24.クラーケンは大砲で
クラーケンとかいったら、もう、海の魔物の二大巨頭みたいなもんだろう。
クラーケンと、レヴィアタン。ちょっとクラーケンの方が弱いか。聖書に載ってるの強い。まあとにかく有名だよな、ファンタジーにおいて。
しかし、蟹どころじゃない。絶対これ、俺のレベルじゃ敵わないやつ。
船室でぷるぷるしておこ……。
NPCの前で死亡すると、運が良ければNPCが神殿の救護院送りにしてくれる。救護費用が持ち金から差し引かれて、追い剥ぎ院とも呼ばれているらしい。本当の全滅はゲート送り。持ち金になんの問題もなし。LVで蓄えられていた経験値の1%が消える。つまり、100経験値で次のレベルになるとすると、1経験値が消え失せる。
低レベルの頃ならいいが、高レベルになるとこの1%がとても辛いことになるらしい。
NPCは不思議と元通りの生活を送って、あのときは危なかったな、お互い無事でよかった風に流れるという。あまり突っ込まないであげて、NPC発狂しちゃうからと、公式にお達しがある。
それでも。
死にたくないよおお。
「これ、生きて帰ることできるんですか!?」
ぷるぷるしてる俺を、職人は笑い飛ばす。
「ここらの海域ではよくあることだし、船長はクラーケン殺しの異名を持つ猛者だぞ。大丈夫だ。一応大砲でサポートするから俺はそれを手伝う。セツナはどうする?」
大砲……ガレオン船なのはそのせいか。
船嘴から中へ行く。階段を降りるとそこには船の左右にずらりと大砲が並んでいた。
「手伝うならこれしとけ」
耳栓をいただく。音というより鼓膜の保護。大人しく耳に詰めておいた。あとは手振り身振りで奥へと向かう。
一番端が一つだけ誰もおらず、俺と職人がそこに立つと目の前に文字が現れた。
《ミッション! クラーケンの目玉を潰せ! クラーケンは船体に手足を巻き付け船を沈めようとしてきます。タイミング良く大砲をぶつけて剥がし、目玉を狙いましょう》
おおおおおお、結構本格的なんだが!?
職人と、海の男たちが、雄叫びを上げる。
後ろからバケツリレーよろしく弾が運ばれてきた。職人――モランが大砲の砲口をハンドルを回して変えた。眼前には灰褐色のクラーケンの足が見える。
受け取った弾を詰めると、モランが装薬する。そして蓋を閉めて点火の付け火を俺に渡してきた。
親指を立てて良い笑顔で頷いている。
とりあえず足を始末しないと目が見えない。
垂れ下がってる芯に火をつけると耳を塞げとジェスチャーされた。
そして大爆発。
腹に響くドオンと言う音とともに弾が飛んでいき、足に命中した。
他の砲台からもいくつも弾が飛び出して、目の前の足が落ちて行く。
《クラーケンの足を2本倒しました。本体が現れます》
これは目玉チャンス! 次の準備だ。熱くないのかと心配したが、平気らしい。というか、大砲ってこんなすぐ発射できるの? 知らないけどさ!!
弾を込めて装薬、からのよく狙う。俺の方でもハンドルを回して微調整。
と、足と足の隙間から真っ黒な目が見えた。
今だ! と着火。最後の微調整。
ドオンと音がして、アナウンスが流れる。
《ミッションクリア! クラーケンの目1つが潰されました》
海がすごく荒れていて、船の中は大揺れに揺れている。そこら中にぶら下がっている縄に捕まってなんとか耐えているが、このアトラクションちょっと大変です。
と、外が真っ白に光り輝く。暗い船室にも、砲台の隙間から眩いそれが漏れてきて、俺は思わず腕で目を覆った。
やがて、荒れまくっていた波が引いていく。
職人や船員が歓喜の声を上げた。
自分の目の前だけに花火が上がる。どうやらレベルが上がったようだ。
頭の上に花火が上がるのは恥ずかしいので、エフェクトは切った。
「お前ら、ぼさっとすんな! 足を引き上げろ!」
「アイアイサー!!」
あ、あいあいさぁー?
き、筋力が欲しいと思える作業。今度はバランスじゃない。純粋な筋力! 獅子座の宝珠装備したいです。
「セツナは力ないなぁ」
「それじゃあ立派な海の男になれないぞ!」
とか言い出して最終的にみんなから筋肉自慢を受けました。
ちょっと暑苦しい。やめて。筋肉それなりについてるのはいいなって思うけど、ムキムキお断りだし見せびらかされても。
船長まで参加するのやめてください。
「もう少し鍛えないとな!」
がしっと船長に肩を掴まれたけど、この新しく手に入れたステータスポイントは死守する所存。まだ振る先考えさせてくれ。
本体は船長の雷魔法とやらで黒焦げにしたそうだ。それはこのガレオン船では拾えず、海の藻屑にする。その代わり、最初に大砲でちぎった足が浮かんでいたのでそれを回収。タコかイカかわからんが、足はとても美味しくいただけるそう。ただし、生はダメ。
「少し持って行くか?」
「え! いいんですか?」
「得た物は等しく分配だ。まあ、基本ここで食べてしまうけどな。今日はセツナの釣った魚もたくさんあるし、【持ち物】に入れておけば一週間は持つぞ」
これは、料理の元になるやつ! わーい。たくさんもらってる料理のお礼ができる。実際は【持ち物】やストレージに入れておけば食材はずっと保つらしい。
いただいた分以外は、船室の調理場ですぐさま調理された。食事の時間だ。普段は交代で食べるらしいが、クラーケンが出たあとの海は平和そのものらしい。しばらくは平気だろうと、甲板でみんなでごちそうとなった。
魚は焼いたり、揚げたり、もちろん刺身もある。
クラーケンの足はバターと醤油が一番美味かった。醤油あるんだな。まあ、日本のVRだから基本あるよな。
開発元が日本で、俺が参加してるのが日本エリアの中のサーバーの一つだ。
「しかし、幸先がいいな。【クラーケン殺し】が乗ってる船にクラーケンが出るとは」
「その前の釣果もクラーケンのせいだったと言われれば納得だ」
【ビギナーズラック】です、たぶん。
その後は、甲板の掃除をさせられ、交代の見張り。高い物見にも上った。
そして、おやすみなさいの時間だ。ハンモックを借りて、就寝。
起きるともう島に着いていた。
「おう! 起きたか来訪者。なら船を出してやる。ハザックたちはさっき上陸したところだから、走れば追いつく。頑張って石採りしてこい」
ガレオン船から小さな船に乗り換え送ってもらうと、言われた道を走る。心配していたようなモンスターも出ず、採掘場に無事着いた。
採掘?
ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。
ゲソのバター醤油大好きです。




