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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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262.梅拾い

 アンジェリーナさんから本を借りて、18時前には退店し、借りた本を読んだ後にミュス狩りでもと思っていたら、クランハウスで何やらごそごそと作業中の案山子と柚子に出くわした。


「こんばんは」

「せっちゃんこんばんは~!!」

「セツナっち、ばんはっ! そうだ、一緒に行く?」

「狩り?」


 すると、2人は顔を見合わせてしししと笑う。


「今日はポイズン少女のところに行くのじゃ」

 ポイズン……ビエナちゃんですね。


「こんな夜から?」

「予約してあるのじゃよ。今日は頑張って起きていてくれるそうじゃ。梅狩りじゃよ!」


 梅……青酸な。


「青梅狩り?」

「そうッ! 青梅もらって~梅干しと、梅ジュースと、梅酒作るッ!」

「梅の収穫は夜中なのじゃよ。うさちゃんが教えてくれたのじゃ」

「んで、今日昼間にビエナに予約してきたッ!」


 それは準備万端だなあ。


「最近お魚もとってきてるし、鰯の梅煮とかしたいじゃんッ?」

 案山子……すごいな。食べたいぞ!


「友だち連れてくるかもとも言ってあるし、GOなのじゃ」

 なんでも人手がある方がいいと言われたらしい。

「うさちゃん、お楽しみって詳細は教えてくれなかったんだよねッ」

 それは絶対なんかあるやつー!!



 ぎょろちゃんで移動して、毒草園、ビエナちゃんの庭に到着。いつもはこの時間ビエナちゃんの小屋の電気は消えているのに、今日は電気がついていた。

 ぎょろちゃんに赤水晶をあげて乗り込む。ちゃんともらった手袋も持ってきたよ。


「案山子兄ちゃん、柚子姉ちゃんいらっしゃい。あ、セツナ兄ちゃんも!!」

「誘われたからお邪魔します」


 ビエナちゃんは準備万端のようだ。背中に籠を背負っている。

「今日は青梅狩りだね! 青梅は、朝になると黄色くなっちゃうから、素早さが勝負だよ」

 まあ普通の梅とは思っておりませんよ……。


 梅園は少し歩いた先にあるらしい。俺たちは4人連れだって移動を始めた。


「梅の木はね、昼間は黄色い熟した実で、夜は青いの。梅干しにするなら明け方でもいいかもね」

「梅酒と梅ジュースは青梅がいいのじゃ」

「梅干しも青梅でいいよ。ビエナちゃん眠いでしょ」

「大丈夫なの! 今日は昼間しっかり寝たから」


 お子様はもう眠っている時間なのだが……まあ……。

 やがて大きな木が見えた。

 葉っぱはどこへやら、実をたわわに付けた梅の木だ。


「梅は、幹をノックすると落ちてくるの。だけど、地面に落ちたものは食べられなくなるし、落ちてはじけ飛ぶとき毒をまき散らすのよ」

「えっこ、こわっ」

「毒消し持ってきて正解なのじゃ」


 初めての挑戦はよくよく確認すること。

 ノック1回で2つ落ちてくる。

「1回ずつしっかりやろう」


 幸い実は結構高いところについているので、落ちてくるまで少し反応できる。となると、この場合広い範囲を受け持つのは、俺だ。


「頑張ります……」

「せっちゃん誘ってよかったのじゃ~」

「セツナっち、ふぁいとっ!」


 コンパスの短い柚子が木を殴る役になった。ビエナちゃんかと思ったら、彼女は拾う気満々だ。


 まあ、プロなのかな? いや……失敗してもダメージ食らわないのか。


 そんなわけで梅拾い開始だ!


「いくのじゃ~」

 柚子のかけ声とともに、幹がコツンと叩かれる、すると……来たっ!

