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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む  作者: 鈴埜


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240/362

240.空の国の子どもたち

「とりあえず落とす気はないし……その薬草採りに行こうか、で、とっとと森から出よう?」

 地上の国の人という不審者と、モンスターという目の前の危機。天秤に掛けて悩んだ末、子どもたちは俺と一緒に薬草を採りに行くことにしたらしい。


 妹の方は、兄に隠れたままずっと警戒しているが、兄の方はだんだん慣れてきたのかよく話すようになった。


「今中央は大騒ぎだって、島守が言ってた。昨日からみんな忙しそうで、いつもなら薬草採りに大人がついてきてくれるんだけど、動ける大人は中央に行ったり、島渡しのあたりを警戒していてこっちに構う暇がないんだ」

「そっかぁ~薬草って保存きく? 多めに採って行こうよ」


「うん! セツナは中央の方になんで行かなかったの?」

 そりゃ捕まるのが嫌だからですよ……。

「空の国を攻めるなら中央の宝を狙うのが当然だってみんなが言ってたし」

「みんなって大人の人??」

「そう! 空の国が無敵であるのは竪琴の絶対防御と、雌鶏が産む金の卵のおかげだし」


 この子……国防に関することをべらべらと!! ダメだよ!


「別に俺は空の国の人と喧嘩したいわけじゃないしなぁ~」

「えっ!? そうなの!?」

「まあ、俺個人は。どちらかというと、空の国を探検したいなぁ~」

「そうなんだ……」


 子どもたちは複雑な表情をしていた。

 閉鎖された空間で、地上の人間は悪者! って教育を受けていたのかな?


「ほら、俺は最近この世界に来た来訪者だから。空の国と地上の国の因縁は知らないんだよ。……因縁って言葉わかるかな。えーと、確執……も難しいな、仲が悪くなった原因?」

「原因は、せっかく嫁いだお姫様を物のように突き返してきたからだよ」


 ほほう。中央に住んでるでもない子どもにもそうやって伝わってるんだな。


「へえ~そうなんだ」

 その前の情報がこちらにはあったが、いやしかし、全部本の通りとは思わない方がいいんだろうな。だって、書いてるのは地上の国の人なわけだし。歴史書って難しいもんね。誰だって自国を悪くは書きたくない。


「1度嫁いだお姫様はもう王族に戻ることもできなくて、隣の島で寂しく暮らしたんだ」

「隣って?」

 少年、オーキが黙って右手の方を指す。んー、島Eだな。


セツナ:

島Eに送り返された姫さんが住んでたらしいよ!


ピロリ:

セツナくんどこでそんな情報抜いてきてるのよ……。


セツナ:

空の島の子どもと薬草採り中!!


柚子:

せっちゃん、相変わらず自由が過ぎるのじゃぁ~



「姫様は泣いて暮らしたのよ」

 お姫様の話になると急に前のめりになる少女アナちゃん。

「なんで泣いてたんだろうね」

「えっ! だってせっかく嫁いだのに還されたんだよ?」

「てことは、地上の国はいいところだったんだね」


 俺の言葉に子ども2人は黙り込んでしまった。

 違うのかな??


「あ、あれじゃないの? 薬草」

 グッドタイミングで薬草さんが現れた。オーキの顔が明るくなる。


 2人は走り出すと、持ってきていた袋に詰め込み始めた。服装もそう悪くないんだよな。ごくごく普通の平民。空の国はそれなりに暮らしていける場所なんだろう。自給自足で事足りる。足りていた。

