298.新しいレイピアスキル
今いる場所は、白い床が一面に敷かれた場所だ。少し離れたところに一応土もある。聖騎士たちの訓練場らしい。
いくつかわら人形が立っていて、周囲にはあまり騎士は見られなかった。
「もうすぐ奉納試合だからな。皆手の内は見せたくないのさ」
「ローランドさんも出場するんですか?」
「いや、うちも若手が出るよ。古参や騎士団長レベルが出ると色々となあ……面倒ごとが多い」
そう言われて俺はチラリとヴァージルの去った方角を見た。
「あまり気にしなくていい。ヴァージル卿はむしろ出ればいいと周りの聖騎士団長たちには言われているのだ。若手のやる気に繋がるだろうに。だが彼はとてもわきまえている青年だからね、出場はしないと言い張っていた」
ローランドは細剣を鞘から抜く。俺のものよりもう少し長い気がした。たぶん体格に合わせているんだろう。筋力にも!
「【氷付与】」
手のひらに乗せた粉末がふっと彼の息によって細剣へと降り注ぐ。真っ白な冷気を孕んだ剣が生まれる。
「まずは【薄氷】」
そう言って細剣を振るうと3つ並んだわら人形に霜が付く。
「一定の範囲に薄い氷の層を作る。私が今作ったのはちょうど腰の辺りだな。急激に冷えて動きが緩慢になるのだ。複数、素早いモンスターと対峙したときに、相手の行動を制限するのに使うとよいだろう。あとは遠距離で攻撃できる者に始末を任せればよい」
範囲行動制限攻撃か。緩慢になるということは動けることは動けるが、数が多いのには有効だろうな。
「次、【雪嵐】」
剣先から氷の粒が噴き出し、また範囲にそれが降り注いだ。
「この雪氷は触れるとダメージとなるほどだ。【薄氷】よりも魔力を使うが、攻撃力は増す」
【フロストサークル】のようなものか。
「同時に剣を振るえば集中的に雪氷の粒を浴びせることとなり、さらにダメージが増すだろう」
雪製造機の噴射を全部浴びるみたいなもの?
「最後に【氷刀】。細剣の周囲に鋭い氷の刃物が出現する。切れば焼けつくような痛みを感じる傷を残す。じわじわと体を冷やして動きを鈍くすることもできる」
凍傷になるのかな?
それじゃあやってみようと言われて2、3度試したらそれなりに上手く出るようになった。MPはもちろん切れるので、それがわかっているのかローランドさんがMPをくれた。
「セツナ殿はまだ魔力が少なめなようだから、【氷刀】か、数が多いときは【薄氷】がいいかもしれないな」
「そうですね、足止めしたいときの【薄氷】は重宝しそうです。その後は【氷刀】にして戦闘に参加する感じかな」
俺の話をうんうん聞いてるわんこぉ……。ニコニコしてて人が本当に良さそうですよ。
「それでは次、水だね。【水付与】」
粉だったはずの触媒が、刀身についた瞬間ぴちゃんと跳ねる。
「【針雨】」
細剣を上段から真っ直ぐ振り下ろすと、すでにボロボロのわら人形にざっと音を立てて雨が降り注ぐ。
が、普通の雨じゃないんだよ。
確かに地面に着いたときは水で白いタイルがびしゃびしゃになってはいるのだが、わら人形がもう、ほぼ形をなくしている。
「針のような細かい雨は痛みを感じるし、腕くらいなら貫通する。範囲は狭いがかなり強力なスキルだ」
かっけー!!
「【濁流】」
真横に細剣をふるって、剣先をわら人形だったものへ真っ直ぐ向けると、細剣の先から水が溢れ出してうねるようにし、向かって行った。水は綺麗な透明でなく茶色い泥水だ。当たって周囲に砕け散ったものも土の色をしていた。
わら人形の芯の木がぽっきり折れている。
「細い通路などで使うとかなり強い。殿で敵を引き離したりするのにも有効だな」
「面白い使い方ですね」
俺がワクワクしていると、ローランドもワクワクしてた。付与剣のスキルは、使いどころをよく考えなくてはと思う。そして、それが嵌まれば最高に面白い。
「水のスキルは2つだけなのだ。申し訳ない」
「いえ! どちらも強そうです」
これ、【針雨】ヤベーヤツだと思う。
その後彼の指導の下この2つも無事覚えられた。
「ありがとうございました」
「いや、これくらいお安いご用だ……そうだな、もしよかったら君のスキルの雷と風を見せてはもらえないだろうか」
細剣のスキルで見たことのない2つだそうだ。
お安いご用である!
MPは足りないのをすぐ察してローランドさんが供給してくれた。この人も、筋力全振りみたいな見かけしているのに、MP無尽蔵だ。
特に【万雷】にはとても興味を持ったようだった。
「もし魔法の属性増やせて、俺が持っているスキルの属性だったら声をかけてください!」
「今の来訪者と違って、魔法の属性を増やすのはなかなか難しいが、もし増やせたら頼むよ」
と、いうことでモグモグタイムに突入することにした。
「お礼といってはなんですが、ご飯をお持ちしているんです。どこかテーブルのあるところでお渡ししたいんですが」
丼でほらよってのはちょっとね。
ローランドの尻尾が揺れる。
よ、喜んでる!
「それはとても、嬉しいね。息子からいつも自慢の手紙をもらっていたんだ」
ということで、第9聖騎士団の宿舎にご案内された。
おおお、わんわんにゃんにゃんこけーっ!? こけーっがいる!! トサカがある、アレ絶対こけーっ!!
キャラメイクのときあまり何も考えずにヒューマン選んだから、獣人のアバター全部チェックはしてないんだよ。
獣人と仲の悪いヒューマンですから、彼らの宿舎に入ったときはものすごく注目を浴びた。それでも前を行くローランドさんをみると、視線をそらされる。信用されてる人なのかな。
彼らの食堂だという広間に案内された。長机がいくつも置いてある。
「結構持ってきたんですよ、並べていいですか?」
「ああ、頼む。うむ、茶を持って来よう」
彼が俺を席に案内し、お茶を取りに行ってくれている間に、次から次へと出してみた。
仲が悪いって聞いてたからさ。
そんなやつにはこれだよね。
必殺、案山子のご飯! 詰め込めるだけ詰め込んできたし、クランハウスじゃないストレージの方(出し入れのたびに金がかかる)にご飯詰め込みまくってそこから取り出してきた。この出し入れは、塔のところでできた。
一応そこら辺は事前に公式からの連絡にありましたよ。
胃袋掴んじゃうよ~~~~!!!
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