276.毒耐性アクセサリー依頼
カツ丼をかっ食らうファマルソアンさん。
「いや~、美味しいですね、カツ丼。さすが、最近お貴族様の間でローレンガにお忍びどんぶりツアーが開かれるだけあります」
そんなことしてるのお貴族様!!
「カランちゃんも夢中ですね~」
ファマルソアンの隣でカランさんが相変わらずの無表情。ただ、どんぶりの中身がみるみる減っていく。
「みなさんこんなパーティーをいつもしてらっしゃるんですか?」
「いつもってわけじゃないですけど、新しいメニューが増えたときや、大きな狩りを終えたときなんかにはやっていますね」
とはソーダ。
「それはそれは。羨ましい限りですね。この米というやつは、なかなかどうして食感になれると美味しい」
「アランブレやイェーメールあたりはパン食が基本ですもんね。ファマルソアンさんの本拠地はどうなんですか?」
「あちらもパン食ですね。ローレンガが特殊なのです」
2人とも大満足で、場が暖まっている。ひと心地ついたところで俺は本題に入ることにした。
「毒耐性のアクセサリーなんですけど」
「ああ! いやあー、長年支援してきた甲斐がありましたよ。毒を検出する道具などはあるのですが、つけていれば己を害する毒物に耐性がつくというものは……画期的です。しかも毒になっていることがわかる。対応する時間があるのです。セツナさんが素材集めを手伝ってくださって完成したとか。あちらからも色々と頼むと言われておりますのでね、それなりに勉強させていただきますよ」
ニコニコ。変わらぬ笑顔。だが、例のお金の話をしているときの笑顔だ。
まずい、俺、今すっからかんなんだよ。クローゼットのせいで!!
「えーとそれでですね、俺が欲しいのはもちろんなんですけど、クランメンバーも欲しいなと思っておりまして……」
ファマルソアンの目がキラリと光る。
「ほう……それは、条件次第になりますね。ただまあ、いつも酒運びでお世話になっていますし、ソーダさんたちのクランにはこれからもよいお付き合いをしていただきたいと思いますので、私の方もぜひお取引ができればと思いますよ?」
よ? じゃないんだよなぁ。
ハーピーの爪はやはりファマルソアンの伝手で加工するらしい。その加工時に毒耐性の道具として手を加えるという。例の眠り耐性の赤い石とはちょっと扱いが違うという。
「あちらは自然の状態で眠り耐性の玉としての効果がありましたが、こちらは学院の方の研究成果です。この加工の技術はそうやすやすとお渡し出来るものではありません。なんといってもこちらは10年以上支援を続けているのですから」
「一応ハーピーの爪はメンバー分集めてあります」
宴会は終わりだとご飯を片付けたテーブルの上に爪を取り出す。
「美品ですね。すばらしい。ハーピーは凶暴でありながら、生活に必要な道からかなり外れた辺鄙な場所に生息しているので、積極的に狩りに行く者がいないんですよ。ふむ……」
ファマルソアンが指先を小さく動かしている。まるで空中にあるソロバンを弾いているようで、何やら一生懸命計算している。
「カランちゃん、自分の分は別として3つくらいが妥当だと思うのですがどうでしょう」
「4つであればこちらの負担がぐんと減ります。すでに噂を聞きつけた王侯貴族たちがこちらと連絡を取りたがっております」
「ならば……、4つと200万シェルくらいが妥当ですか?」
「400は欲しいですね」
「ううん。カランちゃんは厳しい! 300にしましょうか」
カランさん厳しい!
「こちらの条件は、1つ作る場合、5つのハーピーの爪を持ち込んでください。そうすれば毒耐性の玉を1つお作りしましょう。そこへさらに300万シェルいただければ好きな形のアクセサリーにいたします。申し訳ございませんが、玉だけを渡すのはダメです」
強気だ。つよつよの強気だ!!
「ハーピーの爪の冒険者ギルド売却額は1つ250万シェルですよね」
ドロップ率がかなり低い。今は拳で戦う人用の毒武器としてユーザーの間で重宝されている。露店価格だともっと上がって1つ500万シェル近くになるという。
「標準的な品質のものを保証します」
アクセサリーの品質は低、標準、高の三段階。NPCが作ると特別なものでもない限り標準品質になるらしい。
『高品質は……プレイヤーが作れるようになってから、だなあ』
『たぶんだが、誰か弟子入りしないと出来上がらない類いのものだと思う』
パーティー会話で相談がなされる。妥当かどうか、というところ。
「お貴族様にはいくらで売るんですか?」
「この毒発見と毒耐性を持つアクセサリーはとても有用なものですし、開発に資金が掛かっておりますので、そうですね。これくらい」
といって3本の指を立てる。
「300万シェルなんてことはないですよねー」
「そうですね、1桁上ですね」
質問した俺の口元が引きつった。
毟り取る気だ。
俺たちが毒耐性が欲しいなと思うのは、ウロブル周辺の魔物が毒持ちが多いというのもあった。毒になれば八海山の負担が増える。攻撃のたびに毒状態を治していたのでは戦闘にも支障が出るのだ。
何にせよ、耐性アクセサリーはあって困ることはない。
「うーん、交渉の手札が……」
みんなお互いを見るが、ファマルソアンが望みそうなものを出せない。
「ご飯くらいよね~、案山子の」
「俺のご飯ならいくらでもッ! だけど、ローレンガのどんぶりツアーは結局ローレンガへの旅行ってのも含まれてるんでしょッ?」
「そうですね、あちらへの旅行プラス丼ものツアーですね」
これ以上の値切りは難しそうだということで、俺たちはハーピーの爪狩りに精を出すことにした。
「とりあえず5つある分、セツナ、渡して先に作ってもらえよ」
「それが……今金欠でして」
クローゼットぉ……ちなみに今も洋服街歩き用にしてます。たくさんあるからね! なるべく着るよ!
「ものすごく収納率の高いのを作ってくれるっていってつい、ほいほい乗ってしまった」
お金あると、心に余裕が出ると、ついね。リアルマネーが減らないところもポイント。
「1000万シェルくらい常に手元に置いとけよ」
先行クラン様のお言葉が耳に痛い。
「セツナさんならほら、レインボータートルエッグですぐに稼げますよ」
それでも金はないので、先に八海山が作ることにした。
「セツナ、またちょっと金貯めないとヤバいぞ」
「はい……」
「こちらで欲しいものの筆頭はレインボータートルエッグの無属性ですよ。お待ちしてます」
クランでハーピー狩りの合間にヴァージルにお願いしよう。今俺が1番稼げるものだ。ソロはミュスを少し控えてハチ狩り行きます。ここのところイベント多かったから頑張ろう。
ブックマーク、評価、いいね、感想、ありがとうございます。
誤字脱字報告も助かります。
交渉人はパッシブなので、これでもお安くしてまっせっっ!!
先日200話でうぇーーーいしたところなのにもう300が近い。
そりゃ、1年があと100日を切るわけです。
皆様2025年もあと少しだよ。