 そこへ長年国交を断っていた地上から、天をつくような木が生えてきて、雲を突き抜け中央の島を突き抜けてきたら、……警戒するよなぁ~。


 そんな2人を見守りつつ、お仕事をした【気配察知】さん。

「セツナ、どこ行くの!?」

「ちょっとその先にモンスターがいるから始末してくるよ~2人はせっせと薬草集めておいて。帰ってきたら森の端まで送るから」


 先ほどと変わらないとは思うが、万全を期す。

「【火付与】」

 【フロストダイス】からの【業火】でいっちょあがりだ。


 大きな狼を始末して帰ると2人は不安そうにしていた。だが、俺の姿を見ると笑う。

「たくさん採れたよ!」

「これでお母さんの調子も元に戻るよ!」

「それはよかった」


 森も結構木がしっかり生えているし、そんな悪い森に見えない。空の国は平和なんだろうな、と思った。


 が。


 森の端まで来たところで2人に家まで来てくれとせがまれた。

「俺はほら、地上から来たから、お母さん驚かせちゃうよ?」

「世話になった人にはお礼をって、お母さんが言ってるから!」

「セツナ、うちでご飯食べていこう? ね!」

 村の人たちはほぼ出払っているという。それでも見かけぬ俺の姿は目につくだろう。


 何度も断るが、2人が容赦してくれない。まあでも1回は来訪者特典で逃げ切れるらしいし、いっかぁとついお子ちゃまには流されてしまう俺だった。

 弱いんだよね~お子ちゃま。


 そうして顔色が悪いお母様と対面し、思わず鑑定してしまった結果、やっぱりついてこなけりゃ良かったと思いました。

 お母さん、栄養失調だよこれ。


 空の国、それなりに困窮している模様。


「お母さん! 薬草採ってきたよ。煎じて飲めば元気になれるよ」

 俺の姿に釘付けの母親に気付かないでか、子ども2人はバタバタと薬草を飲ませるために準備を始める。なんとも気まずい。オーキくん、紹介してよお願いだから。


 無言を貫く母親に、俺は【持ち物】からカツサンドを取り出した。

「とりあえず、食べます?」


 今までの経験が言っている!

 まずは胃袋を掴めと!!

 たぶんこのゲームで最強は料理人だ!!


「わあ! セツナそれなに!?」

「お肉をパンではさんだものだよー? 2人も食べる? お薬を飲む前にご飯にしようか」

「食べる!!」


 とりあえず俺が毒味ということで食べてみせる。まあ、子どもたちそんなのお構いなしに口に持っていってたけど。

「おいしい!!」

「おにく、おにくひさしぶりにたべた!!」

 えー、育ち盛りの子どもたちがそんな状況なのぉおお!! 可哀想に……。そういえば空の国のタンパク源何なんだろう?


「お母さん、すごくおいしいよ!」

 子どもたちの純粋な目に負けて、お母様も食べ始める……そして止まらない。

 美味しいよね、案山子のカツサンド。聖騎士様もどっぷりはまってるよ。


「セツナのご飯美味しい!」

「正確には俺の友だちが作ってくれたご飯だけどね~。2人はお肉食べないの?」

「お肉は高級品だよ! 戦士様が空の魔物を捕らえるけど、俺たちにはほとんど回ってこないよ!」


 タンパク源……。

 母親をチラリと見ると、とてもとても暗い顔をしていた。

「豆類は食べてる?」

「うん! お豆のスープをいつも食べてるよ!」

 植物性タンパク質中心かぁ。2人ともすごく細いんだよな。腕とか俺でも折れちゃいそうなくらい細い。


「ご飯を食べたらお薬だね!」

 2人は先ほどの薬の準備の続きに取りかかった。

ブックマーク、評価、いいね、感想ありがとうございます。

誤字脱字報告も助かります。


▶胃袋つかむ


てコマンドがありそう。



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― 新着の感想 ―
竪琴と琴の卵を産む鶏……今回の話はせっちゃんと豆の木か……(遠い目) 馬鹿が木を切り倒さないと良いですね。 〉せっちゃん、相変わらず自由が過ぎるのじゃぁ~ バカ笑いしながら、うんうんって頷いてました…
土から離れては生きられない…ッ
栄養失調は薬では治らないよね。 案山子さーん!出番ですよ〜!
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