252.落としどころ
『セツナ! 攻撃止め』
『ん??』
騎士の号令で冒険者と王宮の騎士が突撃し、残りの敵と対峙して1時間くらい経ったところでソーダから待ったが入った。
同じく、周囲の冒険者というか、来訪者たちが攻撃の手を休める。
『どういうことだ、ソーダ』
パーティーチャットだったので、ヴァージルが疑問を呈した。
『いやー、アランさんたちには悪いんだけど、来訪者の方でちょっと落としどころを探っていたんですよね~。茶番が始まります』
茶番って言っちゃったよ。
急に攻撃の手を止めた来訪者たちに、騎士はもちろん空の国の戦士たちも戸惑っている。 来訪者は後ろ向きに後退し、やがてその中から一人の男性が現れた。
男に翼はない。
だが身なりは戦場にはふさわしくない、なんとも優雅な服装だ。裾をひらひらとさせて、周りに数人の来訪者を付き従え、不自然に空いた空間に進み出た。
真っ白いギリシャ神話の神様が着ていそうな衣装は、空の国の正装だそうだ。
「勇敢なる有翼の戦士たちよ。そなたらの勇姿はしかと見届けた。だがもうこれ以上お互い無駄な血を流すことはやめよう」
何やら声を響かせる道具を使っているらしい。
拡声器なんだろうけど、メガホンみたいなあれじゃない。マイクでもなかった。口元に近づけているのは小さな青い石だ。
「地上の騎士たちよ、200年前の我々の友好へ思いを馳せてほしい」
まあ、思い出せはしないだろうな。代替わりしまくってるから。
「地上の国の人々よ、説明不足、言葉足らず、すれ違いにより我々は望まぬ事態に追い込まれた。決して、我々空の国の者すべてが、地上の国とこのような諍いを産みたいとは思っていなかった。いまいちど、話をすべく席に着いてもらうことはできないだろうか!」
そのとき、空の国の軍勢の奥より、人が進み出てきた。今話している彼と同じように白い衣装を纏った、今まで戦ってはいなかった者だ。
「何を血迷いごとを! 地上の国は攻めてきたのだ!! 今まで一切の関わりを断っていたと思ったら、急に我らの領域を侵犯し、戦意を明らかにしたのではないか!!」
おおおおとか、そうだ、と声が上がる。
と、地上の騎士も声を上げた。
「此度の領域侵犯は、正直こちらもあずかり知らぬところだった。だが、こうやって巨大な木が生えて、そちらの国を脅かしたのは事実。謝罪をと使わした使者を切り捨てたのはそちらだろう!」
さ、さ、さ、さーせん!!!
「侵略を企てる使者を国に迎え入れるわけがなかろう!」
叫ぶ空の国の者――王様っぽい――を、最初に話し出した男性が止めた。たぶん、彼が来訪者の用意した、無翼の王族だ。
「地上の国の騎士よ、無下に切り捨てたことは謝罪する。もしも、話し合いの席に着く気持ちがあるなら、我々の言葉を聞いてくれ」
「馬鹿を言うな! 話し合いなどと――」
「馬鹿者はお前たちだ! 有翼だと? 今は無残に炎で焼かれた飛べない翼を持ったものたちではないか!!」
ボロボロの戦士たちが悔しそうにしている。
「有翼だ無翼だと、国の中で言い合っている我らがどれだけ愚かか、いい加減に現実を見つめろ!!」
無翼の王族の言葉に、あたりはしんと静まりかえる。
「これは契機だ。空の国は深刻な物資不足である。いまいちど、地上の国との国交を再開し、お互い支え合うことができればと私は思う」
「事情をすべて知っているわけではありませんが、来訪者の代表として、私も双方にとって利のある話が出来るようお手伝い出来ればと思います。来訪者は、地上の国にも、空の国にも、これ以上争ってお互いを傷つけ合わないでくれと思っているのです」
あ、よく見たら無翼の王族のそばにいるの、由香里さんだ。
そして、由香里さんの言葉が終わるとそこら中の来訪者から声が上がる。
「戦は終わりだ!」
「戦っても何も得られない!」
「それよりも友好を!」
などと建前が飛び交う。サクラ仕込んでますね。
『空の国のダンジョンいきたーい!』
『空の島の食べ物チェックしたーい!!』
『浮遊石気になるでござる~~』
本音がヒドイ。
『君たちは……』
ヴァージルの呆れ声。
ヴァージルたちからしたら遠い昔の争い事で、正直そこまでの恨みつらみは持ち合わせていない。争いなどない方がいいと思っているとのこと。
「それでもまだ、有翼だ無翼だと国の中で争い続けるというならば、我らはそなたらを殲滅し、地上の国の王と手を取り合って行くこととする!」
我らというのは無翼ということだろう。
有翼の王族が顔色を変える。
完全に脅しだ。
だが、うん、翼がほとんど焼けちゃったのだ。俺の【青炎】もだし、その後やたらと火系の魔法が飛び交ってぱっとみるだけでも翼が無事な人がいない。
「さあどうする!!」
「……無翼風情がっ!!」
声を荒げ、1歩前に出たとき、すっと、まるでそこに最初からあるかのように、1本の矢が有翼の男の胸に吸い込まれた。
男が声も無く倒れた。
無翼の男が前に出る。
「有翼の戦士たちよ、王は倒れた。まだ戦うというなら進み出よ! 話し合いをするならば、その手に持った武器を投げ捨てよ」
こうして茶番は終わった。
びっくりするほど暴力的でした。
《空の国ケルムケルサ解放クエストが終了しました》
《地上の国の勝利です》
《地上の国側で参戦したプレイヤーは空の国に入国許可がでます。詳しくは特設サイトでご確認ください》
《空の国側で参加したプレイヤーは、しばらくアランブレ周辺に近づくことができません。他の街でゲームをお楽しみください。不参加のプレイヤーは2週間後空の国への入国許可がでます》
セツナ:
これで地上側の勝利になるんだね。
ソーダ:
あー、これ、地上の王様側も知っててやってるからな。それにしても負けた側のペナ辛いな。
ピロリ:
わあい!! ダンジョンダンジョン♪
柚子:
楽しみなのじゃぁ~!!
セツナ:
でもこれから話し合いなんだろう?
八海山:
そうだな。まあそこは基本由香里さんがメインで進めてくれるらしいよ。
ソーダ:
一応呼ばれたら行く予定だけど。……って呼ばれたわ。セツナも行くか?
セツナ:
え、俺?
ソーダ:
だってお前の種じゃん。
ばらされるのおおお!?
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