緒にいること。1人でうろうろするのはやめておいた方がいい。ピロリにもそう伝えてくれ』
デキレースなんですよと言うわけにもいかないので、頑張るよと返信しておいた。聖地に入ったらやることがあるので相手は難しいと言っていた通り、細剣のスキルを教えてもらった日以降特にこちらに関わってくることはなかった。
というか、俺偽名で参加してるんだけどなんで気付いた、ヴァージルよ。ソーダには気付いていないのに。
まあ忠告通りクランメンバーで動くことにした。
ピロリは相変わらず通りすがりのNPCに肩パン食らってる。パンチじゃないか。肩と肩のおしくらまんじゅう、押し合い相撲みたいになっていた。
肩すら強者のピロリは今日も元気に相手を跳ね飛ばしている。
「やだー、か弱い女の子に何するのよ! プンプン」
『ヤメロヤメロ』
『えぐいでござるぅ』
『隣を歩くのが嫌になるな』
この3人、ピロリのリアルも知ってるらしいから余計にだな。
文句をいいつつも八海山はすかさずお相手救出に走っていた。ちゃんと役割はこなすの偉い。
今日のピロリの服装はさすがに戦闘用ごりごりだが、それでも可愛さを忘れない装い。ランニングと言ったら怒られた白のキャミソールに、パステルイエローの薄手のパーカー。同じく白のスカートは短く、スパッツと言ったら怒られたレギンス、ショートブーツに謎のゴーグルを頭につけて、髪はいつものツインテールだった。
『彼女とー、けじょうろうのところで髪型変えてみるか相談中なのよねー。でもこの髪色かなりこだわって時間かけたから、悩ましいところ』
『1回の髪の毛変更料が結構かかるのじゃ』
『それなのよ~! その分お洋服に回したいってところもあるしぃ』
女子トークがはかどっている。
『あ、蒼炎も潜り込めたらしいぞ。ウロブルに2人出場できたそうだ』
『例のアランブレエリアにある冒険者ギルド周りで配ってる一覧、アランブレのメンバー入ってなさそうって話だったけど、そうなるとアランブレはNPCだらけってことになるのかな?』
『あ、それでござるが、拙者のお仲間たちが入り込んだらしく、スレに情報漏らしてたでござるよwww』
『身内に敵がいるじゃねえか』
『どうせならプレイヤーで腕に自信のある者が出たらいいという、忍びからの温情でござる』
お祭りはみんなで楽しみたいよね。
『八海山、蒼炎戦力わからないんだろう?』
『得物くらいしかなあ。たまに一緒にクエストこなしたり、潜ったりするけれど、あそこは黒豆をいかに押し上げるかに注力している珍しいクランだから』
『ハーレムクランッ!!』
『とは言いがたいんだけどな。黒豆活躍させるために自己犠牲かと思いきや、黒豆自体は忙しそうで厳しい狩りしてたりするし』
『おねショタなのじゃっ!』
『柚子、それ本人たちの前で絶対言うなよ。前に迂闊にも言ったやつらが、狩り場で大量のモンスターに遭い、なぜか無限お代わり、アイテム使い切ってボロボロになったところを蒼炎がやってきて倒したって事例があってだな。『倒せない数のモンスター抱え込むな』て理不尽に怒られ、しかもそこへ放置されたから帰還途中でモンスターにやられて結局全滅。倒れたところへまた蒼炎が来て、笑って残されたモンスターを狩っていたという……』
『ブラックよりのグレーなのじゃ……』
『デスペナ食らったパーティーが通報したが証拠不十分でお咎め無しだそうだ。下手に技術があるからな、あのクラン』
相手の地雷を踏み抜いたらダメだよね。やっぱりあまり近づかないよう気をつけよう。
『とりま黒豆と結愛だから、結局剣と斧かな』
『個人は強そうだな。トーナメントに上がれば強敵になりそうだ。あそこはステータス研究もしっかりしているしな』
強敵が続々現れるやつだ。第7都市のNPCさんたち大丈夫かなあ。隠しているって言ってたけど、他の都市も同じようにやっているだろうに、プレイヤーに狩られていっている。
『なんでも、クエスト出るらしいぞ。例えば……、泊まっている宿屋を突き止めて、火を放つとか』
『放火!?』
『ボヤ騒ぎ起こして出てきたり移動するところを闇討ちらしい』
『ヤバッwww』
『犯罪とバレなければいいのか……運営もこの椅子取りゲームが今回の聖地での楽しみ方としているんだな。ただあくまで相手はNPCだから、来訪者で出場枠が決まったらもうそういったクエストは出てこなさそうだ』
そんなことを話していると、突然横から声が飛んできた。
「貴様っ! ミュスの敵は僕の敵じゃー!」
で、でたぁ!! ぽよ幼児お貴族様ハインリッヒ!! 名前だけ豪華!
「こんばんは、ハインリッヒ様。ご機嫌麗しゅう。お付きの方々……顔ぶれが変わりましたね」
おにいたまに怒られたのかな?
「にいたまが許しても僕が許さんのじゃっ!」
「ハインリッヒ様、ミュスは害獣なので指定討伐モンスターとなっているのですよ」
特定害獣みたいになってる。
まあでも、衛生面でもあやつらは蔓延らせてはならぬものだ。
とか話してる横を通るミュス。反射的にぶっさす俺。
「ぴぎゃーっ!!」
おい、鳴き声あげてるぞ……。
『やだーこの蹴鞠、良い声で鳴きそうだわ~。これが噂の出場令息?』
『違うよ、この子のおにいたまが出場令息ですよ』
ピロリに蹴られたら、びゃって鳴いた後は沈黙するだけだからやめてください。
「なぜじゃ、なぜ皆、このようにかわゆいフォルムの生き物にむごいことができるのじゃ……」
「ハインリッヒ様、ミュスは人々の生活を脅かすのです。お屋敷には可愛いルンルがいるじゃありませんか。ルンルは病気をまき散らすことはありませんから。仕方のないことです」
今回のお付きはちゃんと正論を説いていて偉いというかそれが当たり前です。
「そなたのような悪は僕が成敗してくれるっ!」
「あ、それなら武闘会出るんで、そこでお会いしましょう」
「何!? 貴様が……よし、お前たち、僕も武闘会に出るぞっ!!」
恨みがましい視線を送られるけどさ、お門違いですよ。まあ、煽ったけど。
「そなたの名はなんという!」
えっ……あ、偽名……。
「俺は……、アンジェリーナさんの愛の戦士だっ!!」
きょとんとされました。
うええんん!! 今偽名変えられないんだぜっ!! エントリー中だから。終わったら変えてやる〜!
変えられる期間があるらしく、リアル時間3ヶ月ごととからしい。
あまりコロコロ変えて悪さをしないように、とかなのかな。
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新しい異世界ファンタジー
『魔法を使えないなんてもったいない!もう一度学園に逆戻りします!!』
連載始めました。
https://book1.adouzi.eu.org/n2752lg/
エブリスタさんの新星ファンタジーコンテスト「無自覚チート」で準大賞をいただいた作品です。
先にエブリスタさんにアップしていた分を今月のあと3日間であげて、11/1からは足並み揃えて連載していきます。
短いお話なので隙間時間にどうぞ〜11/21くらいに終わる予定。毎日更新です。




