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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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242/362

242.ファマルソアンから見た世界

 エルフの知り合いはいないかと言われて思いつくのがファマルソアン。あの人いくつくらいなんだろうな。

 またもやアランブレの店にいるというので会いに行った。もう夕方だけど、街はいつもより人通りが多く、ざわついている。NPCの声が漏れ聞こえてくる。大丈夫か、戦になるのかと不安な話題が多かった。


「いらっしゃいセツナさん」

 ファマルソアンの笑顔に陰りはない。だが語る言葉はなかなかに物騒だった。


「戦況によってはここから店を撤退させるつもりですよ。なかなかよい商売をしてきましたが、空の国の支配が伸びてくるというならば、面倒ごとの方が多くなりそうだ」

「他の商売人さんたちも同じような感じですか?」

「そうですね、概ね意見は一致しておりますよ。確かにどこにいても王国の支配下ではありますが、空の国との距離の大小でかなり変わってきますから。気の早い貴族は王都の移転などといった話もしておりますね」


 最悪そういった方向にもなるのか。となると、クランハウスの価値が下がってしまうじゃないか!!


 あと、アンジェリーナさんの身の危険がっ!!


「地上と空の国の確執について、ファマルソアンさんは知ってらっしゃいますか?」

「我々は長命種ですから、多少は把握しております。とはいえ、200年前ですからね、私はさすがにわかりませんが、父から色々と話は聞いております。というのも、空の国の宝である黄金の卵がございまして――」


 そこから空の国との物資のやりとり、そして代わりに支払われたのが黄金の卵であるという話を聞いた。年間、(トン)レベルで食料を輸出していたらしい。有翼(イータ)が籠を抱えて毎日往復したのだという。


 ケルムケルサへ輸出する作物の農地が、以前はたくさんあったそうだ。


「食べ物があれば人が増えます。ですが、空の国に住める人数には限りがあった。人口が多くなると無翼(ムルス)の民が地上の国で暮らすようにもなる。元はと言えば、この地上の国は、空の国ケルムケルサから降りてきた人々という話も伝えられておりました。さすがにこれは、どこまで本当のことかはわかりませんが」


 ファマルソアンは笑いながらカランの淹れた紅茶を飲んだ。


「でも、空の国の方々と、アランブレの人々の容姿はそう変わらないはずです」

 それは、確かに。俺は3人しかみていないが、みんなヒューマンタイプだった。


「この店はかなりの儲けを出しておりますし、ぜひ、戦には勝っていただきたいとはおもいますがね。地の利とでも申し上げましょうか、戦地を地上にしたら負けるでしょうね」

 そういったファマルソアンはいつもの笑顔を引っ込めた、それはそれは怖いイケメン顔をしていた。


 空人(そらひと)の戦士には翼がある。あれは強力なアドバンテージだろう。


「空の国では、王侯貴族はわかりませんが、普通の翼のない人たちは食べるものに苦労しているようでしたよ」

 俺が言うと、ファマルソアンはじっとこちらを見る。


「セツナさん……行きましたね?」

「へへへ」

「はあ、来訪者は本当に、無茶をする」

「いやー、そこに空島があったら行きたいでしょう?」


 俺の言葉に口を曲げて睨んでくるファマルソアン。

 この間のヴァージルの方が怖かったから効きませんよ!


「しかし、こうなると、戦争だけが解決の道ではないように思えますね~」

「本来無関係の来訪者のあなたが言うのならそうでしょう。ただ、貴族は基本戦う気ですよ。そうなれば王も戦えと命ずるしかなくなります」

 それは意外だった。


「戦いたいのですか?」

「昔から空の国を欲する派閥は尽きないようですよ。今も、空への道が出来上がった途端、敵だ味方だかなぐり捨てて、進軍を押し進めようとしてらっしゃるようです。そう、聞いています」


「戦わないで済むのならばと思っていたんですが」

「それは難しいでしょうね。そのつもりがあるとするなら、来訪者の参加を募ってなどおりませんよ。引っ込みがつかなくなるでしょう?」


「確かに」


「第7都市にクランハウスを求めるのならお手伝いできますよ」

 ファマルソアンはにこりと笑った。




 始まりの平原に、白い天幕がいくつも張られている。

 日がすっかり暮れた、いつもは静かなミュスの狩り場が今日はとても賑やかだ。NPCの騎士が多くうろついていて、プレイヤーも同じように行き来している。

 すでに何人も空の国に捕まっているらしい。頑張りすぎだよ~。


 今は天幕の1つを借りてプレイヤーたちが相談をしていた。スレッドで情報交換はしつつも、基本事実をとりまとめているだけだ。気持ちなんかは書いていてもあっという間に流れていく。


「貴族は侵攻派と和解派の大きくわけて2つがあるようです。家門の勢力なんかでちょっと複雑だそうですけど」

 そう話すのは黒髪ボブのすみれ色の瞳、由香里さんだ。クラウディアお嬢様と絆システムで結ばれたプレイヤー。


 中央には丸いテーブルがあり、その周りを10人ほどが囲んでいる。


 由香里さんは貴族からの情報を中心に手に入れているらしい。うちのクランはソーダと半蔵門線が円卓に着いていた。


「忍者仲間からの情報では、あちらさんも同じような感じだそうでござる。ただ、あちらは王族も侵攻派なので、基本攻め入る気満々という点が違うでござるね」


「僕たちとしては、空の国という新しいフィールドを手に入れたいので、できれば和解を望みたいですね。そういった道があるとすれば、ですけど」

 黒豆の言葉にダインも頷く。


「島Aになんかいいダンジョンがありそうだってよ」

「ダンジョンは……保護したいっ!」

 知らない人がうんうん頷いている。


「王子落下事件の真相とかは、何か得られた?」

「空の国は1度与えたモノを返す、返されるということに強い忌避感を得るらしい。たとえ返さないことでお姫様が亡くなってもそれは仕方のないことだったそうだよ」

 ソーダの言葉にみんなが、えーっと眉をひそめる。命の方が大事だよね。


「戦力的にはあちらの有翼(イータ)が風魔法も使ってかなり強いらしい。1人に対し3人がかりになることもあるくらいだと」

「忍者になれるくらいのレベルでも、敵わなかったそうでござる」


「全面戦争になったらかなり厳しい戦況になりそうだな」

 ジラフの言葉にみんなが頷いた。

ブックマーク、評価、いいね、感想、ありがとうございます。

誤字脱字報告も助かります。


第7都市にセツナくんを連れていきたいファマルソアンさん。


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>「第7都市にクランハウスを求めるのならお手伝いできますよ」 残念エルフかっこよくない?
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