254.豆男が気になったこと
「由香里さん、王族との調整役お疲れさま」
「クラウディア様のお父様がほとんどやってくださったからね。私は提案して、みんなに伝達しただけだよ。それでそうそう、貢献度が高いとドレスコードが必要になるらしい」
「うーん、黒服しかねえな」
「メールで通知があるはず。たぶん救済措置はあると思うけどね。セツナさんもお疲れ様。今なら新王様とお話出来るわよ?」
新王様かぁ。
空の国の人たちみんな精悍な顔つき。で、戦士は別として、みんなギリシャ神話のような布ぐるぐる巻き衣装。趣があって良し。アンジェリーナさんにもこれきっと似合う。
「聞くなら1つだけど」
「いやー、なんか開けちゃいけないパンドラの箱な予感がするぞー」
と、ソーダと言い合っていると、なんと新王様からこちらに近づいてきた。騎士団長さんもご一緒。
「こたびは両国の友好に尽力していただいたと聞いている」
ソーダも天幕で一緒にあーだこーだしてたもんな。
「いえ、歩み寄りが上手くいってよかったです。過去のことを全部水に流すというのはなかなか難しいでしょうが、これから先の未来が、お互いに望ましいものになることを願っております」
ソーダさん、なんですかその口上。準備してたの? 咄嗟に返したなら怖い。
2人の偉い人はうんうんと頷いていた。
そして、俺に視線が集まる。
『ちょっと聞いてみていい?』
『まあ、聞くなら今しかないだろうなぁ』
「えーと、地上で本を読んだのですが、人は海から上がってきて、地上に住んで、やがて空にも住むようになったという話は本当ですか?」
《ヒューマン種族クエストが開かれました。ヒューマンはどこから来てどうやって今に至ったか。世界各地で見つかるヒューマンのルーツの話をお楽しみください》
『ええええええええええ』
『ほらああああああ』
「えっ……」
由香里お嬢さんがお困りです。由香里さんもヒューマンタイプだ。
「ふむ……面白い話を知っているのだな。王宮内にも図書室がある。そこに関連書物もあるだろう。こたびの褒美の一部と思っていい。好きなときに調べるといい」
空の国の王様から許可をいただきましたよ。
「私は初めて聞きました。そんな話があるんですね」
騎士団長様は初耳だそう。
『なんじゃ、せっちゃんがやったんか?』
『だってアンジェリーナさんからのヒントですから』
触りに行く選択肢しかないっ!!
図書室には司書がいるからその人から利用の仕方は聞くようにと告げられた。各地にあると言っていたし、話が長くなりそうだ。今は忙しいからいいやっ!!
ただ、図書室には少し興味があった。
道中見つけたときもそうだけど、アンジェリーナさんの店とのラインナップの違い等をチェックしたいなと思う。
『ま、今日はこれから来訪者祝賀会が始まりの平原で開かれるからそっち行こうぜ』
『あー、じゃあお暇しよっか』
祝賀会はどんな風に開かれるのかと思ったら、なんと、仮設テーブルが山ほど並べられている。
豆の木よりは少し離れた場所だが、アランブレ周辺に入っているので、今回負けた側は近づくことができない。
「というかさ、反対側どのくらいいたんだろうな」
豆の木は、降りるを選ぶと一瞬で下まで移動出来る便利なモノ。今後上がるときも同じようになるらしい。
「セツナっちーッ! こっちッ!!」
背の高い青髪ポニテエルフがぴょこぴょこと。そこまでしなくても目立つんだよね。
隣には見知らぬ獣人さん。グレーウサギ耳の女の子だ。
「お疲れ様! こちら俺のライバル料理人、うさちゃんッ!」
「うさちゃんです! うさちゃんて呼んでください! 案山子ちゃんとはいつも切磋琢磨、香辛料の狩り場情報交換したりしてまーす!!」
「うさちゃん、カレー極めたいらしいから香辛料大切ッ」
「カレー!? 食べたい!!!」
え、めっちゃ喰いたい!!
「たくさんご用意してますよ〜」
「俺のチーズ乗せてよッ」
案内されたテーブルへ向かうと、来訪者入れ食いしとる!!
ナンが山積みになってて、その横に寸胴鍋が置いてあった。
来訪者に混じって、NPCもうろついていた。
俺とソーダもいただいた。
「うまっ!!」
「案山子、クランで作れないの? ヴァージルに食べさせて反応見たい」
「キャー! ヴァージル様に食べてもらえるなら鍋ごと寄付しますー!!」
あ、ヴァージル親衛隊ここにもいたようだ。
頬に手をあてて、体を左右に揺らしている。
「ほんっと、たまたま行き合ったカレーの師匠がいるんですけど、運が良かったです。今は基本的な、米に合うカレーを開発中です!」
カレーは大好きなので全力で支援したい。
さすがに寸胴鍋は申し訳ないので、両手鍋に入るくらいをいただいて【持ち物】にしまい込む。必ず動画にするとお約束した。
と、少し先で大盛り上がりしているテーブルがあった。
「おお! せっちゃん!! 飲むのじゃ〜」
「いや、別に酒はいらん」
「ぇー、柚ちゃんの酒が飲めぬというのかー?」
絡み酒なの!?
周りにもジョッキを持ってる人達がたくさんと、真ん中に樽があった。
「騎士団の差し入れじゃ。つまみは案山子のチーズじゃよ」
まあせっかくなので1杯だけいただくことにした。なんとなく、コップを【洗浄】する。
「あ、生活魔法! 便利ですよね〜」
酔っ払いお姉さんAに話しかけられるので頷く。
「魔法を使えない領域でも使えることが多いですからね」
「えっ!? そうなんですか!?」
酔っ払いお兄さんBが声を上げる。
「今回、竪琴の防壁の中で、スキルは封じられても生活魔法は使えましたよ」
と、そこまで言って、これは俺がマイスターの称号を持つからか? とも思ったが、酔っ払いお兄さんBが同意してくれた。
「その通り! 生活魔法はかなりいい魔法だ。図書館クエ終えてるなら半分以上見つかるしすぐ覚えられるから覚えると便利だよ」
図書館は全部は見られないのか。そうなるとマイスターの道は遠い? 貸本屋も俺が研究室で全巻あるのを確認してから入荷したもんな。
こうして、空の国攻略が無事終わり、来訪者たちの野外パーティーは、リアル時間夜明けまで続いたのであった。
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