290.第9都市聖騎士団長
赤い髪、かなりよいガタイ、頬に傷。
聖騎士の鎧着てなかったらお尋ね者だな。
男性から雷が落ちて、キャンキャンわめいていた聖騎士の5人が直立していた。背中に鉄パイプ入れてますか? と尋ねたくなるほど不自然に背筋を伸ばしている。心なしか顔が引きつっていた。
「往来のど真ん中で貴様らは住人相手に何をしているのだ」
と問われはするもの、正直に答えるはずがなく誰もが黙ったまま真っ直ぐ前方を見ていた。
「リチャード! お前は今、柄に手を掛けていたな? いったい何をするつもりだったんだ!」
だが彼は口を真一文字に結んだまま動かない。赤髪の大男はこちらをギロリと見た。
「初めまして、来訪者のセツナです!」
ここは元気よくご挨拶だよ!
「第10聖騎士団団長、サイラス・トリプレットだ。何かうちの団員が迷惑をかけたかな?」
「そうですね……」
といってチラリとリチャードを見るが彼は目で睨む以外何も言わなかった。え、いいの? 何も言わなくていいの? 大丈夫? 俺が余計なこと言わないとでも思ってるの? どちらかというと都合の良いことしか言わないよ?
と目で訴えても何も言わないので都合のよいように言うことにした。
「俺のクランメンバーに『畜生』と言ったのでちょっと言い合いましたね」
「貴様っ!」
「黙れリチャードっ!!」
こ、こええ。声がすごく低い人なんだが、びりびりって空気が震えるんだよ。怒られたくない。第10聖騎士団てことは、第9都市の聖騎士団か。
前にヴァージルに、第1は聖地の騎士団って教えてもらった。確か。
「未だにお前らはそのようなことを言っているのか……もういい、宿舎に帰れ!」
「団長! 事実と違います!」
「ではお前の口から一言も『畜生』という言葉は出ていないと? それを神に誓えるのか!?」
そこで黙っちゃったら負けですよ、リチャードさん、他皆さん。
言ったと確信した騎士団長は地の底を這う恐ろしい声で、彼らに行けと命じた。そして俺たちに向き直る。
「部下の不出来は私の責任である。この度は申し訳なかった」
「ちなみに俺たちより先に言われてたのがあちらの獣人さんですけどね」
やりとりに完全に置いてけぼり状態だったが、立ち去ることもできずにずっといた獣人さんは急に話題に引き込まれて動揺していた。
「部下が大変申し訳なかった」
「……」
獣人さんは何も言わずに首を振った。
「ただ、どうしてもああいった考えを持つ者は未だに多い。一人歩きするときはよくよく気をつけてくれ」
犬畜生的な? そんな考え方??
正直獣人についてはあまり知らないのだ。1番知ってるのは小人族かな。獣人は獣人とひとくくりにされているが色々と形が多くてアランブレには来訪者の獣人が溢れていた。
俺たちが遊んでいた都市は来訪者がうろついている土地なわけで、獣人が当然いるのだ。でもよくよく思い出してみれば、NPCに獣人は少なかったというか見てない気がする。
俺たちの反応にサイラスが苦笑し、何か賠償が欲しいならと続けたがお断りした。金は欲しいがそんな金はいらん。
サイラスが立ち去り、獣人さんもいつの間にか消えていた。
《クエスト:人と獣人の確執 をエピソードAでクリアしました》
『おう、やっぱりクエスト』
『そういえば小人族と耳長族の仲が悪いように人と獣人族にもなんかあるって話だったな~』
『八海山ナイスよぉ~! あんたがいったから見事にこじれた感じよね』
『見事にこじれてナイスとはこれいかにッ!』
『貸本屋で獣人について調べたい……』
情報が欲しい! あー、アンジェリーナさんに聖地に貸本屋あるか聞けばよかったぁ~!!
わりと時間を食ったが、そのまま次の第8都市の塔へ向かう。向かいながら意味がわかった。
すごい、獣人たくさんいる! つまり、第8都市が獣人の都市だ!
『壮観だな。ここまで獣人に溢れているとは思いもよらず。ちょいちょい睨まれるのがウケるーwww』
『さっきの反対バージョンよね~ふふ。喧嘩しないわよ、する理由ないもの』
ふふっと笑ったところで八海山に小突かれていたピロリ。
『ツンしてたのをデレさせるのがよいじゃろ~これはっ!』
時々柚子は変なことを言う。
まあとにかくヒューマンタイプが全然いなくて目立つのだ。俺たちご一行様、微妙に避けられているしね。
それでも塔の扉は万人に開かれます。
ここは蠍座、毒針をぐいんと掲げたかっこいいポーズの彫像だった。
『蠍座は、一撃、危険、毒、奥の手』
『お、必殺技の予感!』
それぞれ欲望に満ちた祈りをしたが、蠍座の神様は無反応でした。
『なんか話しかけられたりしないかしら~』
『先ほど助けられた獣人です、ってか?』
『どこの鶴獣人でござるかそれは』
あんまり人の顔をじろじろ見ちゃいけないと思いつつも、つい見ちゃうんだよね。
『次ってエルフの街でしょう? 先にこの街うろつかない?』
『エルフの街かはわからないけど、ファマルソアンさんの本拠地だね』
『小人族、獣人、ときてるから耳長族の街あるだろう』
『ヒューマンクエストがあったから、もしかしたらこの聖地からそれぞれの種族のクエストあるかもしれないわね。それぞれの街にはここからじゃいけないみたいだし、不公平って話はちょくちょく話題にあがってるからね』
『ありよりのありでござるね~』
とにかくうろついて面白いネタを拾おうという話になった。
とはいえ、そんなに何が変わっているというわけではない。鍛冶屋は小人族だけというわけではない。獣人の鍛冶屋だってある。獣人はそれぞれ種類によって特質があるらしいし、面白い種族なのだ。武器なんかも得意なものが変わったりもするそうだ。
露店で焼き物をしていたり、お菓子を売っていたり。人形焼きみたいなやつ、買いました。
「美味しいッ!」
「えー、せっちゃん私も欲しいのじゃ」
袋に入れてくれたからみんなで回し食べしている。美味しいね~ホント。
「ほんのり甘くていい感じ~」
「次しょっぱいもの食べたいな」
酒場でたらふくしたはずだけど、食べるのに制限がないからウキウキです。買い食いしちゃう。
「トウモロコシの醤油焼きあるんだけどッ!」
「たべるーっ!!!」
小人族のところより露店が多い気。お祭り気分で盛り上がっていると、露店から声を掛けられるようになる。こっちの練り飴はどうだい? とか、綿菓子も勧められた。
「ここは危険なゾーンよ……」
「時間決めてうろつかないと逃げられないのじゃ!」
かなり長いこと入り浸って、すっかり夜が明けた。
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10なのか9なのかわからんくなってくる……




