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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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25.石を捕る!

 目の前で繰り広げられる風景に俺は絶句する。

 石を切り出すんだと思ってた。

 だが、今、彼らは――


「ハンマーで右腕始末しろ!」

「関節だぞ! 肘だ! 肘部分を狙え! 材質第一ぃ!」

「任せろ!」

「充填完了! サンダーボルト行くぞぉ!」

「総員退避!」

「ポイント集中!!」


 ……何?


 石をとってた。確かに。

 石を捕っている。

 これ、たぶん――、


「よおセツナ起きたか! ストーンゴーレムは足は遅いから逃げ切れるだろ?」


 石の確保の仕方、そーゆうやつなのかっ!?



 ストーンゴーレムは完全パワー型。採掘場の石が謎の力によって組み上がったモンスターだ。くず石が、ストーンゴーレムに変貌することによって、上質な石となる。

 ハザックたちのような石積み職人にとって垂涎の石材となるのだ。動きは遅いが一撃を食らえば致命傷。かといってむやみにハンマーを振るえばせっかくの上質の石材の品質が落ちる。


 そこで、まず狙うは足の関節。膝だ。動けなくしてしまえばこちらのもの。とは言えない。腕をぶんぶん振り回し、近づけないようにしてくる。

 膝を砕くのは懐に入りハンマーだが、この腕ぶんぶん攻撃には雷の魔法らしい。

 職人はちょうど10人。3体のストーンゴーレムがそれぞれ無残な姿になり果てようとしていた。


 1つは沼のようなところに下半身がはまってしまって身動きがとれていない。腕を振り回している。2つ目は片足が膝から下がなく、起き上がれずに寝転がって腕をバタバタ振り回していた。3つ目は両足がくっついて棒立ち状態。しかもこちらは腕も前で束ねられている。細い糸のようなものか?

 

 最後にサンダーボルトが腕の肘にあたる部分に命中して、肘が動かなくなった。しびれた?


「よし、まずは肩を外せ!」

 ハザックの号令で、職人たちがそれぞれ工夫し駆け上がった。みんな何かしらスキルを持っているようで、俺にはとうてい無理な登り方をしている。

「矢をあの肩に穿つ。そうして肩から腕を外すんだ」

 先の方が細い、矢と呼ばれるクサビのようなものを、小さなハンマーでカンカンと音を鳴らしながら穿って行く。それが3人分。3つが入る頃には石が縦に割れて腕が落ちた。


「ああやって身体から切り離された腕はもう動かねえ。こっちのもんさ」

 右腕左腕がもがれたら、その頃には雷でのしびれがとれていても動かす部分がなくなる。

 地面がぬかるんでズブズブとはめられていたはずのゴーレムは、いつの間にか身体が膝くらいまで押し上げられていた。今は右足付け根に矢が打ち込まれている。

 片足の膝が破壊されていたゴーレムはなんとかもがいてはいるが、代わる代わる打ち込まれる矢に、足を動かしていたのが仇となり、他より早く足が外れた。

 そうなるともうこっちのものだ。ストーンゴーレムに可動域は首のみ。

 ちょっと可哀想になってくるな。


「セツナも打ってみるか?」

 え、一番可哀想なんだけど、首……。


 それでも面白そうで首に手を出しましたよ。

 職人たちはそれは見事に軽々と打っていたのだが、釘打ちのようにはなかなか上手くいかない。

 叩く力が弱ければいつまで経っても石に入っていかないし、強すぎると先が滑って手を叩いてしまいそうで怖い。

 ようやく矢がある程度入ったときには、他の2体はバラバラに分解されていた。そして、俺も1つ目の矢が入り、他に2つ入れたところでパキッと音がして胴体から首が離れる。


「よし、お疲れさん」

「親方、あと2体くらい行きますか?」

「うーん、あと3、いや、4体欲しい」

 だけど、この石どうするんだ? と思っていたら、親方が持っていたガマ口の大きいバックにぽいぽいっと吸い込まれていった。

 びっくりして見ていると笑われる。

「なんだ、セツナは知らんのか? アイテムポーチだ。しかもこれは大量の石をしまえるかなりレアなものだぞ。これを売れば一軒家くらいは軽く手に入る」

 えええ……めっちゃ欲しい。

「さすがにやれん。俺もこれを手に入れるのにかなりの金を払ったからな。石積みにとっては何にも代えがたい宝だよ」

 どう考えても口の大きさが違うのに、すーっとゴーレムの胴部分が吸い込まれて行くのが面白い。


「今のお前さんじゃ、動いてるゴーレムに手を出すのは無理だろう。そこは職人に任せたらいいが、矢を打つ練習はしておけ。今後のためにもなるだろう」

 今後のため……てなんだろう。

「ハザックさん、俺、建築に興味はあっても建築士にはなれませんよ?」

「何っ!? じゃあなんでここまでついてきてるんだ!?」

 いやいやいやいや、強制! 強制だったよ! 拒否権なしだったって!!


「なんだ。てっきり俺は……」

「いや、建築士楽しそうは楽しそうですけど、まだ決め切れてないというか、やりたいことたくさんありすぎて、こう……」

 楽しそうな現場ですが、本気でやらないといけない系でしょ。これ。

「……来訪者はだいたいこういった街の中でする仕事と、外での狩りを両立させてるから、てっきり……」

 ええ、なんか父親がっかりさせてしまった感じで罪悪感がすごいんだが!!

「こ、今回の船旅とか、すごく楽しかったですよ。だから、是非またとは思うんですけど」


 俺の言葉に、しょぼくれていたハザックがばっと顔を上げる。めちゃめちゃ嬉しそうな顔してる。あれ、また言葉間違った?


「そうかそうか。ならまた石材採集があったら呼ぶとしよう。他にも金属や木材ももちろん使う。業者はあるはあるが、自分で採取しに行くことも多い。連れてってやるよ」

 強制参加決定ぃ~!?

 なんなんだこれー!

 

 その後宣言通り4体のゴーレムを倒して、船に戻る。

 アイテムポーチ底知れなくて怖い。でも欲しい。

 帰りは船に戻ってしばらくしたら俺の就寝時間。次目が覚めたときはあと少しで帰ると言うところだった。

「セツナ! 海に愛されし男よ。釣りをしよう」

 船員さんたちに誘われて海釣り再開。山ほど、山ほど捕れた。ここまで釣れると楽しいな。【ビギナーズラック】が終わってしまった後、釣りをするのが怖い。そして、何日ぶりか、街に戻ってきた。

 とはいえ、すぐに解放されない。

 なぜなら石積み用の石を採ってきたのだから、これから石積みが始まるのだ。


「ちょっと、ちょっとだけクランに寄らせてください。山盛りいただいた魚を預けてきたい!」

「おうおう、じゃあ門兵には話しておくからなるべく早く戻ってこいよ?」

「わかりました!」

 このやりとりでようやくクランへ戻るのタブが明るくなる。今までずっとグレーで、無理矢理帰還できなかった。


 また消えたら怖いし速攻でぽちっとなしてクランへ。共有ストレージに魚とクラーケンを放出した。


セツナ:

クランのストレージにもらった食材入れておくんで好きに調理してください。


 クランチャットにメッセージを残して、再びお城へ向かう。

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


大量の腐らないお魚とか、最高だ……

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