309.種族クエストをゲットしよう!
愛想良く店主に別れを告げると、柚子は隣の店に飛び込んだ。そしてすぐ出てくる。フルゴの店の位置を聞いてきた。
と、そこでアナウンスが流れる。
《エルフ種族クエストが開かれました。森の民と呼ばれるエルフたちの歴史を辿る旅、美しく長命な彼らの命を辿る旅をお楽しみください》
『うわーッ! エルフクエストぉッ!!』
『おお、誰か出したのじゃな。案山子もやらんといかん』
『くぬぅ……どうしようスレ見るかッ、見ないかッ、悩むッ!!』
『ドワーフも急がねばぁ!!』
俺たちはフルゴの店へ足早に向かった。
ドワーフの店はどこも同じように無骨な店構えだ。フルゴの店もご多分に漏れず、そんなどっしりと堅い扉を押し開く。
「いらっしゃい」
「こんにちはなのじゃ」
入ってすぐ気付いて、案山子と見つめ合ってしまった。
俺たち2人は【鑑定】持ち。
最近はもう何も考えずとも目の前のものは【鑑定】するようにしている。今まで入ってきた武器防具の店でも片っ端から【鑑定】していた。
ドワーフの装備はNPCの装備。となると、ほとんどが標準的なものだ。単なるダガーや片手剣なのだ。
しかしこのフルゴの店の品物はどれもおかしなことになっていた。
『迷いが見える切れ味の良い短剣ってなんですか』
『わからないッ! たぶん守ってくれるチェーンメイルッ! 初めてこんなやつ見たッ!』
『どういうことじゃ?』
『武器装備すべてに『迷いが見える』とか、『たぶん守ってくれる』とか、商品名の前におかしな文言がついているんですよ』
『迷いが見える、はこのダガー?』
『そうです』
ふむ、と柚子が鼻を鳴らし、問題のダガーを手に取る。
「魔法使いさんとお見受けするが、まあ、護身用に短剣くらいは持っていると安心だろうね」
フルゴは濃い茶色の髪に、ドワーフ特有のもじゃもじゃ髭で口元が覆われている。
「そうじゃが……この短剣、迷いが見える」
ふふっと笑いそうになって口元を押さえた。周りのクランメンバーも同じような反応だ。柚子の言い方がなんというか、あまりに唐突で、お告げのような物言いで思わず、だった。
「ま、迷いだと……」
そんな俺らの反応はよそに、フルゴはあからさまに動揺して見せた。
「うむなのじゃ。何か原因に心当たりはないのか?」
「し、素人に……何が……何がわかる……」
そこまで狼狽えてて、心当たりありますって言ってるようなもんじゃないか。
「……くっ、俺は、俺は、ドワーフの鍛冶屋として認められないっていうのかっ!!」
なんかそこからものすごい俺語りはじまりました。
もともと第11都市にいたのだけど、ご両親が聖地で店を開く権利を得たとかで、小さな頃にこちらへ移り住んだそうだ。両親は立派な鍛冶職人として聖地でも成功した。
ドワーフの鍛冶は昼間に起き出し、夕方まで仕事をして、酒を飲みに酒場へ赴き、夜遅くまた仕事をするのが普通だという。
「酒が入った方が魂が籠もるとか言うんだ」
だが、フルゴはなんと下戸だった。
ドワーフでもたまにいるらしい。夜の酒場の付き合いが苦痛でしかなくなり、心配する両親もやがて第11都市に帰った。
夜遅くまで仕事をする意味を見いだせず、朝早くから夕方まで働く日々。
飲みニケーションには参加できず、酒場に顔を出しても下戸をからかわれ続ける。おかげで聖地のドワーフたちから浮いた存在になってしまったという。
「酒は飲んでも飲まれるな、人にすすめず己で飲めがドワーフの信条だと言ってくれるやつらもいるが、年上の、熟練者になればなるほど、樽を飲み干して一人前なんてタイプが多くて……ここでやっていけるのか悩んでる」
「ふむふむ……小人族という種族ゆえの悩みじゃな」
くぅ……ってちょっと男泣きしてた。大変だなぁ。
「それで、おぬしはどうしたいのじゃ?」
「俺は……俺は認めて欲しい」
「下戸は体質じゃ。直せん。まずいもん飲んでても体も辛いのじゃ。ならば鍛冶屋として認められねばならぬな!」
「くっ……」
《ドワーフ種族クエストが開かれました。認められたいフルゴの手助けをしながら、ドワーフの歴史をお楽しみください》
『出たのじゃーっ!! フレにもなったのじゃ』
『いいなーッ!!』
『名前出してるからこりゃ大挙して押しかけられるな』
『クエスト出すのに他のドワーフと仲良くなる必要がありそうだな』
『柚子ちゃんおめでとーっ』
フルゴさんは誰にも負けないすごい武器を作って下戸だってこれだけの物を作れるのだと証明したいらしい。
『アイテム集めをお願いされたから、これはまあ、聖地のイベント終わってからじゃな』
『柚子っち抜け駆けぇー!! もういい、俺もスレ見ちゃうっ!』
ということでスレを見た案山子はあっという間にエルフのクエストを手に入れました。こちらはあちこちの森に潜むエルフさんを探しに行くらしい。森で暮らすエルフたちにその森の話を聞くことが大切なんだと。
『こっちも聖地のイベント終わってからだねッ! よし、それじゃあ聖地内で遊ぼうか』
とはいえ、かなり暗くなってもう日付が変わる頃だ。
どこで食事をしようかという話になる。1日動いているとEP結構減ってくる。どうやらこれ、食べ物を食べてないで動いていると一定時間で減りが加速するのだ。
結局宿のあるイェーメールのエリアで食事となった。
と、周囲のNPCから話が漏れ聞こえてくるのだ。
「第6都市のサディアス様が今年は武闘会に出場されるとか。付与の使い手と聞いているから楽しみだな」
「狙いは第6都市か」
「他にも第8からはかなり強い獣人の冒険者が来るという話だ」
「獣人冒険者か。期待ができるな。お前、いくら賭ける?」
「まあ、給料1ヶ月分までかな」
サディアス様ぁぁぁ……お願いだからトーナメントまで会わない方向でっ!!
『賭けかあ、どうする?』
『お、どうした突然』
当然のように周りにも聞こえているかと思った内容が、俺のみだったようだ。
『あー、俺しかサディアス様に接触してないからか。なんか、第6都市は領主の息子が出るって隣の席の人が噂話してた』
『それお前のクエスト用じゃねえかよ……次起きたら第6うろついてみようか』
こんな状態じゃ無けりゃ1人で行くんだが、今回はお願いしようかと思う。
『確かにリストにサディアス・プロアフアノマって書いてあるでござるね』
『いいじゃん、クエスト楽しみだな』
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