 俺のところに1つ。籠をささっと差し出すとナイスIN。ビエナちゃんは背中の籠に器用にキャッチしている。


 実はかなり高いところにあるので、落ちてくる実を早めに見つければ余裕はある。梅の木らしからぬ、高さのある木だった。


「ドンドン行くのじゃ~!」

 コツン、からのキャッチ。

 コツン、キャッチ。


 ……間隔が段々と狭くなっていく。


「柚子さん?」

「柚子っち!! 早いっ!!」


「みんな余裕っぽいしいけるじゃろ」


 柚子がにかっと笑うのが見える。あいつやる気だ。

 毒の恐怖に震えながらギリギリのところでキャッチしていると、1羽の鳥がやってきて、梅の木に止まる。


「あ……柚子お姉ちゃんもキャッチしてねっ!」

「えッ?」

「なん……ああああ」


 コツンコツン……ココッココココココっと、鳥が幹を連打し始める。


 もちろんそれに即対応する梅の木。

 雨あられと降り注ぐ毒梅たち。


「ぎゃあああああ!! キツツキなのじゃぁ~!!」

「ぬるいと思ったんだッ!!」


 俺はもう、無言。無言で無心で降り注ぐ梅の実を籠に入れるんだがどうしたって無理!!

 取りこぼした梅は地面にぶつかるとともにはじけ飛んで毒を被ることになる。とはいえ、青酸ではないらしい。なんの毒かはわからないが、多少毒耐性が働いてはいる。


「へろりんなのじゃぁ……」

「柚子っち、死ぬ前にポーション使ってッ!! HP管理各自頑張ろうッ! 毒消しは正直意味ない!」


 なんなら毒耐性も育てようという心意気か。


「あ、無理ッ」

「無理なのじゃぁ」

 2人がポーション瓶を一気飲みしてる。俺はもう少し耐えてみ……れません。HP回復ぅ!!



 1人ビエナちゃんが元気に走り回っていましたとさ。



「キツツキは予想外だったのじゃ……」

「うさちゃんがニコニコしてるはずだよぉ……あの子ドSなんだよッ」

 その情報は早めに欲しかったですね。


 クランハウスで梅を洗っている。

「普通は一晩水に浸けるんだけど、ビエナちゃんが必要ないって言ってたから、まあそこは信じよう」

「【速乾】」

「!? 何それッ」

「生活魔法大全19ですねっ!」

「木登りのやつかー。うわぁ……便利だなッ」

「表面についた水分を取り払うだから、梅の実に影響はないかなと」


 生活魔法大全は素晴らしいんですよ。


「瓶の用意はできたのじゃよ~」

 大きな梅酒を浸ける用の瓶だ。現実世界と違って蓋も瓶のやつ。


 果実酒というレシピがあるらしく、案山子がせっせと梅と氷砂糖を入れている。ここは手を出さずに見守るのだ。


「どのくらいでできるの?」

「んーゲーム時間2週間くらいで飲めるようになるよ。そこら辺は短縮されてる。もっと短くする方法もある」

「して!! 飲めるならすぐ飲みたい!!」

 柚子のおねだりに、案山子がふふんと笑って見せた。


「【熟成】」

 透明だった梅酒の瓶が、薄く色づいた。蓋を開けると梅酒の香りが漂ってくる。

 【鑑定】結果も梅酒となっていた。


「イレギュラーが起こることもあるから、【熟成】させるのはこれだけにしようッ」

「ぐぬぬ……了解なのじゃ……」


 その後はなぜか果実酒試飲会となった。案山子、部屋に瓶たくさん置いてるそう。


「ストレージに置いてくれないのはなぜなのじゃぁ」


 そんなの、当然だろう。すぐなくなっちゃう。 

ブックマーク、評価、いいね、感想、ありがとうございます。

誤字脱字報告も助かります。


梅酒飲みきれなくなってきて作るのやめちゃったからせめてこちらで……

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― 新着の感想 ―
いきなりキツツキが来てハードモード開始って鬼すぎる。 対策するならキツツキを狩る係を置く感じですかね?
夏場は炭酸水で割って飲むのが爽やかでいいよねぇ。輝くイケメンどもに梅干し食わして反応をショートに上げようぜー
これ通えば梅酒楽しみながら毒耐性上げも頑張れそうだな…
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