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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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293.ゲートと来訪者

 まずは獣人。獣人と人の確執について知りたい。しかもなんか獣人の方が萎縮しているような気がする。人数的な差?


「獣人の方々について書いてある本ってありますか?」

「王子の件かな? あそこも大変そうだよね~」

 なんかポロリされてるよ……。


「王子様は知らないですけど、どちらかというとこう、なんで人族と獣人族が険悪なのかを知りたいというか」

「ああ! 来訪者だからそこらへんわかってないのか……うーん、ちょっとまってくれよ」


 そう言って貸本屋のお兄さん――お名前はロンさん――は奥の部屋へ入っていき、本を……10冊くらい持ってきた。


「多分君らはこの世界のなりたちというか、来訪者の歴史を学んだ方がいいと思うよ。まずはこれから」

 とその中から1冊を手渡された。『来訪者とラングドラシル』というものだ。


「ありがとうございます」

「500シェルね」

 貸本屋はどこも平等である。




 このラングドラシルは他世界と繋がりやすいという特徴を持っていた。あちらからの来訪者には色々な気質を持つ者が多く、あまりに危険な場合は即ゲートを閉じることができる。だがそうでない場合は受け入れるのがラングドラシルだ。それが世界の理として、安定しているというのが有識者の見解だった。


 特に、星の神々がそう願うのだ。


 ゲートを閉じるのは、星々に願い、聖地の大神官が儀式を行う。

 星がそのゲートを閉じることを拒否すれば、儀式は成功しない。神々がそのゲートから来る者たちを必要としているのだと言われている。


 かつて、この世界にはモンスター以外には人族だけが暮らしていた。そこに最初に来たのは耳長族(エルフ)だった。彼らは魔法を得意とし、人々に新しい魔法や魔導具を教えた。さらに同時期、それほど間を置かずに小人族(ドワーフ)がやってきた。彼らは手先が器用で人々にさらに便利な道具や加工技術を与えた。


 ゲートから彼らが流入して、人々の間に交ざり、あるとき、ゲートがその姿を消した。来訪者としてやってきた耳長族(エルフ)小人族(ドワーフ)はその事態に動揺したが、人族と上手くやり、また人族も彼らを尊重していたのでなんとか暮らしていけるようになったのだ。


 そのときから彼らを来訪者と呼ぶ者はいなくなった。

 彼らはラングドラシルの耳長族(エルフ)であり、小人族(ドワーフ)だった。


 そこから少し時を経て、再びゲートが開く。

 次にやってきたのは獣人たちだった。こちらでは獣として認識している種族の特徴と、人族としての特徴を併せ持つ。

 種によっては鋭い牙や爪を持ち、仲間意識の強い獣人はなかなか溶け込めなかった。

 彼らのゲートが現れた土地から離れようとせず、その土地に住んでいた他種族は一時的に追い出されるような形になってしまった。


 しかしやがてゲートが閉じ、彼らもまた来訪者から、ラングドラシルの獣人族として役割を変えた。


 その頃から獣人の王は人族の王に接触し、閉鎖的な獣人族の意識を変えるよう動き出したのだ。


 やがて獣人の王は人の王に仕える態度を示し、彼らは和解することとなった。

 そうなれば戦士の多い獣人族は戦力として高く評価される。獣人の中には戦闘を得意としないものも多いが、それはまたそれで身体能力を別のことに活かせるのだ。


 


 と、そんなお話だった。

「つまりだ、人族以外は最初はみんな来訪者だったんだよ」

「みたいですね……まったく知りませんでした」

「今の来訪者、つまり君たちの種が来るまでかなり時間が空いたからね。ゲートが開いている間は来訪者だ。我々は君たちを来訪者と呼び続ける。今回のゲートの来訪者はまた能力が特殊だからね。神々がその好奇心と能力(スキル)を見込んで呼び寄せたのではないかって言われてるね」


 面白い設定だなぁ。


「もしも今開いているゲートが閉じたら、君たちも種族に名前が付く」

「なんて付くんでしょうね」

「幻影族なんて言われてるよ、有識者の間ではね」

「幻影族?」

「そう、君ら、今いるラングドラシルの種族と同じような形を取るだろう? 聞いてみたところこちらに来る前の姿と変わっているそうだし。そうやって相手の世界に馴染む種なんじゃないの?」


 まあ、ゲートが閉じることなんてないから、このまま来訪者でいるのだろうが。

 閉じる=サ終だろ。


「今の君たち来訪者としての特徴は、この世界の種に似ている。その上で能力はそこまで同じではないけど、その似せた種の特有の能力が使えることがある。あとは来訪者しか得られないスキルとか」

「【鑑定】ですかね」

「それだよ~! ホント、垂涎のスキルだ。だがそれ以上に、好奇心がすごいと言われているよ」


「……どんなことにでも首を突っ込む、的な?」


 それそれ、と言ってロンは笑った。


「来訪者のみんな、本当にいろんなところを歩き回ったり人の話聞いて回ったり、知識を得たいのかねえ。でも楽しいこと興味あることがたくさんあるのはいいことだよね」


 ゲームをしている俺たちからしたら当然の行為に笑っている。


「それじゃあ次はこれがオススメ」

 『来訪者と都市』という本を渡される。俺は素直に受け取った。

 500シェル也。



 耳長族(エルフ)小人族(ドワーフ)のゲートは首都アランブレに開いた。長い月日を経て、力のある耳長族(エルフ)小人族(ドワーフ)が、それぞれ第7都市と第11都市に根を下ろしたことから、他の同族もそちらへ集まりつつあった。もちろん、各都市に住む者も少なくはなかったが、他に比べてその2都市は耳長族(エルフ)小人族(ドワーフ)の都市と呼ばれるほどになった。


 かといって、その2つの都市や周辺の都市の人族と仲が悪いというわけではない。


 耳長族(エルフ)小人族(ドワーフ)は比較的人族と上手く助け合う関係を作ることができたのだ。


 しかし、縄張り意識、同族意識の高い獣人族はそれが上手くいかなかった。

 ゲートがアランブレではなく、今の第8都市、ウォンロンに開いたのも一因だった。アランブレから遠いそこは気付けば獣人の都市となっていたのだ。


 もともと第8都市に住んでいた人々は、周囲の第7、または第9に移り住むことを余儀なくされたという。ただ、第7は耳長族(エルフ)が多い、自然と第9、第10へ人族が流れていった。


 追いやられたと小競り合いが絶えなかったという話だ。


「結構細かい戦争じみたことが繰り広げられていたらしいよ」

「どちらが悪いとも思えないですね……」

 まだアランブレにゲートが開いていたら、人族の王が住む都市だ、人族を追い出すことなんて不可能だし、もう少し状況が変わっていたのではないだろうか。

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― 新着の感想 ―
自分で選んだ姿に変えて来てるってところまではバレてるんだから、 分身、化身、アバター、蜃気楼みたいな意味で幻影と呼ばれる訳だ いつか貸本屋のお姉さんにリアル側の正体を見せる日は来るのだろうか
ゲートの向こうに体があってこっちの体を動かしてる種族って言うところまでは考察が効いてないっぽい。 サ終したら設定的にこっちの体はどうなるのかって設定ちょっと気になる。
幻影族、昔のアニメに神秘の世界○ル○ザードってのがありましてそれに出てくる敵役の種族がその名前でした、懐かしい
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