308.来訪者とドワーフのクエスト
というわけでだ。
一番危険なのは俺なのである。
『紙装甲、名前の知られているプレイヤー。カモでしかないだろう』
『私とソーダと八海山は常に一緒にいないと拙いわね』
全力で守ってもらいましょう。
そんなことを話しながらお店巡りをしていると、見知った顔に出会う。
「あ、マスターこんにちは」
蒼炎の黒豆さんとお姉様たちだ。
「おー、やっほ。どう? 聖地楽しんでる?」
「はい! 今は塔にお参りしているところです。マスターはもう回られたんですよね」
「全部回ったよ。他の街の星座もこれでわかるし、誕生月のところではなにかあるかもな」
誕生月……何かどころではなかったけどな。
「武闘会、誰か出るのか?」
「出たいとは思っているんですけど……」
「黒豆は出るよ!!」
「僕より結愛の方がいいと思うよ。斧は強いから」
「黒豆が出たらいいのよ」
周りのお姉さんが口々に言っているので、ここは出場権手に入れたら黒豆が出ることになるんだろうな。
「実は付与剣を手に入れたんです。ちょっと腕試しをしてみたい気もします。セツナさんも出場されるんですよね」
キラキラした目で見てくる。
くっ……なんだこの弟属性はっ!!
「出るけど、できれば同じ乱闘のメンバーにはならないで欲しいなぁ」
俺の言葉にびっくりした後しょぼんとするのをやめてほしい。
後ろのお姉様たちの圧がすごいんで。
「俺の1発スキルかかったら負けちゃうから、どうせならトーナメントに上がってきてから当たるといいね。一対一なら俺の方が負けそう」
慌てて言葉を添えると圧が減る。
危ない危ない。夜道を歩けなくなるところだったぜ……。
「ふふ、そうですね。せっかくならトーナメントでご一緒したいです。まあそのために権利を手に入れないとなんですが……」
「NPC引きずり下ろすのは私に任せるのですぅ」
「みんな、やっちまうわよ!」
怖い、アマゾネス集団怖いっ!
NPCの身の危険を感じたのか、半蔵門線がペラリと先ほどもらったリストを広げながら問う。
「アランブレの冒険者ギルドには行ったでござるか? そこで出場者一覧をいただけるでござるが」
「それよりはウロブルに行って出してもらえないか交渉しようかと思っています」
「ウロブルでちょっと領主に恩を売ったのよ」
「都市対抗なんでしょう? 黒豆の強さをアピールして差し替えてもらおうかなってね」
「確かにそういった交渉方法もアリだな……」
「セツナさんはどうやって出場権を手に入れたの?」
「あー、俺は第7都市のファマルソアンさんと知り合いで……」
「うげー、あの変態商人!」
「黒豆に近づける気はないのっ!」
何やったんだよあの人。
相当の嫌悪感を抱かれてるぞ!? え、ヤバイ人なの!?
「欲しいものの趣味が悪いので有名なんだよ」
俺がドン引いているのを感じたソーダが説明してくれた。
あーそれは理解。ミュスの爪とか歯とか気持ち悪かったもん。
「まあ、確かに引きずり下ろす方法は色々だと思うからやってみるのも悪くないな、コネがあるならなおのことだな」
「闇討ちみたいなことはあまりしたくないので頑張ってみます」
闇討ち待ったなしの後ろに控えているお姉様たちがいるので、黒豆がそうやって穏便にことを進めようとするのはとてもいいことだと思いました。
「こういったイベントのルートは色々あると思うんですよね……」
「そうだな。まあ出場枠が来訪者で埋まるのも楽しいと思うから頑張れ」
「はい!」
弟属性バリバリに発揮してくる黒豆を相手にしているソーダは、よいお兄さん役に見えた。心なしか乃愛さんとやらがそのソーダを睨んでいる気がする。
なんだなんだ……怖い、やっぱり関わらないのが正解のクランだ。
「黒豆ちゃん、私エルフのクエスト探したいの。先に行っていいかしら?」
「えっ、陽葵ちゃん……えーと、紬が一緒に行ってあげてくれるかな?」
「陽葵ちゃんと紬ちゃんだけじゃ不安だから私も行くわ」
「杏ちゃん、ありがとうよろしくね」
話し込んでいたら急に赤髪エルフさんが宣言してその場を離脱した。
なんとなく話の流れが削がれる。顔を見合わせるとふうっと黒豆がため息をついた。
「それじゃあ僕たちも失礼しますね、また」
「おう! 観覧にも席とり必要だから忘れずにな~」
『しかし、柚子があれだけドワーフと仲良くなっててもクエスト来ないんだな。あと何が足りないんだろう? 酒飲み、鍛冶屋、それ以外にどんな因子がある?』
黒豆と別れてからもうろうろしているのだが、なかなかクエストが見つからない。
『やっぱりここにはない?』
それぞれの街でやらないといけないのか?
『ちょっと方向性変えてみようよッ! 今まで柚子っちのセンサーにひっかからなかった相手がクエストのとっかかりかもしれないッ!」
『センサーに引っかからなかった相手って……酒飲みじゃない、とか?』
『鍛冶の腕の悪い人、とかでござるか?』
引っかからなかったから引っかからないところにいるという仮説は悪くない。
ふうむと唸った柚子が目の前の店に入って行く。
俺たちも慌てて後を追った。
「こんにちはなのじゃ~」
「おっ! 酒飲み嬢ちゃんじゃないか、どうした、杖のメンテナンスか?」
「聖地のお店巡り中なのじゃ。酒飲み友だちのお店を見てみたかったのじゃ」
「おうおう、ゆっくりしていってくれ」
俺たちは邪魔をしないよう、展示品に目をやってすごす。が、耳はダンボで柚子の会話を聞いている。
「そういえば、飲みの席にいなかった小人族がいたのじゃ」
「ああー、フルゴだな。あいつは飲めないんだよ。仕方ないさ」
「ドワーフで飲めないのは珍しいのじゃ」
「うむ……悪いヤツじゃねえんだけどな。生真面目な性格で、ほら、俺ら飲むとちょっと気が大きくなって、声もでかくなって、力も加減が難しくなるだろう?」
『ちょっとでござるか……』
『ドワーフのちょっととはッ!』
「そうじゃなあ、どうしてもそうなっちゃうのじゃ」
「酒を飲まないヤツにしてみたら酒の席は苦痛なんだろ。悪いヤツじゃねえんだよ?」
「酒を無理にすすめる気はないのじゃ! 飲みたいヤツが飲めばいい!」
「そーだよ、そうなんだよ。だけどそれが通用しないドワーフがいるのも確かなんだよ」
困ったものさ、と店主は嘆いた。
『これはこれは、来た予感がするのじゃー!!』
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