306.情報ギルドへの支払い
ファマルソアンさんにお小遣いをもらって貸本屋さんに凸しました。あのときも情報は何が欲しいのかと聞いていたし、大丈夫だろう。
「こんにちは……実はちょっと欲しい情報がありまして」
するとロンはにやりとカウンターで腕を組む。
「情報の種類で価格は決まる」
「はい、欲しい情報は、武闘会の出場選手の名前、できれば来訪者か否か、さらにできれば朝の6時までの出場予定選手と、その後入れ替わった人の名前。来訪者ではない人の得意な戦法、武器などが教えてもらえたら嬉しいなと」
「贅沢だねえ……もちろん、準備できる。が、それ全部となるととんでもない金額になるよ」
場合分けごとに金額提示してくれたが、本当に、とんでもない金額になった。これはヤバイ。
「んーじゃあ、明日朝6時時点と、武闘会前日15時までの選手一覧は?」
「それならこれくらいだな」
ファマルソアンさんに準備してもらったお金で十分足りるくらいだったのでほっと胸をなで下ろした。
ホント、怖い怖い。情報ってすごい金額!
とはいえ大金なのでもう先払いしてしまうことにした。
「君も出場するのかな?」
「はい、その予定です。第7都市からですね」
どうせバレるし先に言ってしまう。
「ふむ……金払いの良さに免じて、それがどんな風に最初の72人になるのかまで教えてあげよう」
「え、ランダムですか?」
「都市の出場者6人の分け方は都市任せだよ。その後の組み合わせは大会側が決める」
「助かります」
そうか、それも確かに知っておいた方が有利だ。
聖地での時間はびっくりするくらい流れが速く感じる。たぶん、色々なことが起こるし、どこも初見のものが多いからだろう。
もう夜中で、来訪者が入って来てからはなるべく一緒にいようと言われている。朝の5時に第7都市に集合という話になっていた。
「ロンさん、お店はいつ閉めているんですか?」
「お客さんがいなくなったときだよ。俺はここでよくそのまま寝てるしね。本を読むなら気にしないで読んで行っていいよ」
俺がいると店は閉められないと聞いて悩んだのだが、この後はもう試合が終わるまで来られない気がするのでお言葉に甘えて読みふけった。
まとめて借りて、静かに座っていると、ロンの寝息が聞こえた。
聖地が開放されて、どっと人が押し寄せる。
6時から開放で手続きなどでだいたい6時10分くらいから来訪者の姿をちらほらと見かけるようになった。第7都市でだ。
どうやらエルフとドワーフ、獣人のクエストを見つけようと躍起になっているプレイヤーがいるらしい。一気にエルフのエリアまで来るエルフアバターたちで、周囲は溢れかえった。
「これはこれは大盛況ですね。来訪者の皆さんも聖地に多大な興味があったらしい」
例の4人は、ファマルソアンが隠しているという。信頼の置ける宿泊施設に囲っているらしい。
「セツナさんたちはどうされます? こちらに宿を準備しましょうか?」
正直もうここのエリアから出ない方が安全な気もしている。かといって、ゲームログインの大切な時間をぼーっとおしゃべりに費やす気もなかった。
「街中での争いは下手すりゃ聖地から追い出されるので、そこまでやるヤツはいないと思います」
「そうは言いますが、この出場権を欲している冒険者はあまたおりますし、また都市対抗の様相を呈している今、対抗都市の妨害工作もあるでしょうから」
『あらー、これもしかして、NPCから何かされるかも?』
『飲食は【鑑定】が必要だな』
『道を歩くときもなるべく一緒にいるか。イェーメール出場のピロリがいることで何か変わるかもしれない』
「まあ、7人で行動していたらそこまで大惨事にはならないかなと。それより、そちらの4人の身柄をお願いしますね。スキルなんかも彼らのもので計画を立てているので」
「そちらは大丈夫です。うちの都市全体でがっちり囲っておりますので。当日まで外に出しませんよ」
外出禁止されるのか。それはそれは……。
大会は2回リアルで起きて、ログインしてから一晩過ごした翌朝10時からだった。トーナメント前の乱戦は制限時間15分だからすぐ終わるのだ。
「信用していますが、十分用心ください」
そう言われて俺たちはまたクエストを求めてうろつくことにした。
『くっそ、情報ギルドが貸本屋なんて』
『びっくりだよね』
『考えてみれば全然あり得る話だ。ユーザー間で貸本屋の話がまったく出ないじゃないか。隠されてる店舗なんだよ』
『普通にあったけどね~』
『【知の泉】が貸本屋から出るのも納得だねッ!』
クランメンバーが感慨にふけっている。
『でも、情報屋出すのは多分クエストからだよ。俺はアンジェリーナさんのところから、あの怪しい店舗の偵察の話を受け取って、【翻訳】出して、ヴァージルの兄ちゃんところから派生して情報屋出たけど、【翻訳】なかったらすっと辿り着けたかわからないし』
『ラッキーが渋滞してるのじゃ』
『むしろ貸本屋知ってるから情報屋に辿り着くようにルートを敷かれたのではござらんか?』
『ありそうだなー』
『貸本屋がレアだった理由がわかって納得だわ』
ピロリがうんうんと頷いていると――ドンッと……相手が吹っ飛んだ。
「くっそ、おい! ふざけんなよ!」
無傷のピロリさん、無視して進んでる。
「おやおや大丈夫ですか、聖地の方ですか? 肩をおかしくしましたか? 痛みは? はい、回復させましたがまだ痛みますか? 気をつけてくださいね、来訪者の観光客が多くて人が溢れていますから。それでは失礼します」
わんこ聖職者の立て板に水、初めて聞いた。普段もっと思慮深い感じでゆっくり話す印象なのに。ぺらぺらぺーらって怒濤の勢いに、ぶつかってきた相手もぽかんとしていた。
選手以外が対応しようという話になっているのだ。
『ぶつかりおじなのじゃ。ピロちゃん耐久にもたくさん振ってるからつよつよなのに』
『うふふ~』
『リアルのぶつかりおじさんにやって欲しいッ!』
『やだ~リアルじゃ私大男よぉ♪』
そういえばそう。
第7都市から第6都市を経由して第2都市に行くまでに3人を吹き飛ばしましたとさ。
ブックマーク、評価、いいね、感想、ありがとうございます。
誤字脱字報告も助かります。




