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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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28.お約束の回収

 石材ゲットだぜの旅はなかなかハードだったので、しばらくは、朝から昼まではミュス狩り。昼から夜まではアンジェリーナさんの貸本屋。夜から朝までまた狩りをしてログアウトの日々。

 本もかなり読んだ。

 特にこれというものは決めずに、基本職について語られたものや、新しく入荷したと教えてくれた生活大全。なんだかんだと気になる星座について。

 忍者は見あたらないのが残念。

 アンジェリーナさんに聞くのはちょっとためらわれた。なんか変に思われたらやだし。

 

 狩りをしているときに、同じようにミュス狩りをする面々に時々出会った。

 珍しい。

 始まりの平原は、徒歩移動の人か、NPCしか出会わない、俺用のMAPだと思っていたので、やりたい放題に【投擲】していたが、ユーザーがいるとなれば別だ。

 狩りの効率下がるとは言え、ミュスを始末する同志が増えるのはよいことなのでちょっと離れて狩り続けた。

 まあ、ミュス狩り、単調だからすぐ飽きるらしく、一度消えるともうほとんどが戻ってこなかったが。


 途中半蔵門線が現れた。

「せ、セツナ殿でござるか!?」

「こんばんは。池に行くんですか?」

「そ、そうでござるね。うん、拙者これから浪漫を求めに池でひと釣りして起きようかと」

「お疲れさま。ご武運を」

「頑張るでござる~」

 さすが忍者志望。足早いなぁ。素早さいくつ振ってるんだろうか?

 船で上がった1レベル分のポイント、まだ温存中。

 だって、ミュス狩りにこれ以上の効率難しそうだし? 何か必要になったときに振る方が良さそうだ。


 今週から夜勤も続くし、ちょっと生活リズムが変わりそう。

 ただ、昼間寝るとどうしても睡眠が細切れになりがちだったのが、ゲームをしていればわりと連続して眠れるので助かる。

 誰かと一緒に狩りというわけにはいかないので、俺は一人でミュス狩りして、得た金で本を読みながらアンジェリーナさんのいる空間を楽しむ日々でいいや。

 ただ、あちこちやりかけのことは処理していきたい。

 例えば、初心者用装備の返却!


 ということでやってきました。冒険ギルド。

「こんにちは~」

「こんにちは、セツナさん」

 冒険ギルドの受付はいつもお姉さんだ。青髪ショートのキリッとしたお姉さん。

「初心者用装備がもう必要なくなったんですが、各ギルドに返しに行く方がいいですか? こちらでまとめて返してもいいですか?」

「まあ、ご丁寧にありがとうございます。こちらで全部いただきますね」

「助かりました」

 まったく使ってないけどね。一応! 一応だよ。


「セツナさんはこの後ご用事はございますか?」

「いえ、特にやることは決まっていませんが」

 ミュスからの本屋にまた行こうかと思ってた。

「それでしたら、このブーツだけ、斥候ギルドへ持って行っていただけないでしょうか? 先ほど数が足りないと連絡をいただいたのですが、今少し仕事が立て込んでおりまして」

「構いませんよ」

「他のも併せて五足で、こちらの袋に入っております」

 俺は快く受け取る。返しに来いと言っていたからには、何かあるとは思ってましたよ!

 

 久しぶりの斥候ギルド。

 斥候ギルドの屋根は黄色。目立つ目立つ。斥候ってこっそり先回りして偵察したり、周囲の異変を察知してパーティーメンバーに知らせる役だと思ってた。

 その本拠地がとっても目立つ。


「こんにちは~」

 斥候ギルドの受付はお兄さん。青髪ショートの……似てるなぁ……?

「冒険ギルドから初心者用ブーツのお届け物です」

「セツナさんですね。ありがとうございます。助かります」

 受け取った袋の中を確認して何度か頷く。

「間違いなく受け取りました。……ところで、セツナさんはずいぶんと素早さが身についていらっしゃるようですね。もしよろしければこちらで講習を受けて行かれますか?」

 これは、素早さ上げたから斥候ギルドが選ばれたやつか! 選んでるジョブ、戦士なのに。……まあでもせっかくのお誘いなので受けることにする。

「講習というのは……?」

「最初にいらしたときに【気配察知】のスキルを学ばれたと思いますが、それととても相性のいい、【隠密】のスキルです。隠れて、探る、斥候の基礎ですね」

 それは、斥候じゃなくても良さそうなスキルなのでお願いしたい。

 ではこちらへ、と向かって左手の扉へ促される。

「つかぬことをお伺いしますが……冒険ギルドのお姉さんとは、ご兄弟ですか?」

「ああ、姉です。セツナさんがミュス退治にとても積極的だと喜んでおりました」

 それはそれは。姉弟でギルド職員か。


 扉の先は下へと続く道だ。

 弟くんは、ニコニコと先を促す。

「降りたところで少々お待ち下さい」

 階段は降りるにつれて照明が乏しくなり、その先は真っ暗だった。


『心も体も闇に溶け込む……闇と一体となる……』


 どこからともなく響く声。

 闇に溶け込めとな? とりまじっとしてみる。

 と、生えた。

 スキル【隠密】がツリーとして増える。

 ステータスウィンドの【隠密】に軽く触れると、使えば周りから意識を向けられにくくなる、とあった。

 楽しいな。

 そしてこういったスキルは、使えば使うほど化けるそうだ。普段から使って育てていこう。ミュス狩りにも有効だろう。

 

 やがて部屋の明かりが灯り、先に階段が見えた。上っていくと、扉があって押して開く。

 先ほどと反対の扉だった。


「お帰りなさい、セツナさん。どうですか?」

「おかげさまで【隠密】を手に入れました」

「おめでとうございます。また何かオススメの有益なスキルが提案できそうなときはしますから、たまに顔を見せてください」

 にこりと笑う姿は姉弟そっくりだなと思った。




 斥候ギルドを出たところでソーダからフレンドチャットが入る。


『セツナ、今暇?』

『まあ、これと言って何もない』

『なら、クランハウスに来てくれるか? 柚子を紹介したい』

 最後のクランメンバーか。

 了解してぽちっとな。自室に転送。

 階段を降りるとみんなが揃っていた。


「せっちゃんよろしくじゃ〜! 柚子です。ゆず、でもゆーちゃん、でもゆずりんでも好きに呼んで良いぞ!」

 柚子は小人族(ドワーフ)だった。

 赤い髪をおさげにしてる。髪質が頑固そうだ。背は俺の腰あたり。標的になりにくく、腕力が強いという種族特性があった。

「セツナです。よろしくお願いします、柚子さん」

「おかたいんじゃ、せっちゃん」

 柚子も生産よりだそうで、今は瓶づくりに終始しているそう。

「最高に美しい酒瓶を造るのが目標」

 ぐっと握った拳がイカつい。

ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。

誤字脱字も助かります。


半蔵門線が一番びっくりしてます。

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