257.反則な方々
「うわぁ……」
わかる、ダインのそれ、すごくわかる。
うわぁ……でしかないんだよ。
あ、倒れた。あれ、親衛隊だなきっと。心拍数上昇によるログアウト。しばらくログインできない。今回は原因わかってるから1日でログイン許可出るかな。
騎士の正装ってなんというか、男の俺でもぶん殴られるわ……横っ面。しかも今回ヴァージルとアランが並んでるんだよ。アランも十分イケメンだからな。白ベースの上下に、赤に金色のタスキ? あと、紐。なんていうの? 肩のふさふさしてるやつも金、さらに前から不思議に思ってた片側だけのマント。あれなんて言うの? かっこよすぎんだろ。
「セツナ!」
笑顔で手を振る姿に、あ、また1人倒れた。倒れてすっと姿が消えるから、NPC反応しない。強制ログアウト、明日は我が身である。
「やあ、ヴァージル……なんだよその服。反則だろ……」
「反則?」
「わかるー、反則だよな。ただまあ、正式な招待だから俺らこうするしかないんだよ」
アランが笑ってる。
「その服俺も着たい……」
そしてアンジェリーナさんに見てもらいたいっ!!
「まあ、着るくらいならいいが、表に出てもらっては困るな」
「じゃあいいや」
見せられないじゃん。
「聖騎士団に入るかだよ! 入れば好きにとは言わないけど支給される」
「えー、聖騎士団、縛りキツそう」
「まあ、組織だからなあ」
周囲の耳がダンボになってる気がする。気持ちはわかる。聖騎士団ルートとか、知りたいよな。
俺たちの周りを一定の距離を空けて……ドレス着た女子たちがたくさんいます。
「そういえばアランのご家族は怪我とかはなかった?」
「ああ、おかげさまでみんな無事だったよ。地上側はそこまで損害は出なかったようだね。来訪者のみんなのおかげで。終わった後に怪我の治療をしてくれたしさ」
ならよかった。2人はそこが目的だったろうから。
「騎士の礼装かっけぇー」
ダインのつぶやきに苦笑いのヴァージル。
「まあ、これに憧れて騎士を目指す者がいるのも事実だよ」
「聖騎士団の礼装もいいが、こちらはどうだ?」
と、後ろから声がかかる。振り向くと、黒をベースとして青や銀で彩られたこちらもイケメン御用達礼装。
「フェリックスさん」
ソーダが呼びかける。
【翻訳】クエストで俺が囚われのお姫様してた時にソーダと一緒に見つけてくれた、マジックストーンゴーレムの時世話になった騎士だ。
周囲で小さいながら、きゃぁ~と悲鳴が上がっていた。
ソーダ∶
フェリックスも専スレあるからなw まあイケメンというよりこっちはクエスト関連メインだけど。
なんと。
騎士団と聖騎士団の礼装コラボか。
あっ……また……強制ログアウトご愁傷さま。
フェリックス、割と表に出てくる、色々なクエストに関わっている騎士らしい。
「セツナくんは聖騎士団とも関わりが深いんだな」
「たまに遊んでもらってます」
イェーメールの聖騎士団は餌付け済みです。
「今回は来訪者にかなり協力してもらったからね。パーティーを楽しんでくれ。何か伝手が欲しいなら紹介もできる」
その言葉にソーダとダインが色めき立つ。
それじゃあと2人は話しだし、フェリックスと一緒にその場を離れた。
残されて暇な俺は、ヴァージルとアランをチラ見した後、壁際の料理へ向かった。
2人……ついてくる。
「なんか、挨拶とかあるんだろ? 俺はパーティー料理楽しむから放っといてもらっていいよ?」
「挨拶なんてしたい方から来るだろう」
「そうそう。必要なら向こうから越させりゃいいんだよ」
イェーメールの聖騎士団長副団長がそう言って笑う。
クランチャットでは、大臣がだの、大商人がだの、NPCへの接触が忙しそうだった。
こちらは料理への品評会。
「うまっ! なにこれ、魚?? めっちゃうまい」
「まあ、よくあるな……俺はこれよりも案山子のカツサンドの方が好きだが」
「この肉うまっ!!」
「まー、美味しいっちゃ美味しいけど〜案山子の牛丼には敵わないかなぁ」
2人とも案山子に胃袋掴まれすぎだよ。
「セツナ様!」
若い女性の声に何事かと振り向くと、イコルム子爵令嬢、リオノーラだ。子爵と、俺に細剣の専用スキルを教えてくれたハロルドさんも一緒。
「リオノーラお嬢様、お久しぶりです。子爵様もお元気そうですね。ハロルドさんも参加していらしたんですか? ご無事なようで何よりです」
「セツナ殿もご活躍されたようで」
イコルム子爵は鷹揚に頷き、応えたのはハロルドだ。そしてチラリと俺のそばに立つ2人を見る。
「こちらは俺の――」
一瞬次の言葉に悩む。 知り合いって言ったら、拗ねそう!!
「友人で、イェーメールの聖騎士団の騎士団長です」
「ヴァージル・アスターと申します。副団長のアラン・マクイーンです」
「お初にお目にかかります、イコルム子爵様」
「アスター伯爵にはいつもお世話になっております。そして、もしや、マクイーン子爵の……噂はかねがね。素晴らしい魔弓の使い手とお聞きしております」
それぞれ握手を交わしたあと、ヴァージルにニコニコと見つめられる。
「あー、俺の細剣の……師匠みたいな? 専用スキルをハロルドさんに教えてもらったんだよ」
俺の言葉に聖騎士の2人はああ、と頷く。
「セツナ殿はとても素直な生徒でした。飲み込みも早かった」
ヴァージルがそれにうんうんと頷く。
「素直さはセツナの長所だな」
ハロルドとヴァージルがなにやらモンスターについて語らい、アランは子爵と談笑。リオノーラお嬢様は……ヴァージルに釘付け。
ほら! やっぱりこいつ危険だよ!! アンジェリーナさんには絶対近づけられねぇ!!
お嬢様の様子に子爵が気づいたらまずくないか? と思っていると、会場の前方が騒がしくなった。
見たことないオジサンと、見たことあるオジサンだ。見たことがある方は、無翼の王族、つまり新王だ。
てことは、見たことないオジサンが国王様か。
なにやら2人が握手して、歓声が沸き起こる。
そこからは楽団が音楽を奏で、NPCたちが踊り出す。
来訪者もちらほら輪に参加する人たちが増えた。
ソーダ∶
おい、ダンススキル生えるらしいぞ!?
ステップナビに合わせてぴったり踊るといいって。
半蔵門線∶
拙者忍びの者ゆえ遠慮するでござる。
セツナ∶
別にダンスはいらないかな。
ソーダ∶
ちょっとヴァージルに踊らせてみてよ。
セツナ∶
誰とだよ。リオノーラお嬢様勧めたら、俺、子爵様に殺される。プレイヤー相手だと……相手が急に喪失するやつじゃん。
召されちゃうよ。
柚子∶
せっちゃん! サービスじゃよ、サービス!!
ヴァージルに勧めてみるのじゃ!!
セツナ∶
いや、相手どうするんですか。あちらを立てたらこちらが崩壊するでしょこれ。
柚子∶
うちの娘ちゃんがご所望なのじゃ……。
娘ちゃん!? まだ未成年……だからか。動画見たいってこと?
柚子∶
幼稚園児も悩殺するヴァージルパイセンなのじゃ。
娘ちゃーーーん!!!
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これね、ダンスのお相手が決まらなかったんですわ……




